日中交流研究所の母体である日本僑報社は、第1回の作文コンクールから受賞作品集を刊行しており、本書で14作目となります。
これまでのタイトルは順に、
第1回 『日中友好への提言2005』
第2回 『壁を取り除きたい』
第3回 『国という枠を越えて』
第4回 『私の知っている日本人』
第5回 『中国への日本人の貢献』
第6回 『メイドインジャパンと中国人の生活』
第7回 『蘇る日本! 今こそ示す日本の底力』
第8回 『中国人がいつも大声で喋るのはなんでなのか?』
第9回 『中国人の心を動かした「日本力」』
第10回 『「御宅(オ タク)」と呼ばれても』
第11回 『なんでそうなるの? 中国の若者は日本のココが理解できない』
第12回 『訪日中国人 「爆買い」以外にできること』
第13回 『日本人に伝えたい中国の新しい魅力』
これら13作の作品集は多くの方々からご好評を賜り、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、NHKなど大手メディアで紹介されたほか、全国各地の図書館、研究室などに収蔵されております。
今回のテーマは(1)「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力」
(2)「日本の『中国語の日』に私ができること」 (3)「心に残る、先生のあの言葉」の3つとしました。
(1)の「中国の若者が見つけた日本の新しい魅力」は、今回の作文コンクールのメインテーマといえるものであり、本書のメインタイトルとしても使用しました。これは前回2017年の第13回作文コンクールのテーマの1つ「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」の対(つい)になるテーマとなります。
2020年東京五輪・パラリンピックを間近に控え、日本政府は同年に訪日客を4千万人に増やす目標を掲げています。こうした中、年々増加を続ける訪日中国人客は2017年に過去最高の735万人超を記録し、依然としてトップの座を維持しています。近年は「爆買い」ブームも一段落し、豊かになった中国の人々は日本の新しい魅力や価値、より大きな可能性を求めているころではないでしょうか?
そこで今回は、2018年の日中平和友好条約締結40周年を記念して、中国の若い世代ならではのフレッシュな視点で、これまであまり知られていない日本のおもしろみやセールスポイントなどについて自由に書き綴ってもらいました。そうした若者たちの〝新発見〟は、中国ひいては外国の人々のみならず、日本の人々にとっても新鮮な気づきであり、意外性のある日本〝再発見〟となるに違いありません。それをもって平和友好条約40周年を大きく盛り上げ、訪日中国人客の一層の増加につながる一助になればと期待しました。
(1)をテーマとした応募作の中で多く見られたのは、他人に「冷たい」といわれる日本人の本来の優しさ、温かさに触れたこと、細やかな「おもてなし」精神や「職人気質」、高齢化社会にあってなお元気で活躍するお年寄りの姿、人気ゲームを通して知った日本の歴史文化の魅力、平昌五輪のフィギュアスケート男子で連覇を達成した羽生結弦選手の活躍、自分の将来設計にも役立つ独特な「手帳文化」などです。
とくに今回特徴的だったのは、観光や短期留学で実際に日本を訪れ、自らが発見した「新しい魅力」を具体的にまとめてくれた学生たちが多くいたことです。これは経済的に豊かになった中国の人々にとって、訪日旅行がより身近になっていることを示すものです。
中でも上位に選ばれた作品を見ると、自分なりのユニークな視点で「日本の魅力」を見つけていること、ステレオタイプ的な理解や紹介に終わることなく、自らの体験を交えたリアリティーのあるエピソードを生き生きと綴ったことが高く評価されたようです。
(2)の「日本の『中国語の日』に私ができること」は、主催者の日本僑報社・日中交流研究所が提唱する、日本における「中国語の日」(毎年8月8日を想定)に対し、「この日、自分なら何ができるか」を具体的に提言してもらおうという前向きな試みでした。
前回のテーマの1つが「中国の『日本語の日』(毎年12月12日を想定)に私ができること」であり、今回はここでも対になるものとしてこのテーマを掲げました。
この日は1日、日本(あるいは中国)で、日本の人々に中国語を広める活動をしてもらい、中国語をパイプ役として日本人と中国人の直接交流を深めてもらいたい。また日本人にとっては、中国・中国人・中国語の理解をより深めるチャンスにしたい。そのための具体的かつオリジナリティー豊かな取り組みを積極的に述べてもらいたいとリクエストしたものです。
このテーマでは、昨年と同じように興味深い提言が数多く集まりました。例えば「中国語と日本語の同形異義語から生まれる誤解をなくすため辞典を作りたい」「中国の流行語を紹介するサイトを作り、日本人に〝生きた中国〟に興味をもってもらう」「中国料理を一緒に作り、味わいながら、言葉や文化などを学ぶ」「共通の文化である書道を通じて、中国語や中国書道の真髄を学ぶ」などです。
