日中交流研究所の母体である日本僑報社は、第1回の作文コンクールから受賞作品集を刊行しており、本書で15作目となります。
これまでのタイトルは順に、
第1回『日中友好への提言二〇〇五』
第2回『壁を取り除きたい』
第3回『国という枠を越えて』
第4回『私の知っている日本人』
第5回『中国への日本人の貢献』
第6回『メイドインジャパンと中国人の生活』
第7回『蘇る日本! 今こそ示す日本の底力』
第8回『中国人がいつも大声で喋るのはなんでなのか?』
第9回『中国人の心を動かした「日本力」』
第10回『「御オ宅タク」と呼ばれても』
第11回『 なんでそうなるの? 中国の若者は日本のココが理解できない』
第12回『訪日中国人 「爆買い」以外にできること』
第13回『日本人に伝えたい中国の新しい魅力』
第14回『 中国の若者が見つけた日本の新しい魅力―見た・聞いた・感じた・書いた、新鮮ニッポン!』
これら14作の作品集は大変ご好評をいただき、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、NHKなど大手メディアで多数紹介されたほか、全国各地の図書館、研究室などに収蔵されております。
今回のテーマは前述の通り、(一)東京2020大会に、かなえたい私の夢!
(二)日中新時代を考える――中国の若者からの提言 (三)今こそ伝えよう!
先生、家族、友だちのこと――の三つとしました。
今回は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)を翌年にひかえることからこれをテーマの一つとし、日中関係のさらなる深化・発展の一助になり得るような意見や提言のある作文を募集しました。
(一)の「東京2020大会に、かなえたい私の夢!」は、今回の作文コンクールのメインテーマといえるものであり、本書のタイトルとしても使用しました。東京2020大会は、分野的・時間的・地域的に広がりを持った、これまで以上に世界に開かれ、世界とつながる熱い大会になることが期待されています。そこで、中国で日本語を学ぶ若い皆さんに「東京2020大会に、かなえたい夢」について自由に書き綴ってもらいました。
大会への関わりは直接的でも間接的でも、あるいは全く関係がなくても、2020年のその年に照準を合わせたものであれば、スポーツに限らずどのような内容でも構わないこととしました。若者らしい柔軟な発想、フレッシュな感性、多様な視点で、2020年への大いなる夢を述べてもらいました。
(二)の「日中新時代を考える――中国の若者からの提言」は、日中関係の新しい時代について考えてもらいました。日中関係は、2017年の国交正常化四十五周年、2018年の平和友好条約締結四十周年という節目の年を経て、両国首脳の相互往来が重ねられるなど改善の流れがいっそう加速しています。
こうした情勢のもと、今後の日中関係はどうあるべきか? これからの両国関係に求められること、両国がともに目指すべきことは?
未来の両国関係にとって重要なこととは何か? 日本と中国にとっての新しい時代――「日中新時代」について、また「日中新時代」のあるべき姿、理想像などについて、若者ならではの自由な発想で考えをまとめてもらいました。
(三)の「今こそ伝えよう! 先生、家族、友だちのこと」は、日本語作文コンクールの第十一回(二〇一五年)より、毎年掲げるテーマの一つ「日本語教師の教え」の流れを汲むものです。今回は先生のみならず、家族や友だち、先輩など、テーマとなる対象を幅広く考えました。
学生の皆さんの周りには、個性的な魅力あふれる自慢の先生や家族、友だち、先輩などが少なからずおられるのではないでしょうか?
そのような、どうしてもほかの人に伝えたい魅力的な人物について紹介してもらいました。それをもって学生側から周囲の人たちに対して感謝の気持ちを表すとともに、先生方にはその作文を今後の指導の参考にしていただければと考えました。
総評としては、今回の作品はこれまで同様、またはそれ以上に優劣つけがたい優れた作品が多く、各審査員を悩ませました。
ある審査員は、今回の印象として「作者たちは日本語の専攻をしているとはいえ、大変綺麗な日本語を書き、表現力も見事なので、感心するばかりである。日本人の大学生で、これだけ立派な日本語を書ける人が一体どれだけいるだろうか?」と、中国の学生たちの日本語レベルの高さにすっかり感心しておられました。
また、上位の審査にかかわったある審査員は「文法も、内容も、いずれも十分に推敲された作文で、すべて素晴らしく、評価にとても迷いました。全てを読み終わった後に、心に残る内容の作文に、高い点を付けました」と採点の難しさと高評価となった作文のポイントについて明かされました。
総じて言えば(一)日本語の正しい文法、適切な表現を使っていること
(二)強いメッセージ性やきちんとした主張があること (三)実際の体験談や事例を挙げる場合に、説得力があること
(四)総花的(要点をしぼらずに全ての事柄をならべること)、こじつけ的、観念的ではないこと
(五)読者の心に残るような感動を与えること、またはこれからの日中関係にプラスになるような具体的提言があること――などが高評価のポイントになったようです。
入賞作品は最終的にこのような結果となりましたが、順位はあくまでも一つの目安でしかありません。最優秀賞から佳作賞まで入賞した作品は、どの作品が上位に選ばれてもおかしくない優秀なできばえであったことを申し添えたいと思います。
いずれの作品にも、普段なかなか知り得ない中国の若者たちの「本音」がギッシリと詰まっていました。中には、日本人にはおよそ考えもつかないような斬新な視点やユニークな提言もありました。そうした彼ら彼女らの素直な「心の声」、まっすぐで強いメッセージは、一般の日本人読者にもきっと届くであろうと思います。日本の読者の皆様には、本書を通じて中国の若者たちの「心の声」に耳を傾け、それによってこれからの日本と中国の関係を考えていただくほか、日本人と中国人の「本音」の交流のあり方についても思いを致していただければ幸いです。
このほか今回のコンクールにおいても、在中国の日本語教師の皆様からそれぞれ貴重な体験談をお寄せいただき、本書に併せて掲載しました。これら教育現場の第一線におられる先生方の体験談は、その日々の教育へのご尽力を伝えるのみならず、学生たちが作文コンクールで優秀な成績を収めるための「アドバイス」でもあるといえます。
この作文コンクールに初トライしたい学生の皆さん、今回は残念な結果に終わったものの、次回以降またチャ
レンジしたい学生の皆さん、現場の先生方、そして本書シリーズの愛読者の皆様にはぜひ、この『東京2020大会にかなえたい、私の夢!』に収められた優秀作、そして日本語教師の方々の体験談を参考にしていただけたら幸いです。
*書籍化にあたり、今回より受賞作は筆者ご自身に版下データの校正をしていただきました。ご協力ありがとうございました。その上で、本書掲載の作文はいずれも文法や表記、表現(修辞法など)について、明らかな誤りや不統一が見られた箇所について、編集部が若干の修正を加えさせていただきました。
*本書の掲載順は、一等賞と二等賞が総合得点の順、三等賞と佳作賞が登録番号順となっております。併せてご了承いただけましたら幸いです。