第二回中国人の日本語作文コンクール

開 催 報 告

日中交流研究所長

段 躍 中

 

 

時間が経つのは本当に早いもので、第一回のコンクールの表彰式から丸一年が経過しました。再び皆様に本書をお手にとっていただけて、本当に感無量です、ありがとうございます。

 

まずは、無事第二回「中国人の日本語作文コンクール」を開催することができましたこと、応募者の皆さんをはじめ、関係者の皆様のご支援の賜物と、厚くお礼申し上げます。

 

昨年のコンクールは経験豊富な大森先生のご指導とご支援によりつつがなく進行しましたが、本年度のコンクールは完全に日中交流研究所のみで運営しましたので、人力も経済力も足りず、大変な困難の中、日中友好への志と、皆様の応援のおかげでなんとかやってこられました。

 

また、応募いただいた学生たちにも改めて感謝とエールを送りたいと思います。そして、各学校の指導教官の先生方にお礼申し上げたいと思います。

 

今回は全国一〇九校(昨年度より二四校多い)から一六一六本の作品が集まりました。応募作品にあらわれた、学生たちの中日相互理解、中日友好に対する真摯な気持ちに心打たれました。来年の第三回コンクールにも、ぜひまた挑戦していただきたいと思います。

 

■審査の経過■

 

【一次審査】

第一次審査は日中交流研究所の母体である日本僑報社の横堀幸絵さんと岩井由香里さんが行いました(本当にご苦労さまでした)。審査開始前に、まず応募作品一六一六本のうち、次のような作品を審査対象外としました。

・締め切り後に届いた作品

・手書きでない作品

・規定文字数(一六〇〇字)に明らかに満たない、あるいは明らかに超過している作品

審査対象作品を二名がすべて読み、日本語文章力五〇点、内容五〇点で採点、二名共に高得点を付けた作品をまず入賞とし、どちらか一名が高得点を付けた作品は再度読み合わせし、合議した上で入賞者六四名(最優秀賞、一、二、三等賞候補)を決定しました。

 

【二次審査】

次の六名の先生方がボランティアで協力してくださいました(五十音順)。

 

五十嵐貞一(中国留学生交流支援立志会理事長)

川村 恒明(神奈川県立外語短期大学長)

木下 俊彦(早稲田大学教授)

関  史江(東京大学工学系助手)

高見澤 孟(昭和女子大学大学院教授)

谷川 栄子(日本大学国際関係学部非常勤講師)

 

なお、より公平を期するため、二次審査のときは、応募者氏名と大学名称は隠して、受付番号のみがついた対象作文を先生方に配布しました。

 

審査員の方々から多くのメッセージを寄せていただきました。ありがとうございます。今年も谷川栄子先生の講評を掲載させていただきます(当方への諸連絡が書かれた部分は割愛いたしました)。応募者名を伏せて審査に付したため、講評に具体的氏名は書かれておりません。

 

* * *

 

今回の作文は、学年はかなりばらつきがあるようなのに、実際の中身は僅差で甲乙つけがたく、採点は大変難しかったです。それだけ皆さんの日本語のレベルが高く、内容的にも各々特徴があり、比較するのが難しく、採点結果もほとんど差がなくなってしまいました。以下、比較的点数の高かった方を中心に、簡単に感想を述べさせていただきます。

 

99番の、無償で剣道を教える森田先生と植樹をする遠山さんを例に、自分でできることを積み重ねて理解を深めることにより、真に相手を思いやる気持ちが生まれていくのだという指摘は、まさにその通りだと思います。また、127番の、日中の80年代生まれの、ある意味精神的な「弱さ」を抱えた世代に、「ドラえもん」が果たした役割を見ることで、両者の共通する部分を見つけ出そうとする指摘はなかなか面白いと思いました。641番の、素直に日本語を学ぶことが「好き」という筆者に、日本人として有難い気持ちになりましたし、654番は、実に素直な文章だと思いました。タクシーの運転手に「そんなに日本に行きたいなら、さっさと行けよ!」と言われながらも、自らの日本人の友達との交流の経験から素直に「日中友好」を表現している筆者の言葉は、日本人として心表われる思いがします。934番は、おじいさん、おとうさん、そして自分という、三世代にわたる中国人の日本への思いがひしひしと伝わってきて、最後におじいさんが日本語を学ぶことを許してくれたことから、未来への期待をも感じさせてもらいました。

