−第18回中国人の日本語作文コンクール

 

最 初 の 読 者

 

西安交通大学 久川充雄

 

 

 

 

 

この度、私の学生である厳穆雪が一等賞を受賞した。2022920日朝、一等賞以上を受賞したことを知り、大変嬉しかったことを覚えている。そして、名誉なことに一等賞以上を獲得した六名の指導教師の一人として、指導経験談を書かせていただくことになった。

 

私の指導教師としての仕事は、最初の読者として皆さまを代表し、学生が書いた作文から感じたことを学生に伝えることだと思っている。「中国人の日本語作文コンクール」には数千人の学生が応募する。そして、博識のある方々が何重にも審査をなさる。その結果として、日本で多くの方々が学生たちの書いた作文を目にすることになる。そのため、作文は審査員及び日本の読者である多くの方々の心を動かせるものでなければならないと思う。私一人の心さえ動かせるものでなければ、到底受賞はできないと思う。つまり、私は心を動かす作文を書いてもらうために、できるかぎり学生の作文から感じたことを学生に伝え、より良い文章にしてもらう義務がある。

 

心を動かす作文を書くためには、学生自身を表現する必要がある。どこかから借りてきたような話、一見美しい文章だけど中身のない話などでは人の心を動かすことはできない。多少稚拙な文章であっても、学生自身の体験したこと、感じたこと、考えたこと、想像したことなどは人々の心を動かす可能性が大いにある。私は少しでも学生に学生自身を引き出してもらうために、とにもかくにも自問自答を繰り返してもらう。

 

私はその自問自答の手助けとして、数えきれないほどの質問を投げかける。そのため、一人一回の指導で一時間前後かかる。時には二時間を超えることもある。指導後に作文を書き直してもらい、また指導するの繰り返しで、第二稿、第三稿と書き進めていき、第五稿か第六稿あたりで完成となる。今回の作文コンクールでは、当時の二年生全員に作文を書いてもらい、その中から八名を選抜し、さらに三年生を一名加えた九名を指導することにした。そのうち二名は残念ながら、一回目の指導後に第二稿を書くことができず、二回目以降は七名を指導した。

 

一回目の指導では、作文全体で伝えたいことが何かを明らかにしてもらう。どのような体験を通じて、どのように感じ、どのように考え、どのように想像し、どのような提言ができるのかを明確に私に伝えてもらう。この一回目の指導が私にとっても学生にとっても一番骨が折れる作業だと思う。伝えたいことがはっきりしない学生もいるが、その学生の作文から光るものを見つけいろんな話をしながら、学生に自分自身の中にある宝物をなんとか見つけ出してもらう。全体の方向性が定まると、学生と私は同じ方向を向いて進むことができ、第二稿以降も順調に進むことが多い。もちろん、第一回目で全体の方向性が定まらないこともあるが、その時は第二稿以降もぼやけた状態で進めることになり苦労する。また、初稿で3500文字を書いてきた学生がいたが、自分の思いのすべてを伝えるという意味で非常に良いと思う。後からいくらでも文字数を減らすことはできる。

 

二回目の指導では、各段落で伝えたいことを明らかにしてもらう。どういった順序で進めるかという構成についても考えてもらう。ここでも、とにかく伝えたいことを明らかにしてもらう。例えば、「楽しかった」とあれば、その楽しさが読者に伝わるかどうか。学生自身が体験した楽しさについて、その起きたことおよび感じたことを読者に伝わるレベルまで思い出し、文章にしてこそ意味がある。文字数の制限もあるし、あえて詳細を書かない場合もあるが、学生には一度は明らかにしてもらう。その上で、考えがあって書かないのはもちろん良いが、ただ伝える努力を放棄しているのは駄目だ。

 

三回目以降の指導では、より細部に渡る。一文一文の精度を向上させる。ここで、大事になってくるのは、できるだけ短い言葉でより多くの情報を伝えることだ。作文には1600字以内という制限がある。一文一文を可能な限り短くすることによって、その分多くの内容を伝えることができる。二回目の指導すなわち第三稿までは、できるかぎり詳細に渡り書いてもらうので文字数は基本的には増える一方だが、三回目の指導すなわち第四稿からは無駄を削り文字数は減っていく。もちろん、必要に応じて新たな内容を追加してもらうこともある。最大で1600字という中で一語一句無駄にせずに、より良い作文にするように努力してもらう。

 

以上は分かりやすくした私の指導方法の手順だが、学生の個人差は大きく状況に応じて対応する必要がある。ただ、私が最初の読書として感じたことを率直に学生にぶつけ続けることには変わらない。本とは作者の思いを読者に伝えるものだ。私はその読者としての役割を精一杯果たすため感じたことを余すことなく伝え、学生には作者として自分の思いを余すことなく伝えられるように役割を精一杯果たしてもらう。

 

また、優秀な作品から必要なことを感じ取ることも大事だ。「中国人の日本語作文コンクール」の締め切り3か月前には、学生たちに「中国人の日本語作文コンクール」過去4年分の貸し出しを開始し、過去受賞者の優秀な作品を味わってもらった。2か月前には、弊校学生の過去受賞者である馬礼謙(2021年一等賞)および張佳穎(2020年二等賞)にそれぞれ書いた作品について解説してもらった。

 

毎年行われる「中国人の日本語作文コンクール」は歴史がある大会で、今回で第18回目の大会になる。その中で入賞する作品は本当に素晴らしい作品ばかりだ。今回の書籍は、この原稿を書いている段階では中国西安にいる私の手元には届いていないが、一等賞以上の六名の作文が中国語に翻訳されたものを見る限り、最優秀賞の李月さんの作品を始め素晴らしい作品ばかりだ。届いたら、じっくり読んでみたい。学生たちにも読んでもらいたい。

 

私の学生たちはこの作文コンクールへの参加を通じて大きく成長した。一つの作文を本気で書きあげる過程を経験することは学生にとって有益だと思う。また、指導教師は学生が悩みに悩んで作文を書く中で、何が学生を苦しめるのか理解することができる。学生にとっても指導教師にとっても成長する良い機会になると思う。まだ参加したことのない学校、学生にもぜひ参加してみてほしい。