その豊かな創造性からは、若い世代ならではのみずみずしい感性と熱い思いがうかがえました。そして、その多くが実現可能ですぐにでも取り組めそうな提言であったことも、中国の若者たちに頼もしさを覚えました。
(3)の「心に残る、先生のあの言葉」は、第11回のテーマ「わたしの先生はすごい」、第12回テーマ「私を変えた、日本語教師の教え」、第13回テーマ「忘れられない日本語教師の教え」に続くものです。
中国における日本語学習者は現在100万人を超えており、その100万人を指導する日本語教師の数は、約1万7千人(うち日本人教師が約2千人)に上るそうです。この教育現場で日々奮闘されている先生方の地道なご努力やご苦労はいかばかりかとお察しする次第です。
そこで今回も、学生たちが日ごろ指導を受けている日本語教師から学んだこと、とくに自分の生活や学習態度、考え方などを大きく変えた先生の「言葉」を具体的に書き綴ってもらいました。それをもって学生側から日本語教師に感謝の気持ちを示すとともに、先生方にはその作文を今後の指導の参考にしていただければと考えました。
応募作の中でいくつか見られ、しかも印象的だったのは、大学での専攻が本来の志望ではない日本語に振り分けられてしまい、仕方なく学んでいたが、ある日の教師の叱咤激励で自らを反省し、以来猛勉強して成績が伸びた――という内容です。もちろん具体的な経験も表現もそれぞれに異なりますが、こうした作品に接すると、学生たちの人知れぬ苦悩や努力、先生方のご苦労と教育への真摯な姿が浮かび上がり、胸打たれる思いになります。おそらく同じような境遇の学生たちも各地におられることでしょう。
そればかりではなく「心に残る、先生のあの言葉」には、先生方の豊かな教育経験、人生経験に裏付けられた厳しくも温かな励まし、教え、知恵の言葉がそれぞれ紹介されています。それは日本語専攻のみならず、きっと多くの学生たちにとっても生きた手引き、人生の指針となることでしょう。
総じていえば今回の応募作品は、これまで以上に大差のない優秀な作品が多く、各審査員の頭を悩ませました。
審査を終えたある審査員は「日本語の文法も内容もともに高いレベルの作文ばかりで、採点に苦しみました。日本に短期滞在した方々の作文は、経験の裏付けがあり、内容に深みがあると感じました。実際の見聞から生まれる異文化への理解が、大切だと思いました」と、「経験の裏付け」に説得力を感じておられました。
また、ある審査員は「さすがに約4300人の中から選ばれただけあって、日本人が嫉妬しそうになるほど素晴らしい作品ばかりでした。これに点数をつけるのは至難の業です。誰が1位になっても不思議ではありません。回を重ねて14回にもなるとレベルの高さと内容の深さがこんなにも進化するものかと感動することしきりです」と傑作、秀作の数々に感嘆しておられました。都合上、審査員の講評を全てご紹介することはできませんが、いずれも高い評価であったことをここに記させていただきます。
このほか今回のコンクールにおいても、在中国の日本語教師の皆様からそれぞれ貴重な「日本語作文指導法」をお寄せいただき、本書に併せて掲載しました。これら教育現場の第一線におられる先生方の指導法は、現場を知りつくしたベテラン教師による真の「体験談」であり、作文コンクールで優秀な成績を収めるための「アドバイス」であり、さらにはより優れた日本語作文を書くための秘訣を満載した「作文ガイド」であるともいえます。
この作文コンクールに初トライしたい学生の皆さん、今回は残念な結果に終わったものの、次回以降またチャレンジしたい学生の皆さん、現場の先生方、そして本書シリーズの愛読者の皆様にはぜひ、これら先生方の指導法を参考にしていただけたら幸いです。
入賞作品は最終的にこのような結果となりましたが、順位はあくまでも一つの目安でしかありません。最優秀賞から佳作賞まで入賞した作品は、どの作品が上位に選ばれてもおかしくない優秀なできばえであったことを申し添えたいと思います。
いずれの作品にも、普段なかなか知り得ない中国の若者たちの「本音」がギッシリと詰まっていました。中には、日本人にはおよそ考えもつかないような斬新な視点やユニークな提言もありました。そうした彼ら彼女らの素直な「心の声」、まっすぐで強いメッセージは、一般の日本人読者にもきっと届くであろうと思います。
日本の読者の皆様には、本書を通じて中国の若者たちの「心の声」に耳を傾け、それによってこれからの日本と中国の関係を考えていただくほか、日本人と中国人の「本音」の交流のあり方についても思いを致していただければ幸いです。
*なお、本書掲載の作文はいずれも文法や表記、表現(修辞法など)について、明らかな誤りや不統一が見られた箇所について、編集部が若干の修正を加えさせていただきました。
また、本書の掲載順は、一等賞から三等賞までが総合得点の順、佳作賞が登録番号順となっております。併せてご了承いただけましたら幸いです。