 

さらに、1047番は、小さくても「私の架け橋」を、日本語と交流を通じて架けていこうとする筆者の思いが伝わってきましたし、1088番は、日中友好のバトンをつなぐ世代交代のリレーは、日中双方の若者の「使命」であるという強い気持ちが感じられました。そして、1137番は、ワンダーフォーゲル部での活動や体験を通して、ともに「渡り鳥」として、自由に「地球」という空を飛び回る日中両国人でいたいという筆者の指摘は、今後の日中関係、およびアジア・世界の一員としての我々の役割を見据えた重要な提案であると思います。

 

最後に、1181番は、「恩遥」という日本に住む日中の混血児の子との交流が描かれていますが、その中で筆者の言う「正直に言えば、日本語を勉強する前に日本についての印象は客観的ではなく、一方的だ。だから、両国が比較されることに敏感すぎた。」という言葉は、現在の日中関係に横たわる大きな問題点を言い当てていると思います。

 

このように、皆さん、自らの体験や見聞を通して、自分なりに「日本語」と向き合い、「日中友好」のためにどうしたらよいかを、真剣に、前向きに考えている姿勢に、心打たれるとともに、大変有難く思います。そして、私たち日本人も、そうした姿勢を見習わなければならないと思います。

 

以上、いつもながら、こうした素晴らしい作文を読ませていただけるという「眼福」に感謝いたします。

 

ありがとうございました!

二〇〇六年八月一五日 谷川栄子

 

* * *

 

なお、本書に掲載しました作文は、最低限の校正しか行わず、日本語として不自然な部分が多少あっても学生の努力のあとが見えるものと考え、残してあります。

 

また、最優秀賞・一等賞・二等賞については学生もしくは学校と連絡をとり、写真を掲載しましたが、一部どうしても連絡がとれなかった学生については、写真を載せることができませんでした。以上二点ご了承ください。これから写真を追加して送ってくださる方には、ホームページの受賞者一覧に掲載させて頂きます。よろしくお願い申し上げます。

 

■本書の刊行経過■

 

日中交流研究所は日本僑報社が二〇〇五年一月に発足した小さい研究所ですが、皆さんのお陰で、設立の一年目から日中作文コンクールを主催し、それぞれの作文集を刊行して参りました。二冊の作文集(『日中友好への提言二〇〇五―第一回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』、と日中対訳版『我們永遠是朋友―第一回日本人の中国語作文コンクール受賞作品集』)は多くの方々から好評を頂き、なによりも嬉しく存じます。

 

今年の日本語作文コンクール受賞作品集は、去年と同じく六四名の受賞者の優れた作品を収録しています。皆さんの手書き原稿をデータ入力してくださったのは、日中交流に熱心な日本人のボランティアグループです、代表者の岩楯嘉之先生はグループの皆さんを代表して感想文までまとめてくださいました。この感想文は別途掲載させて頂きます。ボランティアの皆さんの温かいご支援、本当にありがとうございます。皆さんの尽力により、このように速やかに、中国の若い大学生の対日観を日本人の皆さんに伝えることができました。素晴らしい日中交流への貢献だと思います。

 

受賞作品集の書名になったのは、最優秀賞に選ばれた付さんの作品タイトル「壁を取り除きたい」です。最優秀賞受賞者にとっても、素晴らしい記念になるのではないかと思います。付さん、改めておめでとうございます。「壁を取り除きたい」とは、まさに、我々がコンクールを主催する目的であり、我々の日中交流に取り組む姿勢を表しています。日中両国民の心の中にある壁を取り除くべく、今後とも皆さんと一緒に頑張っていきたいです。

