国士舘大学ケイ志強教授が特別寄稿

中国で日本語学習者「激減」

 

 

 

日本僑報社から『留学生を日本の宝物として扱おう』を刊行した国士舘大学ケイ志強教授は、10月28日に特別寄稿して下さいました。タイトルは中国で日本語学習者「激減」です。全文掲載します。                   

                 

2013年7月8日に国際交流基金が公表した「海外での日本語学習者数速報値」によれば、海外で日本語を学んでいる外国人は398万4538人に上り、過去最高を更新した。前回の2009年の調査に比べ、9.1%増えており、国・地域別では中国が初めてトップになった。調査は2012年7月から2013年3月まで、在外公館などを通じ、203ヶ国・地域で実施。日本語教育を行っている小中高校、大学、民間の塾など約1万8500機関から回答を得た。日本語教育が行われていたのは136ヶ国・地域で、前回比7.5%増の1万6045機関。国・地域別では、同26.5%増の中国(約104万6000人)、インドネシア(約87万2000人)と続き、1984年調査からトップを続けていた韓国(約84万人)は3位に下がった。

 

中国における日本語学者が急増した背景は1978年に改革開放政策が打ち出され、中国の「4つの現代化(工業近代化、農業近代化、国防近代化、科学技術近代化)」の実現のために、世界各国との交流が重要項目となった。そのため、各分野における外国語のできる人材育成が急務となった。

 

日本語教育については、1972年日中国交正常化により、両国の交流のために互いの言語を学びあう必要が生じた。中国の大学では日本語教育が開始され、日本語のラジオ講座や日本への留学生の予備教育も始まり、経済、文化、科学など各分野における交流の深化が「第1次日本語ブーム」をもたらした。

 

1980年代から1990年代前半まで日中貿易の活発化により、日本語学習者数も増加の一途をたどった。中等教育、高等教育での日本語教育が始まり、多くの大学で日本語学科が増設され、日本語テレビ講座も始められた。日本語学習者の増加に伴う教材も次々に出版され、日本語学習者は、遂に英語に次ぐ第2外国語の地位を確立した。これを「第2次日本語ブーム」と呼ばれている。

 

1990年代後半から、多くの日系企業が中国に進出するようになり、2012年の『中国貿易外径統計年鑑』によれば、中国国内に居住している日本人は20万人を超え、中国に進出している日本企業数は22,790社に達した。日本への留学、日系企業への就職などにより、「第3次日本語ブーム」を起こした。

 

その後、中国での就職の「三種の神器」は「外国語」、「パソコン」、「運転免許」であると言われるようになり、「日本語ブーム」を更に加速させ、中国での日本語学習者数が急増してきた。

 

1998年の国際交流基金の調査によれば、中国における日本語学習者が25万人であったが、日本語教育機関の調査によると、2006年に68万4366人、2009年に82万7171人にも達した。それらの「調査表」は各教育機関に送ったそうであるが、100%回収されたとは考えにくい。聞くところによれば、「調査表」が届いていない教育機関もあるという。

 

中国の大学では一般外国語教養即ち第2外国語として日本語を選択する学習者が一番多いが、継続して勉強している学習者数をこれまで正確な統計がない。独学で学んでいる日本語学習者の多くは、日本語テレビ講座と日本語ラジオ講座を学習媒体としてきた。通信教育と連動した日本語ラジオ講座や、日本語のテレビ講座は、全国ネットのラジオ放送局、中央テレビ局を始め、各地方局でも独自に制作されてきた。これらの日本語学習者数の統計も出ていない。1973年に上海ラジオ局が初級日本語ラジオ講座を開始した時、間もなく講座テキスト80万冊が売り切れとなった。また、企業での日本語クラス、大学の夜間日本語クラス、社会人向けの各種日本語クラス、日本留学のためのクラス、昇進や資格取得のためのクラス、インターネットの日本語講座、DVDなどで勉強している者が数多くいる。

 

国際交流基金の2009年度と2013年度の調査によると、中国に各種の一般成人向けの日本語クラスによる日本語学習者は相当数に上るが、その数は不明である。

 

