日中交流の主人公たちを導く 中央民族大学 吉田理華 この度のコンクールでは、本学の学生が一位入賞というすばらしい評価をいただきましたことに心から感謝申しあげます。私が中央民族大学で作文指導を始めて、五年が経ちました。指導教師ではありますが、このような結果は私一人の力ではありません。日頃の授業の中で、毎週真剣に課題に取り組んできた学生たちの努力の賜物であり、また日本語科の全ての先生方の熱心な学生指導によるものと思っています。 中央民族大学は、中国の各地から五七の民族の学生たちが集まる中国の縮図のような大学です。キャンパスは互いの多様性を認めつつ非常に調和しています。私たちの日本語科は一学年一クラスで、アットホームな雰囲気です。作文の授業は二年生から始まり、一学期、二学期の一年間を通じて、N1レベルまでの文法のポイントや基本的な文章の構成方法を押さえ、四〇〇字前後の作文を書きます。三年生の一学期では更に書き言葉の文法や日本語らしい語彙の使い方を強化しつつ論理性を磨き小論文を書き、二学期には研究活動に欠かせないアカデミックライティングを学びます。一般的に作文は苦手意識を持つことが多いと言われ、民大でも三年生の作文は必修科目ではありませんが、作文クラスは多くの学生に撰択されています。 コンクールへの参加はこれまでの学習成果を確認することにもなるため、日本僑報社の第十八回「中国人の日本語作文コンクール」の主旨と応募のための規定や課題の説明を行い、授業の一環として全員が作文を書く旨を伝えました。作文完成までの具体的な手順は、まず、学生がテーマを撰択してタイトルを決め、アウトラインを立てます。次に、自らの構想に基づいて最後まで書き上げます。この後、教師の指導を経て、最後は学生自身で作文を推敲、編集、校正し、完成するという段階を経ています。ここで再度皆がコンセプトを確認し、一人一人の意志で作文コンクールの応募を決めました。こうしてでき上がった作文は、その一つ一つが「日中国交正常化五〇周年を思う」ことについての真摯な取り組みであり、私の方から文字数の不足を指摘したことはほとんどありません。 作文はパソコンに向かえば言葉が泉のように湧き上がり、誰でもすぐに上手書けるわけではありません。例えば、コンクールの規定の文字数は一五〇〇から一六〇〇字ですが、これは通常の授業で課題としている文字数を越えています。勉強に多忙な学生たちにとって、作文の完成は時間との戦いであったと思います。まとまった時間が取れないと嘆く人も多いかもしれませんが、スマホのメモ機能などを使って、隙間の時間に考えたこと、アイデアを書き留めることも良い方法です。また、中国語は漢字のみで表記され、漢字は一つ一つが深い意味を持ちます。それは中国語を愛する私にとって魅力の一つでもありますが、中国語の語彙をそのまま日本語に使えば、肩が凝りそうで難解な日本語になってしまうのも事実です。そこで、わかりやすく参考になるのが、常用・当用漢字と辞書の表記方法です。では、作文指導とは、文章表現のテクニックを教えることなのでしょうか。 確かに文章を書くための技術は、自身の考えを整理し、誰にとっても分かりやすい文を書く上で必要不可欠なものですが、それと同様に私が作文指導において大切にしていることは、そこにある学生たちの「心」を発見し、可能性を最大限に引き出すことです。今回の受賞作では、繆さんの「先生への感謝」の心が素直に語られていました。人に感謝できるということは、自分を魅せることから成長した大人の証かもしれません。学生たちはご両親に愛され、豊かな教育投資を得て力強く成長し、いつか親たちの世代を超えていきます。教師もまた学生たちの成長を喜び、時に教え子たちの友となり、いつか立派になった彼らに追い越される日が来るかもしれません。しかし、人と人の間に感謝の心があるのなら、それは教師の存在に対する最大の肯定であり、教師にとっては自己の役割に対する誇りとなり、感謝は互いを結ぶ強い絆になるでしょう。 日中国交正常化から五〇周年を振りかえるとき、このように身近なところに今後の日中関係の展開における鍵があるのではないかと思えてなりません。学生たちの作文における日中の未来は、数々のアイデアに満ち、どのような環境にあっても絆で結ばれ、互いの発展が描かれています。そこには素朴で心温まる物語があり、ダイナミックなプロジェクトがあり、日中交流の物語が多彩な展開を見せています。彼らは将来、大学院に進学したり留学したり、ある人は公務員や日本と関係する企業に入り社会人になります。つまり日本語を学ぶ学生たち、若いみなさんこそが、日本や中国の各界で活躍する日中交流の主人公たちなのです。 このように考えると、作文の指導とは、実は主人公たちが日中両国の素晴らしい未来を描き、自らの人生を通してそれを創造してゆくための導きでもあるのです。私自身も今後とも多くの学生とともにこの作文コンクールにおけるチャレンジを続け、日中交流の歴史の一端を担っていきたいと思います。 |