■翻訳体験談 『悠久の都 北京』の翻訳を終えて 米井由美 高橋塾を受講してから一年が経った頃、ちょうど原書である『道北京』訳者募集の案内メールが届きました。ダメ元で応募してみたところ、運良く翻訳するチャンスを頂戴しました。しかし、この時の私は少し軽く考えていたようで、その後の困難などつゆ知らずにいました。 『道北京』の著者である劉一達氏は生粋の北京っ子で、また著名な新聞記者でもあり、北京独自の文化やそこで暮らす人々や街の様子を題材とした小説やエッセイを多く出版しています。中にはドラマ化、舞台化された作品もあります。イラストの李濱声氏は天安門に掲げられているかの有名な毛沢東の肖像画を描いた人物です。その後『人民日報』の人気コラム『風刺とユーモア』にて長年作品を発表し、それらの功績を称え中国アニメ・漫画業界で最も栄誉のある「金猿賞」を受賞しました。このように紹介すると、文章とイラストで現代の北京を描くにはこの上ない人選であることがおわかりいただけるかと思います。 一方で『道北京』を訳すことにだんだんプレッシャーを感じるようになりました。「まずは下準備として知識を得なくては」と考え、北京に関する書籍を集めて読みましたが、今振り返るとそこに時間を割きすぎてしまったのではないかと反省しています。他の翻訳者の方々もおっしゃっているように、翻訳作業は訳語の見直しが何よりも大事です。そしてそれは時間がかかります。そのため、まずは少しでも良いので訳して作業を進めるという姿勢が必要かもしれません。一回にどれぐらい訳すかは、無理なく続けられる範囲で考えた方が良さそうです。間違っても「後で一気にやろう」という考えは捨てるべきです(自分への戒めです)。 『道北京』は一読すると内容はまだ平易な感じがしましたが、いざ訳そうとすると語感が鋭い劉氏独自の表現に大いに苦戦しました。読むことと訳すことは全くの別物であると痛感しました。古典の引用は調べながら何とか訳すことができた一方、特に北京ならではの表現(方言としての北京語を含む)を訳すことは骨が折れました。そのような時は張社長をはじめとする北京とかかわりが深い方々におたずねしたり、Baiduで調べたり、YouTubeで実際の映像を見たりして対処しました。 その後、翻訳が終わり、四校を経て、『道北京』は『悠久の都 北京―中国文化の真髄を知る―』という書名のもと、この度出版されました。コロナ禍による影響(教員としてオンライン授業の準備に奔走)と私自身の力不足により、出版の時期が大幅に遅れてしまったこと、誠に申し訳なく思っております。そのような中でも最後まで並走し助けて下さった福田さま、編集部の皆様さま、そして張社長へこの場をお借りして深く感謝申し上げます。また、本書が出版されるまでにお力添えいただいたすべての方々にも御礼をお伝えしたいです。 最後になりましたが、本書をご覧になった読者の皆さまが今後北京を訪れ、劉氏の案内に従い、「本当に北京城は碁盤の目の様で、通りも真っすぐに通っているのだな」、「李濱声のイラストで見た「六必居」の看板は本当にあるのだな。よし、話の通り漬物を味見してみよう」というようなことを実感していただける日が来ることを訳者の一人として願っております。 |