第10回中国人の日本語作文コンクール 最優秀賞・日本大使賞 「ACGと私 ACGと日中関係」 姚儷瑾さん(東華大学) 「日本大使賞」受賞者と木寺大使、主催者の記念写真。日本僑報社提供 「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのか」 これは『機動戦士ガンダムSEED』で、幼なじみの主人公2人が立場の違いにより、相手を殺さなければならない状況下で抱いた疑問です。 「戦争の意義って何?」これは私がこのアニメを見た後ずっと考え続けている問題です。 当時、14歳でしかなかった私には、この問題は意味深すぎたのですが、日本のACGは精緻(せいち)な場面のある作品だけではなく、ACGを通じて伝えたい作者の世界観も面白く、見る価値があると私は感じました。例えば『ガンダムSEED』の中では、遺伝子工学というハイテクをめぐって起きた倫理的問題が発端で戦争が起こるのですが、アニメを見る前はこんな展開になるとは思いもしませんでした。また、このアニメはフィクションですが、描かれている戦争の場面は大変リアルで、命のもろさを丁寧に描いていました。そして、この戦争の切なさは私の頭に深く印象に残り、今の世界情勢を少し自分の身に近づけて考えてみようと思い始めました。このアニメがきっかけで、私は日本のACGに興味を持ち、せりふをより理解するため日本語を勉強し始めました。 『ガンダムSEED』を見てから既に6年。今、私は日本語学部の学生です。日本語を勉強して2年目、授業中、先生と学生が何度も日中関係をめぐって、討論をしました。「日中関係がますます悪化し、最悪の場合、戦争になる…」。先生がそう話したそばから、私は『ガンダムSEED』を思い出しました。アニメの中に描かれていた、戦乱のため、自分が自分の親友を殺さなければならない場面。私は絶対に経験したくないです。こう考えた私は、あるACGマニアが集まるウェブサイトにこう記しました。 「人が命を失っても、戦争で訴えたいものは何ですか。利益、正義、それとも、ただ殺された人のための復讐(ふくしゅう)ですか。もし戦争が起これば、必ず誰かが殺されます。殺された人のため、また誰かを殺します。こうして戦争は永遠に続きます。その戦争の傷はどれほど大きい勝利でも癒やせません。私は心から日中関係の平和を祈ります」 すると2日目、意外なことに、ある日本人が私のコメントに返事をくれたのです。 「私もそう思いますよ」 返事は大変短いものでしたが、私にもたらされた感動は大きかったです。ACGがきっかけで日本人と交流できることには驚きましたが、より収穫だったのは日中の平和を祈っているのが私だけでなく、日本人の中にも中国に好意を寄せている人がいることが分かったことです。その後、ACGがきっかけで何度も日本人と交流する機会を得ました。互いに好きなアニメについて話し合っていると、様々な共通点が見つかりました。国籍が違っても、彼らは私の周囲の友達と全く同じです。交流した後、中国人への印象が変わったと私に言ってくれた日本人もいます。日本語学部の一学生にすぎない私ですが、自分の力が少しでも役立った気がして、うれしかったです。 今の日中関係悪化の原因は、政治の原因以外に、双方の理解不足も原因の一つだと考えます。日中戦争の暗い影の下で、日本人全員が悪いと思っている中国人は少なくないでしょう。しかし、これは事実ではありません。現在、中国人に人気がある日本のACGにはこのような誤解を解く力が秘められています。好きなACGについて話し合いながら、相手国の姿を確認し合う、これは新たな文化交流の形になるかもしれません。 そして、日本語を学ぶ学生は可能な限り、日中の交流を深めていくべきだと思います。例えば、定期的に日本のACGマニア大会を開催するなど、同じ興味を持つ日本人と中国人を誘い、私たちが通訳として、彼らの交流の手助けをすれば、きっとみないい友だちになれるはずです。小さなことから努力すれば、きっといつか日中関係がよくなると思います。 『ガンダムSEED』のラストのように、永遠の平和を祈ります。 ※関連報道 |