 

様々に困難はありますが、これからもコンクールを続けていく決意です。三冊目の受賞作品集を刊行するときにもぜひ、最優秀賞受賞作文のタイトルを使用したいです。応募者の皆さん、頑張ってください。

 

■感謝の言葉■

 

日中交流研究所は、一人の在日中国人が創設した小さい出版社、日本僑報社を母体として運営されています。「石より硬い」という読者評からもわかる通り、日本僑報社は、学術書を中心とした良書を刊行してきましたが、販売部数は決して多くありません。そのため、コンクール開催にあたって、金銭面でいつも力不足を強く感じます。各大学に配布するための大判募集ポスターを制作することもできず、募集要項をA4サイズにまとめ、お願い状と一緒に中国の一五〇校ほどの大学に送るしかありませんでした。この場を借りて、各大学の先生方、大学生の皆さんに心から感謝致します。知名度も、経済力もない、できたばかりの日中交流研究所に、このように大きなご支持、ご協力をくださることに、心からお礼を申し上げます。皆さんのご応募がなければコンクールを続けることは叶いませんでした。

 

作文募集段階においては、多くのマスコミ、日中友好団体機関紙などにも募集案内を掲載していただきました。特に人民日報社人民網日本語版は、第一回コンクールについての特集を掲載してくださったほか、募集案内を長時間掲載してくださいました。陳建軍主編をはじめ人民網日本語編集部の皆さんに心から御礼を申し上げます。

 

また、経済面で本当に継続が危うくなりかけた際、日本財団笹川陽平会長が温かい支援の手を差し伸べてくださいました。先生は日本僑報社から日中対訳版の著書『二千年の歴史を鑑として』を刊行されたご縁がありましたが、コンクール開催の困難を先生にお知らせすることは遠慮していました。どこからも支援を得ることが全くできなくなった時、心配した友人が笹川先生に話を伝えてくれました。すると先生は大変お忙しいにもかかわらずお会いくださり、直ちに支援を決定してくださいました。その上、作文集に推薦のことば(「日中関係を考える良書」)まで頂戴しました。そして今回の最優秀賞の名称には笹川陽平賞を使わせていただきました。本当にありがとうございます。

 

去年と同様、今回のコンクール及び表彰式には、カシオ計算機株式会社、全日本空輸株式会社、中国留学生交流支援立志会からご協賛いただきます。感謝の意を表します。特にカシオ上海貿易有限公司副総経理の吉田修作氏は、何回も上海から応援の国際電話を下さり、日本語を学んでいる中国の大学生に対する温かい応援と期待を強く感じています、ありがとうございます。

 

そして、後援いただいた在中国日本大使館、(財)日中友好会館、(社)日中友好協会、(社)日中協会、日中文化交流協会、日中友好議員連盟、日本国際貿易促進協会、北京日本学センター、中国日語教学研究会に心から感謝申し上げます。また、第一次と第二次審査員の皆さんに、改めて感謝申し上げます。

 

ほか、温かい応援を下さった以下の方々に心から感謝致します。元中国大使の谷野作太郎氏、在中国日本大使館公使・広報文化センター所長井出敬二氏、日本財団理事長尾形武寿氏、外務省の垂秀夫氏、テレビ朝日の高橋政陽氏、東亜キャピタル株式会社の津上俊哉氏、笹川平和財団の窪田新一氏、顧文君氏、胡一平氏。

 

中国側、文化部(省)元副部長(次官)の劉徳有氏、日本学研究センターの徐一平氏、曹大峰氏、銭軍強氏、中日関係史学会の徐啓新氏、日中友好読書会の周冬霖氏、本当にありがとうございます。

 

来年も第三回コンクールを鋭意開催いたします。どうぞ引き続きご支援ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

 

 

(※本文は『壁を取り除きたい――第二回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』より転載。『壁を取り除きたい』は2006年11月30日から発売。定価1800円)