「日本語作文コンクールの作文を書いてみませんか」と学生に聞いてみたところ、「先生、すみません、普段は400字ぐらいの文章しか書いていないので、いきなり1600字ぐらいの作文を書くのはちょっと…」という答えがほとんどだった。それだけではなく、「コンクールだから、うまく書かなきゃいけないし、私にはできるもんか…」とすぐ諦める学生もいるし、「オリジナルの作品を書きたいけど、今、頭の中で何も浮かばない…」と嘆く学生もいた。
では、なぜ学生達はこのように思っているのだろうか。その理由を分析するために、学生達の日本語学習の現状について簡単に紹介したい。
まず、私が今教えている学生のほとんどは、大学1年生から日本語の勉強を始めた学生たちだ。そのため、大学の2年生と3年生になると、日本語のレベルは、それぞれ日本語国際能力試験の2級と1級前後の程度だと考えてよい。また中国国内で実施された日本語4級の試験に合格するために、学生全員は授業で60分以内に350〜400字の作文を書き終わらせる練習をしている。その中の約3%の学生は日本語8級の試験の準備で、450-500字の作文の練習も個人的に行っている。その結果、学生たちは400字ぐらいの文章は書き慣れているが、長い文章は書けなくなっている。
それから、今の学生たちは大学受験に合格してから、作文を書くことはめったにない。日本語どころか、中国語の作文でさえ、書くのは自信がないという学生は少なくない。資格試験の直前にいくつかの例文を暗記し、それをまね、決められたテーマに沿ったものだけを書く。コンクールに出す作品を書くことは、自分にとって絶対無理だと思い込んでいる学生が多い。
最後にまた、オリジナルな内容を書く事にこだわりすぎてしまい、何も書けなくなる学生がいる。一方ではネットサーフィンの常連さんである若者だが、ウェブサイトを通じ関連情報を収集することに慣れている。しかし、膨大な情報と知識をどのように選別、活用し、自分なりに新しいものを生み出すかという能力、努力が欠けているようだ。
当時の私は教師として、押されても前へ進まない学生達のことに悩んだ。そこで、私は次のことを考え、実行してみた。
第一に、作文の授業で徹底的に、書くための基礎知識を教え、短文のほか長い文章も書いてもらうようにしている。
1.基礎編において表記の仕方や句読点の使い方や書き言葉の普通体と連用中止形や、話し言葉と書き言葉の区別や文章の構成などについて紹介する。その中で学生にとって一番難しいことは話し言葉と書き言葉の区別である。たとえば話し言葉の「だから」、「でも・だけど」、「あんまり」、「とっても」、「やっぱり」、「どんどん」、「ぜんぜん」、「ぺらぺら話す」、「なんか」はそれぞれ書き言葉の「したがって」、「しかし・だが」、「あまり」、「非常に」、「やはり」、「急速に」、「全く」、「なめらかに話す・軽い口調で話す」、「など」と対照して教える。
2.表現編において場所、因果関係、伝聞・引用、変化などを表現する短文を教える。「〜から」、「〜(の)おかげで」、「〜によると〜そうだ」、「〔動詞〕ようになる」などの文型を例文の中から探し、その使い方をマスターさせる。さらに適切な言葉で空欄を埋めるなどの練習問題を解き、文法に従ってやや短い文を書く訓練をしてもらう。
3.最後の実戦編においては要約文、説明文、意見文などの例文を出し、説明したうえで学生たちに書いてもらう。最初は400字の文章を書かせる。それから長い文章を書く。「800字の文章を書いてください」と教師が学生に言った時、不満の声が聞こえたが、教師の指示通りに書いてもらううちに学生たちは段々上手になり、不平の声が聞こえなくなった。800字の文章が書けるようになってから、また400字の作文に戻る時、わりあいに簡単に書けるようになった。
第二に、うまく書きたいと思っているのに、上手に書けない場合、「うまく書きたい」と思う意識が強すぎる事に問題があると指摘し、その考にこだわらずに素直な気持ちで書けば、自分なりのいい文章を書けると説明してあげる。
