夢を諦めずに、共に駆けよう ―安田奨学財団面接合格感想文― 朱雅蘭(上海大学四年) 子供の頃から文字で表現することが好きな私は、ある偶然な機会で日本語を勉強しはじめ、この国の言葉に強く惹かれた。古くから伝わってきた和歌や俳句のリズム感や音韻にしても、言葉の繊細さや隠された思いやりの文化にしても、「日本語は美しい、続けて勉強したい」と思わせた。 ■「よりよい日本語を目指して」 そう思ったわたしは、日本語を鍛えられるあらゆる機会を逃さないように、指導教員の推薦で、日本僑報社主催の「第16回日本語作文コンクール」に応募してみた。締め切りまであとわずか数時間で、机に向かって泣きながら作文を大幅に修正したことを、今でも鮮明に覚えている。幸運なことに、二等賞を受賞し、安田奨学財団から奨学金申請のメールが届いた。 応募書類の作成、書類審査、面接…。全てがスムーズに進んでいるように見えた。しかし、待ちに待った結果が就活生にとって最も恐れている一言である。 「残念ながら、今回の採用を見送りにいたしました。」 準備が足りなかったのだろうか。それとも、面接でうまく答えられなかったせいなのだろうか。次から次へと疑問が湧いてきたが、誰も答えてくれなかった。採用結果のメールを見えないところに移し、卒論を書くことに専念した。 てっきり忘れたかと思った記憶が、受賞作品集を受け取ったときに、再び呼び覚まされた。わたしは、一人一人の作品を読み始めた。開かれた最初の一ページには、当時、最優秀賞に選ばれた万園華さんの作品だった。 ■「山川異域 風月同天」 それは、コロナが流行り出した頃、武漢に送られた支援物資に書かれた日本からの言葉だった。中国と日本には同じ山と川がない。しかし感じる風もめでる月も同じである。約1300年前に日本から一度贈られてきたこの言葉は、千年の時を経て再び海を渡り、地域や言語を越え、それぞれの心を繋いだ。日本語を勉強したばかりのときのことを思い出させただけでなく、続ける理由が何だったのかも改めて考えさせられた。 一篇一篇の受賞作品に目を通し、一字一句を読んでいく。日本語を心から愛し、自分の発想を文字で紡いでいこうとする、無数の中国人大学生たちの心の声が聞こえてきた。答えを見つけたような気がした。お互い顔合わせしたことはなかったが、まるで将来を語り合っている同志かのように、わたしは励まされ、続けて第17回日本語作文コンクールに応募した。恩師からの指導を受け、幸運に恵まれ、再び安田奨学財団からの面接を受ける機会があった。わたしにとって、今回の面接はもはや審査を通ることを目標としているのではなく、今の段階で自分の考えていることや、やり遂げたい目標を、その場にいる財団の方々に共有し、交流する機会だった。合格通知が届いたとき、わたしは思わず涙を流した。今までの努力が認定され、次のステージへの道が開かれて、進むことを待っていると感じた。 あっという間に、中国の旧正月がやってきた。いつものようにスマホで遊んでいると、たまたま日本僑報社の公式アカウント「中日橋段」で、大連民族大学の三年生である楊海燕さんの文章が目に入った。楊さんは繊細な言葉で、未来への戸惑いや憧れ、今までの人生に込めた思い、何よりも感謝の気持ちを表していた。その文字に感動した私は小恥ずかしいのだが、勇気を出して段先生に初めて連絡した。約10分ほどの電話の中で、わたしの受賞作品への高い評価や日中交流への思い、夢を持つ若者への応援と励ましの言葉を述べてくださった。 「アイデアさえあれば、夢を持つすべての若者たちに活躍の場を与えたい」 段先生の言葉は、受賞作品集の巻末を思い起こさせた。 そこには、作文コンクールが立ち上がった頃の話、受賞者の記事、そして段先生のこれまで日中交流に携わってきた経歴がまとめられていた。中でも、「本音を伝え合い、理解を深める努力を」という記事が一番、感動した。日中関係が氷点を迎えた年に、周りからの批判の声も構わず、様々な交流に尽力なされた、段先生のたゆまぬ努力のおかげで、作文コンクールも18年目を迎えることができたと思う。若者世代の私たちは、今まで日中交流を促進するために努力してきた段先生の姿を目にし、中国と日本、そして世界との架け橋になるという夢を火種のように受け継ぎ、諦めた夢や心の奥底に埋もれていた理想を、胸を張って言える勇気を与えられた。 この二年間、作文コンクールと奨学金の応募経験から、過去の自分を振り返り、初心を取り戻し、未来に向けての勇気と機会を得ることができた。卒業を目前にし、私は人生における重要な選択を迫られ、混乱と不安の分かれ道に立たされた。しかし、段先生の言葉に安心感を覚え、安田奨学財団から夢を持ち続ける力を与えられ、初めて自分の夢が根付く場所があったと感じた。これからも自分の文章力を生かし、素晴らしい伝統文化を発信し、言語や国籍を超えた理解を促進し、国と国との交流をつなぐ架け橋となりたいと考えている。 段先生、日本僑報社、安田奨学財団、そして励ましてくれた恩師、家族、先輩、友人らに心よりお礼を申し上げたい。この記事を読まれた皆さんも、自分の夢を諦めずに、共に駆けることができるように祈っている。何度失敗しても、立ち上がれば、努力は報われると思う。 謹んでこの文をもって安田奨学財団面接合格の記念とし、私の成長を見守ってくださった全ての人々への感謝と敬意を表したものとする。 |