@文体の統一
文章表現上、常体文と敬体文の統一は当然のこととして、最初に学生に指導するのは「書き言葉」の使い方です。
中国のほとんどの大学では、日本語文法以外では、先ず会話、聴解の授業から入り、作文の授業は二年生の後半からだと聞いています。したがって、学生は「話し言葉」から覚えてしまう傾向がありますので、「書き言葉」があることを示し、両者の違いを説明します。書き言葉の中にも、普段使うもの(柔らかい書き言葉)と論文などで使われるもの(硬い書き言葉)とがありますので、その使い方に関しても文章全体の「書き言葉」が統一されているかを注意させます。
多く使われる「話し言葉」は、
「ずっと」、「やっぱり」、「でも」、「すごく」、「いっぱい」などです。
これらの「話し言葉」を「書き言葉」に換えさせます。また、文末の「話し言葉」であれば、文体の違いも併せて違いを明確にします。
例:すごく とても(柔らかい書き言葉)・非常に(硬い書き言葉)
言っちゃった 言った(常体文)・言いました(敬体文)
A表現力の養成方法
文章表現力の向上のために取り組んできた方法は、既に述べたように文章を書く前の準備が必要です。
良く「考える」ために、取り入れた方法で主なものは以下の点です。
1)短文のしりとり
これは想像力と創造力、そして語彙数の向上に役に立ちます。
ある一つの単語を使い、短文を作ります。次に、その短文の中に出てき た単語を一つ選び、また短文を作ります。
これを繰り返していきます。
例:学生 私は大連の学生です。 →大連を選ぶ
大連は海がきれいです。 →海を選ぶ
私の故郷には海がありません。→故郷を選ぶ
故郷の広い草原が好きです。 →草原を選ぶ
これを繰り返して、短文を作り続けていきます。
2)指定された単語と文型を使う
自己の持つ日本語力が実際に書く段になって、使える日本語力になっているか、文章表現が適切にできるかを確認することができます。
指定された単語や文型を使い、文章を書くので想像力・単語力・表現力を養うことができると思います。
文型の指定の例:
「動詞+てあげる」・「〜より〜のほうが」・「〜に夢中で〜」・
「名詞+になると〜」・「形容詞+くなると〜」・「動詞+と〜」など、
数多くの文型を提示します。
単語の例:
「感動・感激・感心・感嘆」など、表現として相応しい単語は何を使うべきかを考えさせます。
3)意見文と事実文
自己の書いた文が「意見」なのか「事実」なのか、または両方が含ま れているのかを確認させ、作文内容を整理させることと同時に表現が適切か否かを考えさせます。
例:(意見文)
環境保護に一人一人ができる範囲で協力するのは当然である。
(事実文)
放っておけば、自然に分解するプラスチックができた。
(混合文)
東京タワーからは美しい富士山が眺望できる。
「美しい」は個人の判断で意見となり、事実の「眺望できる」 と混同している。
4)オノマトペ(擬音語・擬態語)の使い方
情景描写などの表現を的確にできるように、個々の単語の意味と感覚を理解させます。
例えば、雪の降り方には、どの様な感覚の降り方がありますかと、学生に問いながら個々の学生の感性を日本語で表してもらい、一般的なものから学生が作り出したものまで質疑します。
余談ですが、漫画にはオノマトペが豊富にありますので教材に良いかもしれません。
5)言葉の心理
「はじめに」で述べたように、言葉には、その言葉を使う民族の生活習慣や伝統文化、歴史が刻まれています。したがって、言葉の裏にある心理を理解しなければ良い文章表現はできません。
この課題は、中国人大学生には重すぎるかもしれませんが、説明はしています。
例:あなたから預かったお花は良く育ちました。(自動詞)
あなたから預かったお花を良く育てました。(他動詞)
両者の主張の違い 花が自然に育ってくれた。
私が育てたのだ。
文型 → 動詞+(し)てあげる。
何かを他人にしてあげることは必ずしも「良いことだ」とい うことはではありません。押し付けになる場合があります。
この文型が作文中に書かれたときに、何かを「あげた側」と「された側」では、どのような心理状態だったのかを的確に文章表現しなければなりません。