感動はここからはじまる〜授業外活動からの作文指導アプローチ〜
中南財経政法大学 中村紀子
 

2017年10月 中南財経政法大学 南風社日本語サロン・ミニ講座

  今夜は皆さんに中国人の作文コンクールについてお話ししたいと思います。
  2012年に南風社を作った時、私は中南財経政法大学日本語学科を十年で全国的に有名にする目標を立てました。しかし、私達の力で、大学の名前を世に広めることはなかなか難しく、どうすればいいか頭を悩ませていました。今から五年前、偶然、段躍中先生と作文コンクールのことを知りました。このコンクールには努力を認めてくれる園丁賞があるではありませんか!ここから私達の挑戦が始まったのです。
  初めの二年間は試行錯誤の毎日でした。私自身が作文の授業を担当していなかったので、すべてが授業外からの取り組みです。最初の仕事は先輩達への意識改革から。この作文コンクールは個人戦ではなくて、団体戦!私達みんなで挑戦していく感動の舞台だよ!と訴え続けました。
  さて、四千作品以上の作文の中から、三等賞以上に選ばれる人は約80名、割合でいうと約百分の二です。かなりの高倍率ですが、いったいどんな作文が選ばれているのでしょうか。
  ここには過去数年間の作文コンクール受賞作品集があるので、次のサロンの時に早く来て読んでみてください。入賞レベルがわかったら、声に出して読んだり、特に気に入った作品を書き写してみます。音楽でも、絵画でも一番最初の練習は、お手本を徹底的に真似するところから始まります。作文も同様です。
  百人の中の二人に選ばれるには、皆さんがこの作文を書く理由を明確に読み手に伝えられなければいけません。いきなり文章を書きだすのではなく、なぜこの内容なのか、一番伝えたいことは何か、まず作文の設計図やマインドマップを作りましょう。これは作文のことだけではありません。私達の日常生活全般で、なぜ自分はこうするのか、きちんと説明する意識をもち、伝える力を磨きましょう。
  テーマ作文の場合、学生が書く内容は絞られてきます。その中でよくある言葉や主張、展開を使うようでは、数千の作文の山の中から手に取ってもらえません。人を探すなら顔を見ます。では、作文の顔は何でしょうか。そう、タイトルです。ピカッと光るタイトルが用意できたら、その作文は半分完成したようなものです。これはどう練習すればいいでしょうか。皆さんは、毎日微信や微博などでメッセージを出していますね。そこに毎回タイトルをつけてみましょう。おもしろいなと思ったら、賛をつけますからね。
  私が考える素晴らしい作文とは、誰も書かないことを誰もがわかるように書いた「特別で、普通の」文章です。そして、読んでいるうちに読み手が書き手と同化する瞬間があるものです。そのためには自分の文章が人を感動させられるかどうか、客観的に見つめる視点が必要です。経験した本人でなければわからない文章では説得力が全くありません。
  これはこうやって練習していきます。何か美味しいものを食べた時、美しい景色を見た時、かっこいいイケメンや可愛い猫に出会った時、SNSで私にその感動を伝えてください。言葉がわからなくても、間違っても構いません。あなたの心のわくわくが新鮮なうちに教えてください。私もその感動をたっぷり味わって、私の感動を伝えますから、そこで使っている文法や語彙をどんどんおぼえていってくださいね。
  実は一等賞を二年連続で受賞したくんくん先輩は、出会った当初は決して優秀ではありませんでした。彼女が他の学生と違っていたのは、毎日毎日私にいろんなことを伝えてきたことです。一年で微博の私信のページが二百枚近くになりました。皆さんはこんなすごい先輩とサロンで毎週会えるチャンスがあります。ぜひ先輩に一等賞をとる秘訣を聞いてみてください。もしかして、私の話より効果的かもしれません(笑)
  もう一度繰り返します。私達中南財経政法大学日本語学科にとって、この作文コンクールは孤独な闘いではありません。南風社の活動の中で感動をみつけ、伝えあい、それを言葉で表現し、より良い作品に仕上げていきましょう。そして、来年いっしょに北京の日本大使館の舞台へ上がりましょう。

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  前回、今回の作文コンクールでは、南風社の活動に特に熱心に取り組んだ学生が良い結果をいただいた。この感動の舞台を作ってくださった段躍中先生、四年間、物心共にご協力くださった森田拓馬先生、常々的確なご助言をくださる照屋慶子先生、そして、南風社の諸活動を温かく見守ってくださる中南財経政法大学外国語学院の先生方に心より感謝申し上げる。
  南風社サロンは学生達が日本語で自分の感動や気持ちを伝えあう場である。最後に先日、照屋先生からいただいたサロンの感想をお借りして筆をおきたい。

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     張君恵さんが第13回中国人の日本語作文コンクールで史上初の二年連続一等賞を達成した聞き、多少なりとも関わった私としては大変嬉しく誇らしく感じている。「素晴らしい」「快挙だ」「歴史に残る」と思う人も、「偶然?」「何で?」「実力?」と思う人もいるかもしれない。
街が国慶節休暇の賑わいを見せる9月29日、私は中南財経政法大学日本語学科南風社の日本語サロンに参加した。
  開始時間の19時前、中村先生の部屋のリビングに学生が続々集まってくる。サロン長が沖縄の写真を部屋中に貼り始める。南風社サロンでは時折、ゲストによるミニ講座が開かれ、その日は私が沖縄について話すことになっていた。BGMの「ハイサイおじさん」と写真のおかげで、部屋には「沖縄」ムードが一気に充満し、南風社サロンが始まった。
  一時間半にわたるミニ講座の間、ずっと立ったまま話したり、歌ったり、笑ったり、踊ったりした。実はその一週間前、私は部屋で転倒して、頭と腰を強打して病院に運ばれている。サロンの前は疼いていた腰の痛みは不思議とどこかへ飛んでいた。学生達は皆明るく元気で、私のちょっとした一挙手一投足にも大笑いしてくれた。本当に楽しく充実したひと時を過ごした。
  南風社の日本語サロンは、習得した日本語が楽しく実践できる場だ。学生達は笑顔で、しかもきれいな発音で日本語を話していた。きれいな発音こそ日本語教育の基本だと私は思っている。南風社のレベルの高さを実感した。
  話す楽しさが満ち溢れている場を用意することが一番大切だと中村先生は考えている。このサロンを六年以上も毎週続けて来たと聞き驚いた。時代の流れとともに変容を見せる学生達に対し、飽きさせない場を提供し続ける事は至難の業だ。
  中村先生作詞の「南之風」という南風社の歌も心をつなぐ絆の一つとして代々歌い継がれている。胸がきゅんとなってしまう歌詞と歌声だ。「社歌」「社章」「社訓(結束・結果・継承)」の三つがある日本語学科は全国広しといえども、中南財経政法大学の日本語学科だけだ。
  史上初の二年連続一等賞と佳作以上、三等賞以上の受賞者数が全国一になったのは、中村先生が心血を注いで作り上げ、続けている南風社の日本語サロンにあると確信した。長年の異彩を放つ努力の積み重ねとそれを目の当たりにする学生達からの絶大な信頼が結実したのである。
  先生はこの南風社の諸活動のほか、中村Radioというネットラジオ番組を通して、日々中国の若者に熱いメッセージを送っている。鉄人としか言いようのない活躍である。

 


氏名:中村 紀子(なかむら のりこ)  

略歴:
1970年生まれ、千葉県出身。立正大学文学部史学科卒。個別指導塾教室長勤務を経て、2003年湖北省武漢市世達実用外国語学校に赴任。2011年より中南財経政法大学外国語学院日本語学科教師。

 

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