パソコンで作成した学生の文章指導体験
河北師範大学  劉敬者 
 

  私の教えている大学では、日本語作文は二年生の一学年、週に2コマのカリキュラムになっている。外国語学習者に求められる「聞く・話す・読む・書く」の四技能をバランスよくアップさせるための一環として作文は欠かせない。本学では、作文という科目はずっと日本人の先生に担当していただくことになっている。
 通常の授業においては、手書きで400字ぐらいのものが多いので、原稿用紙に書き詰めるのが一般的だ。文法や文型などの表現も考えながら、一字一字書くので、文面の書き間違いは比較的少ない。「書く」という技能習得のためには、レポート・スピーチ原稿・留学用の書類・卒論・就職用履歴書なども対処しなければならない。
 一方、卒論や履歴書などは、手書きの作文と違って、千字以上になるので、パソコンによる処理が多い。パソコンで文章作成する場合、日本語の文章力だけでなく、文書作成に関するソフトの運用スキルも要求される。
  パソコンで作成した学生の文章は、日本人の先生も中国人の先生も指導や訂正した経験があるだろう。パソコン処理だからといって、手書きのそれと比べて完成度が高いだろうか、それとも「うっかりミス」が多いだろうか。
 私は、学生の卒論・留学用書類・就職用履歴書・スピーチ原稿などを指導したり、訂正したりしているが、日本語の表現力は別として、パソコン処理であるが故のミスが散見されることに頭を痛めている。今回のチャンスをお借りして、これまでの指導体験で、頻繁に目にした小さなミスを書くことにしたい。そして、これを参考に今後の作文指導に生かして、よりミスの少ない作文能力をつけさせたいと思っている。

●ワード字体の初期設定によるミス
 ワードは文書作成に適したソフトだが、Windowsの言語によって、標準フォント(字体)が異なる。中国語オフィスのワードデフォルト(初期設定)は「宋体」であるのに対し、日本語オフィスのワードデフォルトは「MS 明朝」になっている。
 したがって、中国語オフィスのワードによる日本語文章処理の場合、字体設定が必要となる。そうしないと、次のような日本語らしくない表示になってしまう。

 一見したところでは同じだが、よく眺めると見づらいし、読みづらい。これは見た目の美しさだけでなく、正しい日本語か間違った日本語かの問題にもなる。また、日本語文章作成の場合、日本語字体を使わず中国語字体を使ったら、文字化けになってしまう恐れがある。一方、中国語文章作成にあたっては、「宋体」のような中国語字体を使わないと、決まって妙な表示になってしまう。要するに、日本語なら「MS  明朝」字体を、中国語なら「宋体」を使うべきだ。この規則は常に心がけなければならない。
 文書作成の場合だけではなく、印刷の場合にもポイントがある。「MS明朝」字体設定済みのword文書でも、中国汎用のプリンタに対応していないフォントを使用すると、文字化けしたり、印刷できない場合がある。解決策の一つとして、プリントアウトしたい文章を「PDF」形式で保存してから印刷すると、文字化けの心配はなくなる。

●同音異義語によるミス
 次に、パソコンのインプット時に起こりやすい、同音異義語によるミスの例を見てみよう。次の間違った例は、学生の文章から抜き出したものだ。正しい例と比較してみよう。

 以上の例は、不注意だったりパソコンの転換機能に頼りすぎなどで、よく出てくる間違いだ。同音だが、意味が全然違うので、文字転換に注意してほしい。ささいな誤りが想像を絶する影響をもたらすかもしれない。ミスだらけの文書は役に立たないどころか、害にもなるのだ。
 注意不足や確認作業を怠ったことで、自分の表現したいことと違うものになることもある。キーボードを打ちながら出てくる語句を注意深く選んで、文章を綴ったほうがいい。「パソコン熟練者だから安心」という思い込みは危険だ。

●改行によるミス
 日本語の文章は、改行して次の段落を書き始める場合、一文字分の空白を入れるのが規則になっている。日本語の「一字下げ」に対し、中国語での作文の場合は、「二字下げ」になる。この点も注意すべきだ。
 中国語作文の規則に慣れた学生の文章では、次のような書き方がある。

 よい文章を作成するには、言葉や語句の豊富さだけでなく、書式も正しく書くことが大切だ。特に履歴書や願書は、自己アピールの大切な書類なので、初歩的・基本的なミスのある文章では、減点されてしまう原因になる。

●入力による促音や拗音などのミス 
 次に、パソコンのインプット時に起こりやすい、不注意によるミスの例を見てみよう。次の間違った例は、学生の文章から抜き出したものだ。正しい例と比較してみよう。

 誤字や脱字や衍字のようなミスは、入力時の不注意からくるものか、もしくは、普段の読み方が間違っていたから、入力際の誤りにつながったわけだ。促音や拗音のついた言葉はよく間違うので、入力の場合、特別に注意すべきだ。

 上述のように、学生が日本語文章作成の場合、ソフトの違いからくるミスもあれば、人間の不注意からくるミスもある。
大学生の手書き文字離れの問題が深刻化する中、パソコンや携帯による文章作成は、主流になってきている。それゆえに、よい文章作成するには、日本語の表現力・構文力とともに、ソフトの運用テクニックも両立する必要があるのである。
パソコンで文章を作成していれば、だれにでもミスはあるだろう。ささいなミスのある文章は、心配の種だ。すっきりと見やすく、文字の印象が美しくなるようレイアウトされた文章であれば、伝えたいことがよりよく伝わり、好感も持たれるはずだ。
したがって、日本語の文章作成指導にあたって、語学だけでなく、ソフト関係の知識もいっしょにトレーニングすべきだ。


  「私の日本語作文指導法」のサイトを拝見しましたが、応募投稿したのは、日本人の優秀な先生だけです。
私は、中国人の日本語先生として、指導経験はあることはありますが、日本語表現には自信がありません。
それで、本学で教鞭をとっていらっしゃる寺元健二先生と三好大樹先生に訂正していただきました。
ここで感謝を申し上げたく存じます。

氏   名:劉敬者
指導大学:河北師範大学外国語学院日本語科
略   歴:大学卒業直後現職に就く

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