読みたくなる作文とは
河北工業大学 高良和麻
 

□作文の心得
  日本人作家の東野圭吾氏の作品は、全世界で人気がある。なぜ多くの方に好まれるのか。このことをファンの学生に聞くと、「おもしろいから」というコメントぐらいしか返ってこないが、もう少し掘り下げて言えば、作品の中に読者を「惹きつけるもの」、例えば、今までに聞いたことのないような発想で、感動する話やロマンチックな話、ためになる話などが書かれてあるからであろう。逆に言えば、「惹きつけるもの」がない、例えば、当たり前のことやほかの作品と同じような内容などであれば、読みたい人は急激に減るだろう。作文にも同じことが言え、「惹きつけるもの」がなければ、好評価を得ることはない。
  具体的なテーマ「もしドラえもんのポケットがあったら、何をしますか?」を使い、少し考えてみよう。このテーマだけを与え、ほかのことは一切何も言わず、学生に作文を書かせたら、「『どこでもドア』を使い、世界中を旅行したい。」というような自分のことばかりを考えて書いてしまう作文が目立つ。自分しか読まない日記などに書くなら、これでもいいかもしれないが、作文コンクールに提出するような読者がいる作文となれば、話が変わってくる。もしこのテーマに対し、「物を大きくする『ビッグライト』を使い、限りある資源を増やし、物を小さくする『スモールライト』を使い、ゴミを減らす」などの地球にやさしいことを作文に書いたらどうなるだろうか。思いつかなかった人ならきっと深い印象が残り、この作文は素晴らしいと感動するのではないだろうか。ここで気づいて欲しい、作文も会話も同じで、相手がいることに。ただ作文は目の前に人がいないだけだ。もう一つ、気をつけなければならないことがある。それは、相手である読者のことだけを考え、本心ではないことを書く行為だ。そんな気持ちで書いた作文には、書いた本人の本気度が全く読者に伝わらないだけでなく、無意味だからだ。
  まとめよう。読者が素晴らしいと感じるような読みたくなる作文を書きたいなら、「本心から読者を『惹きつけるもの』を含む作文を本気で書くこと」だ。ただそれだけだ。この心得に気づいてもらうために、作文の授業ではグループ学習を導入している。

□作文の授業でのグループ学習
  グループ学習では、主に二つのことを行っている。
  一つ目は、学生同士で切磋琢磨しながら、読者を意識して文章を正しく書く能力を高める学習だ。具体的には、まず一人ひとりの学生が自分の力だけでテーマに沿った作文を書く。次に、書いた作文を、同じグループの友達に読み聞かせ、意見を言ってもらう。最後、その意見をもとに、作文をより良い作品に仕上げる。このグループ学習では、仲良しの友達に読んで聞かせることで、内容について忌憚のない意見や、作文の中の間違えている文法・漢字の指摘など、書いた本人には気づきにくい大切なことが友達から得られる。読み聞かせ後のコメント中、まれに、白熱しすぎて、ケンカになりそうなときもあるが、それだけ友達の作文を真剣に考えている証だと私は受け取っている。ところで、なぜ友達に読ませるではなく、読み聞かせるのか。その理由は、書いた本人が漢字を正しく読める学習になるのと、聞いている友達の聴解能力を高める学習にもなるのと、読み聞かせたほうがグループの友達一人ひとりに読ませるより、一度で済み、効率的である、つまり一石三鳥だからだ。
  二つ目は、「百聞は一見に如かず」という諺の通り、作文コンクールで上位に入賞している作文を読み、どのような作文が読者の心を打つことができるのかをグループでディスカッションする学習だ。内容・表現が良かったところをコメントするだけで終わりではない。このテーマに対し、自分だったらどのようなことを書くかなど、グループの友達同士で言い合ったりもしている。このグループ学習を通し、多くの学生は自分自身で自分が書く作文には致命的な問題点、読者を「惹きつけるもの」がないことに気づくことができる。それだけはない。一読者である審査員の気持ちも知ることができ、自分が書く作文を根本から見つめ直すことができる。
  ここではっきり言おう。二つのグループ学習を通し、作文の心得に気づくことができ、作文の授業だけで、正しい日本語の文章をある程度書けるようにはなるが、残念ながら、作文コンクールで上位入賞するような作文が書けるレベルになることは難しい。理由は簡単だ。本心から本気で作文を書いていない、もう少し正確に言えば、本心から本気でまだ書けないからだ。本気で書けないのは、読者を「惹きつけるもの」に一読者でもある書く本人さえわからずに作文を書いているからだ。しかし、言葉で読者を「惹きつけるもの」と言うのは簡単だが、それを具体的に文字にして表すのは難しいと言いたくなる学生の気持ちもわかる。そこで、読者を「惹きつけるもの」の正体を知るためのヒントになりそうなものを、大学で独自に行っている日本語サロンで紹介している。

□日本語サロン
  日本語サロンと聞くと、会話の練習を想像する人が多いだろう。確かに、本大学でも会話能力を上げることを目的に毎週日本語サロンを行っているが、参加者全員に話しやすそうなテーマを与えて会話するだけではない。本大学の日本語サロンでは、教科書の内容だけでは物足りない部分を補ったり、学生が興味を持ちそうなことを紹介したりすることで、学生自身の日本語に対する学習意欲をさらに高めると同時に、日本語会話能力および思考力も上げるようにしている。例えば、食べることが好きな学生のために一緒に日本のカレーを作ったこともある。その時、学生は日本と中国のカレーの味を比較することができただけではなく、「給食」という日本の文化も実体験することができ、大変喜んでいた。iPadで「桃太郎電鉄」というゲームを通し、日本の地理を一緒に勉強した時は、学生は時間を忘れるぐらい夢中だった。もちろん、真面目にディスカッションすることもある。日本の運動会の動画を見せ、日本と中国の運動会の違いについて話し合ったりしたこともある。最近だと、日本で話題の「人生100年時代」を取り上げ、これからの生き方について真剣に考えたこともある。東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」を紹介し、被災者のことを思いながら歌ったこともある。
  学生にとって時間を忘れるくらい没頭する体験こそ、作文の心得にある読者を「惹きつけるもの」に繋がる。なぜなら、このような体験内容を含む作文は、一読者でもある書く本人が本心からおもしろいと思い、本気で書いているからだ。今回上位6位以内に入賞できたのも、私の学生が無我夢中で作文を書いた結果だと思う。今後も、学生が本気で作文を書きたくなるような、まさに学生のやる気スイッチをオンの状態にできるようなことを日本語サロンで取り上げていく予定でいる。

□おわりに
  作文の心得である「本心から読者を『惹きつけるもの』を含む作文を本気で書くこと」を読者に伝えるために、長々と偉そうなことを書いたが、このレポートも読者を「惹きつけるもの」をより多く含めようと、何度も練り直し、何度も書き直して本気で書き上げたものだ。最後まで付き合ってくれた読者の皆さんにご満足いただけたら、このレポートも読者を「惹きつけるもの」を含む作文だと言えるだろう。

 



氏名:高良和麻

指導大学・学科名:河北工業大学 外国語学院

日本語科略歴:茨城大学大学院博士後期課程修了後、2年間の数学教師を経て、日本語教師になる

日本語教師指導歴:2014年4月〜現在まで 河北工業大学

 

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