1. はじめに
テーマは「私の作文指導法」であるが、いくつか断っておかねばならない。まず、これから述べる内容は、決して「私の(オリジナルな)」ものではない。公刊されている、国語教育や日本語教育における作文教育についての文献や、より一般向けの「文章の書き方」についての書籍等を参考にさせていただいている。そして、私自身、これらの文献を読みつつ、その一部を試行錯誤的に実践しているという段階で、まだ「指導法」のレベルとは言いがたい。それでも、この文章を書こうと考えたのは、一つの実践例として示すことで、問題点を指摘していただくことを期待して、ということである。
2. 学生は思考力がない?
2014年4月、北京師範大学において、日本語教育国際シンポジウムが開かれ、作文教育をテーマとした講演やワークショップが行われた。そのワークショップにおいて、中国人大学生の作文について、「みんな同じようなことを書いている。」という意見が出た。私も以前からそう思っていたが、そのように思っている先生は他にもいらしたようだ。そこで、「学生の思考力を高めるにはどうしたらよいか。」という議論になった。この背景には、「中国人学生の思考力が低い。」という認識があるように思うが、私は必ずしも「中国人学生の思考力が低い」とは思わない。なぜなら、指導の結果、こちらが指導した以上の伸びを見せる学生も珍しくないからだ。だから、私は決して「中国人学生の思考力が低い」のではなく、考える方法を知らない、または、考える訓練が足りないのではないかと考えている。もっとも、「考える方法を知らない」であったり、「考える訓練が足りない」であったりすること自体、大学生としていかがなものかと思うが、これは中国だけの問題でもないと思うし、そのような訓練は、いずれ、どこかで行う必要がある。また、こういったことは日本語教育の範囲外という考え方もあろうが、作文においては必要な要素でもあり、このような現状の場合、作文の授業の中で行う必要がある、というのが私の考えである。
3. ブレイン・ストーミング
さて、「どのように考えたら良いか」であるが、まずは、書く材料、いわゆる「ネタ」が必要である。書く材料を集めるのに有効な方法のひとつが「ブレイン・ストーミング」である。ブレイン・ストーミングについては、様々な文献で言及され、広く知られていると思われるし、筆者も勉強中なので、詳しくは述べられないが、例えば、樺島忠夫2002によると、「もともとは集団でアイデアを出し合うための方法(p.149)」であるが、「自分一人でも行え(p.149)」るとあり、作文を書くにあたり、材料を「自分の知識、経験、思考を頭の中から取り出す技術(p.148)」として紹介されている。具体的には、樺島忠夫1999、同2002、日本語文章能力検定協会2004、同2008等を参考にされたい。
4. 筆者の実践
筆者自身も、作文の授業で、このブレイン・ストーミングの導入を試みているが、まだ、試行錯誤の段階である。問題点としては、ブレイン・ストーミングに慣れていないことがあり、いきなり1人で行うのは難しいように見受けられる。そこで、クラス全員で一緒になってブレイン・ストーミングを行ってみた。題材は、「第11回中国人の日本語作文コンクール」の3つのテーマを用いたが、ブレイン・ストーミングが行いやすいように、それぞれのテーマを、内容が変わらないように文言を少し変更して提示し、ブレイン・ストーミングを試みた。「クラス全員で一緒になって」といっても、最初は、自分だけで考えさせ、紙に思いついたことを書き出す時間を作った。その後、クラス全員で一緒にブレイン・ストーミングをしたが、今回はクラスの人数が10名と少なかったので、1人ずつ、10分間1人でブレイン・ストーミングした中から、1つずつ出してもらって、筆者が前の黒板に書き出していき、学生には、自分の紙に書いてないことが黒板に書かれていたら、それも自分の紙に書き加えるように指導した。
5. 実践の反省
3つのテーマでブレイン・ストーミングしたが、アイデアがどんどん出てくるテーマと出にくいテーマが出てきた。難しいテーマについては、教師側によるガイドを工夫することによって、ある程度解決が可能だと思ったので、次の機会に試みたい。アイデアが数多く出たテーマについては、筆者が予想もしないアイデアが次々と出され、それなりの効果はあったと思う。
また、クラス全体で一緒になってブレイン・ストーミングした後、また、各自でブレイン・ストーミングするという段階を作っていたが、時間の関係で宿題とした。しかし、チェックしたら、宿題をきちんと行った学生は少なかった。この段階も授業時間内に行う必要があったと同時に、このブレイン・ストーミングという段階の必要性と、ブレイン・ストーミングの結果をどのように作文執筆につなげていくかということの説明が不足し、結果的に学生に理解が及んでいなかったという問題も痛感させられた。後者については、筆者自身の大きな課題で、作文を書くのに必要な学習事項を体系化し、システマティックに学習させることも必要だと考えている一方で、その学習事項が作文を書くにあたり、どのくらい重要で、どのようにつながっていくかを学習者が理解できるように指導することの難しさを感じている。
6. その後の指導
なお、ブレイン・ストーミングを行った後は、各自、その結果から書けるテーマを見つけ出し、内容をふくらませ、初稿を執筆させた。そして、各学生には、最低2回、授業時間外に教師による直接指導を受けるようにした。1回目は、文章の内容や構成を中心に指導を行った。ブレイン・ストーミングが不足したまま初稿を書いた学生もいるので、内容について学生と話し合いながら進めた。その際、教師側から学生にいろいろと質問することになるが、これも広い意味でのブレイン・ストーミングと言えよう(野口悠紀雄1995ではこのような使い方をしていると思われる(p.150)。)。その過程で、新たに面白いアイデアが出てくることもあった。そして、2回目の直接指導では、表記・語彙・文法等を中心に指導し、その後、最終稿提出というスケジュールで執筆させた。このように直接指導を多くとれたのは、当時のクラスの人数が10名と少なかったということも大きいと思う。大人数を指導する場合もなるべく直接指導ができれば良いが、それには工夫が必要だろう。
7. おわりに
最終的には、日本人教師から見ても「面白い」と思える作文に仕上がった学生もいれば、こちらの指導があまり理解してもらえなかった学生もおり、今後も改善の余地は多いが、「考える方法」を知り、「考える訓練」を積めば、ある程度の時間をかけてブレイン・ストーミングを行うことで、学生の思考力が刺激され、オリジナリティのある面白い作文につながるということは言えるのではないか。今回は、特に作文の内容作りの段階に注目して述べたが、この段階の重要性をいかに理解してもらって、内容作りの方法を自分のものにしてもらえるためには、教師としてどのような役割を果たすべきかという点において、自身に与えられた今後の課題は多い。
以上、自身の実践を問題点も含めながら述べたが、ここで述べられた問題点を克服するような実践が重ねられれば、そして、そういった先生方の実践に学んでいけたらと考えている。
参考文献
樺島忠夫1999『文章表現法 ―― 五つの法則による十の方策
―― 』 角川書店
樺島忠夫2002『文章術 ―― 「伝わる書き方」の練習 ―― 』 角川書店
日本語文章能力検定協会2004『日本語文章能力検定 4級 徹底解明』 オーク
日本語文章能力検定協会2008『日本語文章能力検定 4級 改訂版問題集 文検スタディ』
オーク
野口悠紀雄1995『続「超」整理法・時間編 ―― タイム・マネジメントの新技法 ―― 』
中央公論社