作文指導の基本
元西南交通大学  金澤正大 
 
 西南交通大学日本語学科では「写作1」(2年生後期)、「写作2」(3年生前期)、「写作3」(3年生後期)と、基本作文科目が周1コマで3段階にわたっています。私自身がすべての科目を担当していた時の指導の基本について述べます。

 作文の基本目的(目標)を、卒業後に企業などに就職するのが基本的な進路なので、企業において必要とされる基本的文章能力の獲得とします。企業(大学院などに進学する学生も含む)の求む文章は簡潔で明解な文章です。要するに一度読んで内容を誤解なく理解でき、かつこれが短いほどよいことになります。なぜならば、文章は必ず読み手を必要として、そのため書くからで、企業ではこれが顧客であり企業内人です。それに、文章を読む時間は短いほど能率が上がるからです。ですから、簡潔で明解な文章、すなわち、事実と主張との区別を明瞭にした事実文となるのです。

 以上の目的に合わせ、「写作1」では、まず基本的に作文自体に馴れてもらいます。テキストとして『日本語作文Ⅰ』1988年専門教育出版を使用していました。最初の時間は「私の故郷」という題で作文を書いてもらうことで、学生に作文にならせます。これは学生の出身地を知るという裏の目的もありますが。次回からテキストに沿って課題の課を選びます。関連語句・言い回し文型と説明を加え、そして質問をします。本テキストは少し古く、日本での学習者用なので、当然ながら中国の実情にあった説明・質問や新語句を入れます。最後に、中国の学生用にアレンジしたより具体的な課題を示して、次週までの宿題とします。例えば、「私のアパート」とあれば、「私の学生寮の部屋(紹介)」といった具合です。字数は600字程度とします。作文の授業は初めてなので、作文に馴れさせるとともに、やはり事実文を主体となるように課題を選びます。翌週からは前半は前に出した学生の作文の (文法・語句・字・表現とあらゆる)誤謬を例として示し、学生に正させ、説明を加えます。最後に、作品総体の構成・内容に関して、学生の作品の中からよい例と悪い例を示しながら、課題に沿った作文の基本骨格を提示します。これが評価の基準ともなるわけです。後半は新しい課題の提示となります。この繰り返しで授業は進みます。

 「写作2」のテキストは『日本語作文Ⅱ』1988年専門教育出版です。卒業後の社会人としての文章作成を見通して、本作文は事実文を基本とします。明解で簡潔な文章です。すなわち、一度読めば理解できる文章を基本とします。最初の時間は自由課題で作文を書いてもらいます。これは手慣らしです。次いで、テキストから順に課題の課を選び、その課にある関連語句などを解説しますが、少し古いので、現在のことも加えます。そして、若干の質問をします。最後に具体的な課題を説明し、翌週までの宿題とします。例えば、「図書館」ならば、「本大学図書館の書籍貸出し手順」という具合です。字数は800~1000字程度と「写作1」に比較して増しています。翌週は前に出した作文に評価と誤謬訂正を付して返すとともに、時間の前半でその総体的な解説と次の課題提出を行います。後半は、本多勝一『日本語の作文技術』1982年朝日文庫などを題材に、明解で簡潔な文章を書くための講義を行います。以下この繰り返しとなります。

 「写作3」は最後の仕上げ授業になります。ここではいわゆる作文から離れます。簡潔さを追究します。同時に、文章能力はコミュニケーション能力が実はヒヤリング力と密接な関係があることに鑑み、読解力の向上を主眼として、大野晋氏の提唱された縮約法を採用した授業とします。何故かというと、企業などでの文章は、詩文などとは異なり、必ず他者の文章を読んだ上で、これを資料として自己の文章(事実文)を作成するのが基本だからです。すなわち、確かな読解力無しには文章を作成できません。これを鍛えるのにいいのが縮約法です。具体的には、最初の受業で、縮約法の解説をした上で、本文を提示・解説してから、私自身が縮約した文章を提示して実例とします。次回では、まず本文を提示します。これには『朝日新聞』社説を用います。1200字程度という長さと内容的に事実を基本として主張のある文だからです。内容に関して学生から質問を受け、さらに補充解説をして、文章内容の理解を進めます。これを1/3の400字以内(原稿用紙1枚以内。但し、大野氏の縮約文では改行を含みますが、私の場合は改行無しで字数制限をしますから、実際には大野氏より字数が多くなります)に縮約することを宿題として、翌週に提出してもらいます。そして、この後の受業の前半は私自身の縮約文提示と学生のそれとの比較で、後半は新しい本文提示です。これを繰り返します。

 以上により、簡潔で明解な事実文作成を目指します。なお、作文コンクール参加を受業に組み入れていないのは、作文コンクールで求められている文が何らかの感動を求められているのが普通ですので、上記の目的と異なるからです。もちろん、学生に求められれば、作文コンクール用の文の指導は受業とは別に個別にしていましたが。


氏名:金澤 正大(かなざわ まさひろ)
1985年9月~87年7月 西安交通大学外語系科技日語専業
1989年2月~99年7月 西安交通大学外国語学院日語系
1999年9月~2001年7月 湖北大学外国語学院日語系
2001年9月~13年7月 西南交通大学外国語学院日語系

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