「メイドインジャパンと中国人の生活」へのご招待

段 躍 中

(日本僑報社編集長・日本湖南人会会長)

20113月号「経済広報」に掲載された段躍中の寄稿

 

 

 

2005年に開始した「中国人の日本語作文コンクール」

日中両国の相互理解をどう深めていけばいいのか。1991年に来日した後、日中の草の根交流を促す活動を続けてきた。その一つが昨年で6回目になった「中国人の日本語作文コンクール」http://duan.jp/jp/である。この回のテーマは「メイドインジャパンと中国人の生活−日本のメーカーが与えた中国への影響」。中国の若者に日本企業や日本製品について、自分の意見を率直に出してもらうのが目的だ。中国の次世代の声が日本企業に伝われば、中国進出を検討している企業や、既に進出していても、期待した効果がまだ上がっていない企業に、現状を打開するヒントが得えられのではないかという狙いもあった。

2005年からスタートしたコンクールのテーマは、@日中友好への提言A壁を取り除きたいB国という枠を越えてC私の知っている日本人の順だった。2009年の第5回目のテーマは「中国への日本人の貢献−中国人は日本企業をどう見る?」だったので、2年連続で日本企業や日本製品について、中国の若者の意見をすくい上げてきた。今回100以上の大学から、2000本を超える応募があった中から上位作品62編を収録した「メイドインジャパンと中国人の生活−日本のメーカーが与えた中国への影響」は、私が経営する日本僑報社から出版している。

 

●中国の若者の意見に驚く日本人読者

この本を読んだ日本人の読者は次のような感想を寄せてくれた。

日本の製品、モノ、文化、言語、筆者とその家族のエピソードが数多く掲載され、実体験に根ざしたありのままの声を聞けたが、驚かされるのは日本語レベルの高さだ。日本での留学経験がないにもかかわらず、分かりやすい日本語で綴られていた。日本の製品や文化についての考察も深い。情報はインターネットで入手しやすくなったとはいえ、勉強熱心ぶりが伝わった。

第二に、これだけ多く若者が、日本人、日本文化、日本製品に好意的なことは予想を超えていた。日本での報道からは、中国人の対日感情は悪化していると思っていたが、彼らの生活体験に基づいた日本企業や日本製品に対するイメージや信頼性が揺らいでいないということが実感できた。好意的な評価が浸透していることを知り、今後の日中交流に明るい希望が持てると確信できた。

 第三、日本製品には正確性、精緻さといった高い品質や機能の充実ぶりだけでなく、使い手の立場に立った配慮や思いやりに、彼らが感心していることだ。日本企業が厳密に管理した製品が使いやすいだけでなく、安心、安全面も工夫されていることに、日本のよき伝統や文化に尊敬の念が持たれているのだ。

 

●中国の若者の作文集は貴重な「世論」

日本とは社会体制が異なる中国では、ビジネスで成功することは容易ではないが、中国人の考え方を理解することが、その一歩になるのではないか。中国の若者の日本語作文集は貴重な「世論」となり得る。コンクールの主催者であり、「メイドインジャパンと中国人の生活」の編集者でもある私は、今回のコンクールを通して日本企業の皆さんに次のようなメッセージを伝えたい。

まず、日本製品の品質は今後も、高いレベルを維持し続けてほしいということだ。日本製品の品質に対する中国の消費者の安心感、信頼感は絶大である。カシオの電子手帳、パイロットのシャープペンシル、ニコンとキャノンのデジタルカメラ、竹田製菓のタマゴボーロ、オリエント腕時計、資生堂、DHC、花王の化粧品、液体ムヒS、シャープの液晶テレビ、ソニーのMP3など、中国の若者の感謝と称賛の声は、日本企業の有力な武器が何であるかを再認識していいのではないか。さらに強化することが中国市場で次世代の人々の支持を獲得することにつながるはずだ。

今回のコンクールで最優秀賞(日本大使賞)を受賞した西安交通大学日本語学科四年生の関欣さんは、「幸福の贈り物」と題し、技術者として日本に派遣された父親が帰国した1986年に買ってきた日本製テープレコーダーが今も自宅にあることを紹介。次のように書いていた。

「それは私たちにいつでも家族の愛がそばにあるという幸福感を与えてくれた。ナショナルの創業者、松下幸之助は『利益』より『人々の生活を潤すこと、人々の生活向上に奉仕すること』が企業活動で一番重要なことだと述べている。生活のゆとりを与えて家庭に幸福をもたらすのに、日本のさまざまな製品は世界中で貢献してきた。父の影響を受けた私は、今日本語を学習しているが、将来、日中の人々に幸福をもたらす友好の架け橋になりたいと思っている。それが、テープレコーダーのお返しになれば幸いである」

日本人のものづくり精神は、今でも中国の若者の心をとらえている。「日本企業の技術に追いつくのは簡単だが、日本製品の品格に追いつくのは難しい」という韓国人経営者の言葉を引用し、Blendyコーヒーの合理性や、ソニーのイヤホンの説明書から、きめ細かな心遣いに尊敬の念を示す受賞者もいた。

中国の若者の感想は製品一つひとつに寄せられたものだが、一企業の一製品だけの結果というだけでなく、日本企業全体の長期的な努力の成果と言えよう。日本企業が末長く中国社会で存続するうえで、「ものづくり精神」はますます進化することが不可欠になることだろう。

 

●多くの日本人に中国の若者の生の声を

中国の若者の生の声をより多くの日本人読者、特に企業関係者に本書を推薦したい。六回のコンクールに応募した一万人以上の若者は、日本語と日本文化が大好きで、日中交流に貢献したいという志も高い。日中両国の宝物と言える。彼らの日本語学習を応援することは、中国での日本文化の普及や日中両国の友好の原動力になる。

第7回コンクールは「日本企業に伝えたい中国人消費者の本音―中国で成功するために日系企業に必要なこと―」をテーマに募集を始めている。コンクールの趣旨を理解していただき、日本企業の皆様のご支援を心から期待したい。