中国の飲食文化研究の決定版! 『中国人の食文化ガイド』訳者の山本美那子さん体験談 【日本僑報社発】日本僑報社が近日刊行する中国の飲食文化研究の決定版『中国人の食文化ガイド―心と身体の免疫力を高める秘訣』(熊四智著)の訳者で、日中翻訳学院の山本美那子さんより、本書翻訳を終えての体験談が寄せられた。 本書は、様々な角度から中国人の食に対する人生哲学を読み解く中国食文化研究の集大成。 多彩な料理、ノウハウ、エピソードや成語が満載で、「中国料理の鉄人」として知られる陳建一さん(公益法人日本中国料理協会会長、赤坂
四川飯店オーナー)も「ぜひこの本を手に取って、中国の食文化を学び、その背景にある中国人の人生観をくみ取って、あなたの人生を豊かに彩っていただきたい」と推薦している。 山本美那子さんの翻訳体験談は以下の通り。 ◆『中国人の食文化ガイド』の翻訳を終えて◆ 私が原書である『中国人的飲食奥秘』を受け取り翻訳に取りかかったのは、昨年の六月のことでした。一冊の本を一人で翻訳するのは初めてで、その上古典からの引用も多く、調べ物に非常に時間がかかってしまいました。悪戦苦闘の末、翻訳を始めて一年二ヵ月経過してやっと最終校正を終えることができました。 ここでは、私が翻訳に取り組むようになったきっかけや、翻訳で苦労したこと、楽しかったことなどを記していきたいと思います。 【翻訳との出会い】 翻訳とは直接関係がないかもしれませんが、私は子供のころから本を読むことが大好きでした。今年は翻訳にかかりっきりだったので数冊しか読めていませんが、多い時には一年で八十冊くらいの本を読んでいます。そのせいか、学生時代には卒業論文について「文章が読みやすく、読み物として面白かった」との言葉をいただきました。研究論文として未熟だということは私も自覚していたのですが、この時の恩師からの言葉はその後二十年近くを経て訪れる翻訳生活を支えてくれることになりました。 私は学生時代に中国に一年間留学し、卒業後は中国に工場のある会社に入社したので、中国工場との契約書などを翻訳する機会もありました。結婚を理由に退社した後も、通訳ガイドの仕事をする傍ら、翻訳会社に登録して実務翻訳を何件かこなしていました。しかし、子供が生まれると、拘束時間が長い通訳ガイドの仕事を続けることが難しくなり、翻訳に比重を置くべく、日中翻訳学院で翻訳を学びました。学院を修了すると、書籍の翻訳者募集のメールが届くようになりました。下の子も六歳になり手がかからなくなった頃に応募したのが、私にとって初めての書籍翻訳である『一帯一路沿線65か国の若者の生の声』でした。この本は翻訳者二人で分担して翻訳したのですが、他の翻訳者さんの訳文と原文を見比べるという貴重な経験ができて、とても刺激になりました。校正、タイトル決め、キャッチコピー、内容紹介文などの一連の作業も初めて経験し、本とはこんな風に出来るものなのか!という感動も味わうことができました。 【翻訳の苦労話】 今回の翻訳で一番苦労したのは、やはり古典の引用部分でした。ただ、私は学生時代、東洋史を専攻しており、漢文には親しんでいた方です。さらに私の夫も学生時代は中国文学を専攻していたこともあって、我が家には『論語』や『易経』などの和訳本や、漢文を読むために必要な『大漢和辞典(全十三巻)』が揃っていました。翻訳作業中は、私の周りには分厚い『大漢和辞典』が積み重なり、半ば辞書に埋もれるようにして過ごしていました。この『大漢和辞典』、実は結婚後に夫が中古で売っているのを見つけて衝動買いしたものです。それ以来ずっと「オブジェ」としてリビングの一角に飾られていたものなのですが、まさかこんなに役に立つ日が来るとは夫も私も思ってもみないことでした。 また、大量に登場する料理名を訳すのも根気のいる作業でした。日本人にもなじみのある「麻婆豆腐」や「青椒肉絲」などはいいのですが、私も食べたことのない料理が多く、一つひとつネットでレシピや写真を調べて、日本語の料理名を付けていきました。 とにかく長かった今回の翻訳作業でしたが、大切なことは、読者にきちんと伝えようとすることだと思いました。作者の意図に沿いながらも、読みやすく、わかりやすい文章にすることを心掛けていました。うまい言い回しが見つからず行き詰ったときには、一晩寝かせてから再読すると、いい表現が浮かびました。 【翻訳の楽しみ】 苦労の連続だった今回の翻訳でしたが、私は食べることが大好きで、かつて中国留学中や、仕事での中国滞在中にさまざまな中国料理を食べていました。例えば、この本に登場した「土蚯凍(土蚯のゼリー)」も、福建省で知人の結婚式に出席した際に食べたことがあります。土蚯とは、浜辺に生息するミミズに似た虫だと書かれています。食べた当時は「ゴカイのゼリーだよ」と説明を受けました。少し緊張しながら口に運ぶと、エビのような味で美味しかったのを覚えています。そのため、料理について検索する際も「この料理美味しそう!」「今度中国に行ったら食べてみたいな」と楽しみながら調べることができたと思います。 またこの本は、とても幅広く中国の食を紹介しているので、思わぬ人物に出会うことができました。それは私が卒業論文で取り上げた元代の文人であり画家でもある倪瓚(げいさん)です。私は画家としての彼の生涯しか知らなかったのですが、この本では美食家の一人として紹介されていて、旧友の意外な一面を知ったような感動を覚えました。 この本には食物の効能についても書かれています。例えば、大根は咳を抑え、消化を助け、二日酔いや船酔いにも効果があるので「大根が城内に入れば、薬屋は店じまいをする」ということわざができたそうです。それを読んでからは、私も積極的に大根を食べるようになりました。このように、実生活に役立てながら翻訳を進めることができるというのは、なかなかできない経験だったと思います。そしてそのようなお役立ち情報を読者に伝えたいという思いも、長い翻訳作業を支える力になったと思っています。 幸いなことに、今回は挿絵も描かせていただくことができました。私はずっと趣味でイラストや漫画を描いてきたのですが、その拙い絵をこの場で披露することができて、とても嬉しく思っています。 最後になりましたが、翻訳に行き詰ったときに相談に応じてくださり、またイラストを使うことを快く承諾してくださった張社長と編集のみなさまに感謝しています。(山本美那子) ■『【愛蔵版】中国人の食文化ガイド―心と身体の免疫力を高める秘訣』(日本僑報社刊) 著者:熊四智(ゆう・しち) 中国で著名な料理鉄人、『中華飲食文庫』編集委員、四川省政治協商会議委員、中国調理協会理事、四川調理高等専科学校教授を務めるなど、国際的にも著名な調理学者。中国調理文化の研究に三十余年従事。主な著書に『中国烹飪学概論』、『中国飲食詩文火典』、『四智論食』、『四智説食』などがある。 監訳:日中翻訳学院 日本僑報社が2008年に設立。よりハイレベルな日本語・中国語人材を育成するための出版翻訳プロ養成スクール。http://fanyi.duan.jp/ 訳者:日中翻訳学院 山本 美那子(やまもと・みなこ) 岡山県出身、神奈川県在住。岡山大学大学院文化研究科修了、学位取得。中国蘇州大学留学、上海勤務経験あり。帰国後、中国語通訳案内士の資格を取得、2010年には日中翻訳学院「武吉塾」で学んだ。共訳書に『「一帯一路」沿線 65カ国の若者の生の声』(日本僑報社刊)がある。 |