学生たちにきちんとした文章を書きなさいと教えるが、支離滅裂な文章でなければ教師としては評価する。つまり意味が通じないような文章は書いてはいけない。人称は途中で変えてしまうことや、文体として「です、ます」と「だ、である」を混在させることは通常良くない。文章を書くときに大事なのは、筆者の考えがきちんと読者に伝わる文章を書くことだ。「上手に書かれた文章」はその結果なのだ。これらのことが分かればすぐに作文を書けるようになると考える。
それから作文を書く時に読者の立場に立って書くことは肝要だ。例文を暗記した後、辞書を調べながら書くより、今知っている正しい日本語を使い、文を短く切った簡潔な文章を書いたほうがよい。文章の精度を上げようとするならば、自分で使う言葉を選び、質を上げるには、簡潔な文章にする作業を行う。いい作品というのは、わかりやすい日本語を使い素晴らしい考えを読者に伝えることができる文章ではないだろうか。
第三に、「オリジナル」であることに対し、過剰に拘らないことである。
なぜならば、どんな物語でも作品でも、「先人の作ったものを念頭に入れながら、派生として新たなものを作ること」なのである。新たなものを作ることができるのは、たくさんのものが以前に作られているからである。だから純粋な「オリジナル」というものはまれである。普段に使われているオリジナルとは先人が作った作品を踏まえたうえで、なぜか現在まで触られたことのない分野について初めて描いたものではないだろうか。オリジナルはたった一つの新しい側面だけでも示せればいいと考える。
つまり今言っているオリジナルを目指すには、過去のものを知っておくことが重要である。ネット上の役立つ情報、今までの優秀な作品に目を通し、分析した上で、新しい側面から見た作文を書くことが大切だと考える。
第四に、より多くの学生に日本の文化と作文法を知ってもらう目的で日本語翻訳作文サークルが設立された。主旨は限られた授業以外の時間をうまく利用し、日本語の小説や作文の面白さを知らせ、学生の読み書く意欲を高め、学生と教師、学生相互の間でやり取りを活発にすることだ。0人から始まったクラブは今や1年生から4年生までの約80人余に増え、大学の正式なサークル団体としても登録されている。サークルは日本語に興味のある学生を対象に、定期的に作文の講座を設けるほか、学生は先生と一緒にサークル専用のブログを作り、文学作品、作文コンクールの関連情報などを載せ、お互いに感想などを交流しあう。またウェブのコミュニケーションツールを利用し、疑問を持つ学生は先生と常に連絡できるようにしている。
以上述べた内容を要約すると以下の様になる。
一つ目、日本語を勉強する時間数が足りない学生に対し、まず作文に関する基礎知識をしっかりマスターさせる。更に既存の資料、出版物などを活用し、今まで学んだ日本語の知識を使い、人称や文体が一致するような正しい繋がりの文を書く。それから、文章は読む人をいつも念頭に置き書くものだという理念を踏まえ、仕上げの作業では文章を整える。それにより新しい自分を出して行く様にすることができる。
二つ目、授業以外の活動として、作文上達のためのサークルを作ることである。ネット上のコミュニケーションツールを利用し、学生は先生とやり取りをする。先生の指導のもとで、有益な情報を手に入れ、作文を書くことを実践する。
このテーマを通じ、一番強調したいことは、「読者の立場に立って書きなさい、文章力を磨こう、継続力をつけよう、まずテーマを決めて気軽に書いてみよう」である。日本語は漢字、ひらがな、かたかな、ローマ字など文章で使用する文字の種類が多い。したがって文章を書く上で煩雑な点もあるが基本的には漢字は中国から伝わったものであり、簡体字との類似点が多く熟語なども中国語と同じ意味を持つものも多い。その違いに注意しながら以上述べたような考え方で練習を積めば必ず作文力が身につくと考える。
参考文献
堀井憲一朗『いますぐ書け、の文章法』ちくま新書 2011
大類雅敏『いい文章うまい書き方』池田書店 1996
胡伝乃『日語写作 』北京大学出版社 2013