−第18回中国人の日本語作文コンクール

 

表彰式における指導教師の挨拶文

 

西北大学 高橋智子

 

 

 

 

 

皆さま、こんにちは。西北大学の高橋智子と申します。

 

この度、指導した学生・李月さんが「中国人の日本語作文コンクール」の最優秀賞・日本大使賞をいただき、皆様にご挨拶を申し上げることを、誠に光栄に存じます。今年、西北大学は創立120周年を迎え、大学内では記念イベントが各種開催されました。その真っ只中に栄えある大使賞を受賞しました事は、李月さんにとっても私たち日本語学科にとっても、二重の喜びとなりました。

 

李月さんの作文指導も二人の教師による二段階式でした。まず、王歓先生の指導によって、李月さんの原稿はおかずがきれいに配置されたお弁当箱のように、いくつかのエピソードが整然とまとめられていました。私はそれらの中で特に美味しそうな「おにぎり」に関するエピソードに目を付け、それを中心にした原稿内容の再構成を李月さんに提案し、指導しました。もちろん、王歓先生の許可を得た上でのことです。

 

学生達への作文指導方法は、先生によって異なるでしょうが、どの先生もさまざまな試行錯誤を繰り返し、またその学生の状況に合わせて調整していることは共通していると思います。私の場合は、指導学生に「初稿(草稿)は文字数を気にしないで書きたい事、伝えたい事、思った事を、どんな小さいことでもいいから、全て書き表してください」と指示します。そして、それらの中から軸となるユニークな素材やエピソードを発掘し、学生本人と一緒に展開や構成を整えていきます。この文字数無制限の長文の初稿は、後々、学生が作文活動のスランプに陥った時にも役立ちます。例えば、学生が「もうアイデアがない」と嘆いた時には、この初稿を見直させて素材を再発掘させます。学生にとっては忘れかけていたエピソードの記憶を思い出すきっかけになり、作文活動を続ける自信や意欲となります。

 

これまでの作文指導において、私には印象に残っている言葉があります。コロナ禍前のある日、作文コンクール指導チームの中国人の先生の一人に言われた言葉です。「高橋先生、中国人と日本人では作文のまとめ方が明らかに違います。中国人は華やかな比喩表現や美文を好み、様式美を重視します。一方、日本人は具体的なエピソードが入った個性的な内容が好きなのですよね。」私ははっとさせられ、「そうですね、確かに日本人の作文にはそのような傾向がありますね。カメラのピントを絞り込んでいくような感じでしょうか」と答えました。その先生は私の答えに納得したように頷いて、「じゃあ、私たち指導する側は、そのような違いについても理解した上で指導しなければなりませんね」と微笑みました。

 

この教師同士の何気ないやりとりも、李月さんが注意喚起している「日常生活の中の親近感につながる物」の一つだと言えましょう。実は、私たちは学生側も教師側もこの作文活動を通じて、すでにその相手への親近感の「素」をいくつも共有していると言えます。きょうのこの表彰式の中にも、私たちは親近感の「素」をいくつも発見できることでしょう。

 

日中国交正常化50周年を迎えましたが、今後も両国の草の根の私たちが、相手に寄り添い、小さな交流を丁寧に積み重ねていけば、李月さんの言う「親しみのある物語」はあちらこちらで確実に続いていくことでしょう。

 

最後になりましたが、このコンクールの主催者である日本僑報社・日中交流研究所の方々、コンクールを協賛・後援してくださっている企業と団体の方々、各段階の審査委員の方々に、厚く御礼申し上げます。そして、第18回の一等賞を受賞した学生の皆さんとその指導を担当された先生方へもお祝いを申し上げます。おめでとうございます!

 

以上を持ちまして、私の挨拶を〆させていただきます。皆様、ご清聴ありがとうございました。