「書いてよかった」と達成感が得られる作文を
元南京信息工程大学  大内規行 
 
1.はじめに
 筆者が大学で教えていた科目は「日語写作」「経貿日語」「日語会話」「职场日語」「商務日語会話」などである。今は日本で日本語指導にあたっているが、来年中国に戻り、日本語教師を続ける予定である。担当していた「日語写作2年」では教科書の指定があって、作文の準備・基礎、私用文、伝達文、論説文、公用文などを1年間で教えることになっていた。しかし、教科書をそのまま教えるだけでは学生の興味を引きそうもなく、まとめとしてはよいかも知れないが、「書く力」を身に付けさせるには心許ないように思えた。そこで、「今、学生たちに必要な作文の技能は何か」を問いつつ、授業内容や指導方法を考えた。以下は、私が行った指導のうち、文章の要約とスピーチ作文についてのものである。

2.要約を通して文章の型を学ぶ
 2年の学生に作文を書かせれば、それなりに書いている。しかし、段落もあり、まとまりのある文章になっているかというと、決してそうではなかった。そこで、構成のしっかりした論理的な文章をインプットすべきものとして提示し、アウトプットとしては要約させる活動を行った。この要約は、原文の表現をできるだけ用い、内容の順序を変えずに段落も作り、元と比べほぼ三分の一、四分の一の縮約文章になる。この作業を通じて文章の型を学ばせることができると考えた。

(1)指導のポイント
①興味がわく魅力的なテーマを選ぶ。
②原文読解のための質問や語句説明でスキームの活性化をはかる。新出語彙の導入やキーワードの確認。読解を助けるための5W1Hを把握させ、段落に分ける。
③作業の手順と内容
 1) 各段落で、中心文とそれを説明している支持文とに分ける。
 2) 中心文を順に並べて、論理的にわかりやすく手を加え、要約を普通体で書く。 
3) 導入・本論・結論(まとめ)の3段落で原稿用紙に書く。400字の制限文字数の範囲内でまとまりのある文章にする。 
 4)題材の内容に応じて使用可能な文型を提示する。たとえば、
序論:主題についての文型…「(筆者は)~と述べている」など。
本論:主張のための文型…「(筆者は)~という」など。 
結論:まとめの文型…「(筆者は)~と主張するのである」など。

(2)テーマ(題材)例(2年2学期)

 (3)要約指導のまとめ
 授業の終わりに要約文を回収し、最後に教師の模範文の提示をpptで行った。作文は教師がよい点や改善点を記入し、次週に返却した。これらを通じて育てることができた作文力は、文章の中での各段落の関係と役割、そしてまとまりのある文章の型がわかるようになってきたことである。また「中国人の日本語作文コンクール」の作文を教材に活用することで、論理的で主張の明確な作文のイメージが具体的につかめるようになったことである。

3.スピーチ原稿・スピーチ発表の活動
 作文を書くことを前向きに受けとめてもらいたい。学習者が語彙や文法の間違いを気にしすぎたり、受け身で作文を書かされているなら、作文がだんだんつまらないものになってしまう。むしろ作文の面白さは、自分らしい体験や意見を文章でもって他人に伝えられたときではないか。スピーチならそのような状況を作りやすいだろうと考えた。スピーチは“書きたいこと”を書くと同時に、聞き手の“役に立つ”内容を書き、そして相手の心に感動を与える総合的な活動である。スピーチ作文なら、達成感も得られるに違いない。

(1)授業とスピーチ活動の流れ
 「日語写作2年」の授業では90分の授業が16回配分される。実際にスピーチに関する活動を行うときは、元々の授業プランの一部をスピーチ活動に回し、また授業外にすることで時間を確保した。実際の活動例を表で示す。

授業におけるスピーチ活動(2年2学期)

    (2)スピーチ指導のポイント
①スピーチを書く前に(テーマの設定)
 テーマ設定とその題材の集め方として、自分がよく知り、興味もあって、日常生活の生々しい出来事、聞き手が共感、理解できる題材など。さらに話を信用させる事実、統計的数字などを入れることで説得力が生まれること。
②原稿の字数は250字~500字程度とした。約250字で1分間のスピードを標準として、1分間スピーチを基本としたが、時間は本人の自由とした。
③原稿が書きあがったら、教師に提出する。よい点と改善点を記入して返却した。
④スピーチをするまでに(話し方の練習)
 大きい声で読む練習。「は」や助詞の後、大切な言葉の前と後などにポーズ(間)をおくと聞きやすくなる。アイコンタクトと笑顔をもって聞き手を見て話す。何を伝えたいのかを常に意識する。

(3)スピーチに関する指導のまとめ
①個性的なテーマと発表の成果
 テーマはバラエティに富んだものになった。身近なこと(自分のこと、家族、ふるさと、将来の夢など)や社会や文化(日本文化、日本語、中国社会、中国文化)などである。各自が“書きたい”を追求した結果だと思いたい。特に社会や文化についてのテーマは私に、日本と中国について多くのことを学ばせてくれた。作文の力のおかげである。多くの発表者が原稿を暗記してきて、聞き手を見てスピーチしていたことも、期待以上の収穫だった。スピーチを聞くことで学びの相乗効果が起きていたのではないかと思う。
②自信を持たせるためのスピーチの講評
 発表が済んですぐに教師が講評を行った。文法や語彙に関することよりもテーマの面白さや発表の様子に関する講評を中心にした。「キーワードの発音がよかった」、「発音がきれいでゆっくりはっきりと言えていた」、「ジェスチャーもよかったし、何を伝えたいかがはっきりわかった」、「全部暗記しているのはきっと練習していた結果だと思う」など、自信がつくように、達成感が得られるよう講評した。
③スピーチ原稿で文集を作る
 始まるまではいろいろ心配したが、スピーチ原稿はどんどんよいものが集まってきていた。そこで、このまま終わってしまうのは残念だと学生たちに文集を提案し、作成が決まった。これは、自己の成長記録の一つとなること、文集を読んでお互いに刺激を受けてほしいことを期待しての提案であった。文集は最終回の授業で全員に配布した。

4.最後に
 指導したクラスの中から、「中国人の日本語作文コンクール」に入賞したり、省ブロックのスピーチコンテストに入賞したりする者も出ている。学習者が書いた作文は私に日々の指導の振り返り材料を提供してくれるものと肝に銘じ、これからも学習者にとって最適な指導を探究していきたい。

 


氏名:大内規行
1975年 東京農工大学農学部卒業
1976年-2011年 奈良県(2年)大阪府(33年)公立中学校理科教師
1990年 兵庫教育大学大学院学校教育研究科卒業 教育学修士
2014年-現在 京都外国語大学大学院 履修生
日本語教師指導歴:
2012年4月-2012年8月 新潟経営大学
2012年9月-2014年7月 南京信息工程大学
2015年4月-現在 国際厚生事業団 日本語指導専門家

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