日中特派員たちが書いた日中交流史

 

 

 この10年間、日本僑報社は日中特派員たちの取材生活に関する本を積極的に刊行してきた。『春華秋實日中記者交換40周年の回想』から今年緊急出版した『日中対立を超える「発信力」──中国報道最前線 総局長・特派員たちの声』まで、合計10冊を超えた。『日中対立を超える「発信力」』のために書いた「まえがき・日中対立を打開せよ」をここに掲載し、日中特派員の皆さんが書いた「日中交流史」を共有できたらと思う。

 

 日本の民間団体「言論NPO」が二〇一三年八月五日に発表した同年の日中世論調査結果によると、日中とも相手国に対して良くない印象を持っているとの回答が九割を越え、二〇〇五年の調査開始以来、最悪の数字となった。具体的には、「相手国への印象」について「良くない」、「どちらかといえば良くない」と答えた人は、日本では九〇•一%(前年八四•三%)、中国でも九二•八%(同六四•五%)だった。

 二十二年もの間、日本で両国関係のために仕事をしてきたジャーナリストとして、このような結果には大変ショックを受け、胸が痛む。日中国交正常化当時、お互いの親近感は八〇%以上だったが、ここまで悪化してしまうとは本当に考えられない。今年は日中平和友好条約締結三十五周年で、昨年の日中国交正常化四十周年同様、両国関係にとって記念すべき年であるが、誠に残念でならない。しかし、日中間に横たわるこの「寒流」を一日も早く「暖流」に変えたいと願う人々は、間違いなく日中両国に多く存在すると信じる。本書もこの日中対立の打開に少しでも役立たせたいと思い、緊急刊行した次第である。

 

◆中国報道の最前線から届いた非常に貴重な生の声

 私は九年前の二〇〇四年、『春華秋實—日中記者交換四十周年の回想』を企画・刊行した。この本は、日中両国の現役または元特派員計四十人が執筆し、日中報道だけでなく、日中関係の歩みも記録した一冊となった。この中で企画・編者として最も力を入れたのは、本の最後に掲載した各報道機関の特派員名簿である。

 この四十年間、日中それぞれに派遣された特派員は数百人に上る。私は、彼らが日中両国の相互理解に一番力を尽くしているのではないかと尊敬の念を持ち続けている。しかし残念ながら、彼らの駐在生活や取材、報道については余り知られておらず、名簿さえきちんと残されていなかった。そのため、日中記者交換開始から五十周年にあたる二〇一四年に、記者たちが書いた本をもう一冊作りたいと常に考えていた。

 今年六月、加藤隆則・読売新聞中国総局長と初めてお会いした。初対面にも関わらず、同じジャーナリズムの世界で奔走している両国の者同士が、日中対立を一日でも早く打開するために何をすべきか、それぞれの立場から意見を交換し合った。その際、中国報道の第一線におられる加藤さんをはじめとする日本人特派員たちの奮闘ぶりには非常に感心させられた。この会見を機に企画された本書は、前書の延長線上にある日中記者交換開始五十周年に捧げる一冊でもある。

 この場を借りて、加藤さんをはじめ、執筆者各位の迅速なご寄稿とご協力に心からお礼を申し上げたい。本書は他に類を見ない一冊であり、記者たちの本音を知り、また、日中対立の打開策を探る上で大いに参考になる一冊であると信じている。

 

◆「発信力」が持つ対立打開へのヒント

 本書のタイトルは『日中対立を超える「発信力」』とした。尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる領土問題や歴史認識に端を発した軋轢により、冒頭に引用した世論調査に見られるように、日中の国民感情は最悪の状況に陥っている。このような中で、報道の第一線で活躍するジャーナリストの「発信力」にこそ、日中の市民レベルでの相互理解、ひいては対立打開への多くの課題やヒントが隠されているのではないかとの思いが込められている。

 実は、加藤さんの「編集後記」に端的に記されているように、本書に寄稿されたジャーナリスト各位はみな、近年顕著になった「日本メディアの中国報道への批判」に対する危機感を共有している。日本人の対中感情の悪化を招いた元凶は、日中関係の「悪い面ばかりを報じる」、「中国脅威論を煽っている」マスメディア自身ではないか、という漠然とした説を身近に見聞きしたことのある読者もおられるだろう。

 本書は、このような批判に正面から向き合い、取材・報道現場での迷いも率直に記しながら、それぞれの記者・ジャーナリスト自身の信念や、今後の報道における課題を提示したものである。本書で二十一人が導き出した答えは多岐にわたるが、そこにこそ、ジャーナリストの「発信力」が持つ豊かな可能性を読み取ることができる。

 

◆読者(視聴者)であり、発信者でもある

 日中対立を打開するには、メディア同士の努力はもちろん重要だが、受け取る側の人たちにも考えるべき点があると思う。インターネット時代の新しいメディアであるフェイスブック、ツイッター(中国では「微博」)などが従来のマスメディアに比肩するほどの発展を見せる中で、我々は、できれば両国民全員がそれら新しいメディアを活用し、自ら発信者になってほしいと考えている。

 本書のタイトルを公募したところ、ある読者から「さらば、日中対立」という案が寄せられた。この言葉が現実となる日を迎えるため、また、より希望ある日中の明日を迎えるためにも、両国民に日中報道の第一線で奔走する特派員から学び、相互理解に有益な情報を発信してもらいたいのだ。

 筆者は東京を拠点に、出版活動や中国人を対象とした日本語作文コンクール、日本人及び在日中国人向けの「星期日漢語角」(日曜中国語コーナー)などの活動を行っているが、本書の読者各位には「日中関係改善のための発信者の会」の設立を呼びかけたい。日中という引っ越しできない隣人同士がウィン・ウィン≠フ関係を築くためには、お互いが尊重し合い、気持ちを通わせながら関係を築いていくことが必要ではないかと思う。

 冒頭の世論調査結果が発表された前日の八月四日、朝日新聞が、東京・西池袋公園で開催された「星期日漢語角」が三百回を迎えたことを大きく取り上げてくれた。当日午後開催された記念式典に参列いただいた元新華社記者で現中国大使館一等書記官・鍾瀋軍氏は、星期日漢語角について「日中関係が悪化した時でも交流が続き、日中間には固い絆があると改めて感じた。これからも日中のより良い関係づくりに向けて取り組んでもらいたい」と感想を述べられた。このコメントはNHKニュースでも紹介され、主催者である筆者は大変励まされた。

 今後もこのような地道な草の根交流を継続し、お互いの親近感を少しでも強め、深めることができるよう、さらに努力したい。

 皆さん、ぜひ「発信者」として、日中対立を打開するため共に尽力しようではありませんか!             (段躍中・日本僑報社編集長)