コロナ禍でもつながる日中

20221224日 朝日新聞東京版

 

 

 

今年で18回目を迎えた「中国人の日本語作文コンクール」(主催・日本僑報社、後援・在中国日本大使館など、メディアパートナー・朝日新聞)の表彰式がこのほど、オンライン形式で行われた。コロナ禍に負けず、ネットなどを通じて日本の友人と結びつきながら力強く夢を追う若者たちの姿が浮かび上がった。

 

 ■一人一人が抱く親近感、両国を結びつける「粘り」に 自動翻訳ソフトの弱点、補うためには知恵が必要

 

 最優秀賞(日本大使賞)に選ばれた西北大学外国語学部4年の李月(リーユエ)さん(22)は、大学のある古都・西安にも進出する日系コンビニのおにぎりを題材にした。

 

 おにぎりの中国語訳は「飯団(ファントワン)」。アプリで交流する日本の友人、美穂さんに「何か、グループみたい」と言われて以来、コンビニでおにぎりを見るたびに、「ご飯の団体だなあ」と思うようになった。

 

 美穂さんに教えてもらったやり方でおにぎりを作っていた時、李さんは「中日関係はまるでおにぎりのようなもので、私たちはそのおにぎりのお米の一粒であると同時に、おにぎりを握る両手だという感じがしてきました」と書いた。

 

 そして、最近の両国関係には、互いを結びつける「粘り」が欠けていると指摘。粘りを生むのは一人一人が抱く親近感であり、「親近感につながるものを発見しようとする意識」ではないかと問いかけた。

 

 1等賞の広東理工学院日本語学部3年の周美トン(チョウメイトン)さん(20)は、日本留学の夢を母に語った時、「日本に行くなら、帰ってこなくていいわよ」と言われ、ショックを受けた。しかし、オンラインでつながる日本の友人が周さんの母の手料理の写真を褒めたのをきっかけに、少しずつ母の日本嫌いは和らいでいった。

 

 今では母も、友人が送ってくる日本の風景動画を心待ちにするほどに。日本の大学院に進み、ジャーナリストとして日本の本当の姿を伝えたいという周さんの背中を押してくれている。

 

 日本語を学ぶきっかけとしては近年、日本の漫画やアニメを挙げる人が目立ってきたが、多様化の兆しも表れている。

 

 1等賞の西安交通大学日本語学部3年、厳穆雪(イエンムーシュエ)さん(20)は日本のお笑いの大ファンだ。高校時代に動画アプリでみた「アンタッチャブル」の漫才にはまった。「字幕ではもの足らない」と独学で日本語の勉強を始め、作文では人気芸人が若手の貧しい時代に食べた「下積み飯」を自分で作った話などを書いた。

 

 厳さんは「日本と中国は笑いのポイントが違う。日本は想像力が豊かで、現実離れしているネタが多い」と分析。将来の夢は日本留学して会計士を目指しつつ、劇場で生のお笑いを楽しむことだ。

 

 作品は、時代や社会の変化を映し出す。

 

 いずれも1等賞の天津外国語大学日本語学部4年の郭夢宇(クオモンユイ)さん(20)と、北京第二外国語学院文化・放送学部3年の張紀龍(チャンチーロン)さん(21)は、中国でも急速に浸透する自動翻訳ソフトの便利さと弱点をテーマにした。日本でも中国でも、観光客用に相手の国の言葉の表示が増えたが、翻訳ソフトに頼りすぎ、おかしな表示が目立つようになっていると指摘。補うためには、人間の知恵やネットワークが必要だと訴えた。

 

 2人は日本での実体験を持っている点も共通している。9月に京都で念願の留学生活を始めた郭さんは、「天津と比べて建物が低く、空が近い」と、古都の街並みから新鮮な感動を味わっている。将来は日本語教師になるのが夢だ。

 

 張さんは2018年に青年交流事業で訪日した時、大阪のホテル従業員が中国語で語りかけてくれた姿が忘れられない。「一生懸命話そうとしてくれる姿に、とても親しみを感じた。日本のサービスは完璧だった」と、次の訪日のチャンスを心待ちにしている。

 

 しかし、学生の多くは、コロナ禍で日本留学や日本旅行のチャンスを逃してきた。

 

 梶井基次郎や太宰治など日本文学の世界に導いてくれた恩師への感謝を、豊かな日本語表現でつづった中央民族大学外国語学部4年の繆名媛(ミヤオミンユワン)さん(20)もその一人だ。

 

 3年生の時、千葉大学への交換留学が予定されていたが、コロナ禍で中止に。「留学できない分、その時間を大事にしたい」と、進路を大学院進学に切り替え、勉強に励んだ。目標に向けて信念を貫く「魂」は、大好きな日本の漫画やアニメから学んだものだ。そのかいあって、推薦での大学院進学が決まったという。日本文学を専攻して日本語教師になるという夢を、ぶれずに追っている。(北京=林望、顔写真はいずれも本人提供)

 

 

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 <中国人の日本語作文コンクール> 2005年に始まり、中国で日本語を学ぶ若者の力試しの場として定着。今年は中国各地の205の大学、専門学校、高校などから3362点の応募があった。新型コロナの影響で表彰式は2年連続オンライン形式となり、最優秀賞、1等賞の計6人が日本語でスピーチした。詳細は日本僑報社のサイト(http://duan.jp/jp/index.htm