2002年にすでに100万人を超えたと推測される学者もいる。根拠としては、日中研究者の共同開発による社会人向けの教科書『標準日本語』は2002年までに初級『標準日本語』だけでも350万部、中級『標準日本語』も80万部売れている。他の教科書を使って勉強している学習者も少なくないことを考えると、広い中国で日本語学習者数を正確に把握することは至難の業であると思われる。

 

ところで、ここ2、3年、中国での日本語教育に思わぬ状況が起こり、日本語学習者が想像以上減少し始めている。日本語学校が相次いで潰れ、中学校と高校での日本語学習者がかなり減り、定員割れの大学も多く生まれ出ている。募集停止をしたり、定員を減らしたりするなどの措置を取る大学も増えている。

 

1部の有名な国立大学も定員確保が難しくなってきている。浙江省にある全国で有名なZ国立大学日本語学科の日本語学習者は3年連続して定員の半分以下、内蒙古で有名なN大学は定員削減して募集しても定員の確保ができなくなっている。広東省のH国立大学とg私立大学の日本語学習者はともに半減となっている。山東省私立大学Y大学の日本語学科の定員は30名であるが、2012年に6名、2013年に0名、2014年に2名しか募集できなかった。

 

また、私立大学Q大学、F大学、H大学は募集停止に追い込まれた。遼寧省にあるD大学の老舗留学生訓練センター日本語学習者数は約数年前の5分の1と激減している。海南省の大学に日本語学科を設けられているのは7つの大学と1つの専門学校であったが、日本語学習者の減少により、2つの大学と1つの専門学校が募集停止となった。現在、日本語の学生を募集している大学はまだ5つあるが、2つの国立大学を除いて、あとの3つの私立大学は定員割れが続いており、その内W外国語大学(3年制)の日本語学習者数は数年前までに800名以上の在校生がいたが、2014年には180名にまで激減したという。

 

国際交流基金の調査によると、山東省の日本語学習者が2012年10月までの3年間で約59,000人と136%増加した。しかし、その後日本語学校が倒産し始め、山東省の有名なS日本語学校はかつて2つのキャンパスに200名以上の日本語学習者が在校していたが、2014年に0名になった。2つのキャンパスが余儀なく閉鎖された。現在は2人の職員と4、5名の非常勤日本語教師が高校と連携して日本に留学生を送っている。

 

内蒙古自治区において、30年以上の歴史を持つ最も有名な規模の大きい日本語学校は常に数百名の在校生がいたが、福島震災及び日中関係の悪化の影響で急減し始め、2014年には0名となった。当校の理事長が「日中関係が良くなるまで、「休眠期間」に入りましょう」と言って、教職員たちに自宅待機してもらうことになっている。経営を維持するために、1つの建物を貸したりするなどの措置を取っている。

 

上海などの大都会での日本語学習者の減り方も著しい。国際交流基金調査によると、2012年10月時点で上海の日本語学習者が約3万6000人(約41%)減少している。その後の減少も続いているという。

 

1993年に一般公開で実施されるようになった日本語能力試験の受験者は年々増え、2006年12月に世界で約53万人が受験した。その内、中国での日本語能力試験の受験者数は21万1591人に達し、2005年より46%増加した。2番目の韓国の受験者の9万3750人を大幅に超え、世界1位となった。更に2009年の受験者数は32万7255人となり、受験会場も37都市70会場にまで拡大した。しかし、2014年に18万7841人にまで減った。

 

最近、日本高等教育機関への中国人留学生も減少し始めている。2014年度に日本の大学や短大、大学院などの高等教育機関に所属した外国人留学生は13万9,185人で、前年から3,666人(2.7%)増えたと日本学生支援機構がまとめた。増加は東日本大震災前の10年度以来で4年ぶり。

 

出身国は中国が7万7792人(前年度比5.0%減)で最も多く、韓国が1万3940人(同8.9%)減、ベトナムの1万1174人(77.6%増)だった。ネバールが5291人(同66.0%)だった。同機構の担当者はベトナムやネパールが倍近くになったことについて、「もともと親日的だったが、留学あっせん業者の増加などで人気が高まったと説明する」。

 

日本学生支援機構のまとめから見て分かるように中国と韓国の日本語学習者の減少が目立つ。これは日中関係と日韓関係の悪化と大いに関係があるのではなかろうか。

 

長期的に考えれば、非常に深刻な問題であり、色々な面において日中関係に悪影響を及ぼすことになると思われる。