思いや考えを表現する手段を身につけさせる作文指導
北京科技大学  松下和幸 
 

 作文教育の根幹に、次の二つのことが不可欠であると考える。
    ⑴「外国語は書こうと思った時に、表現力を獲得することができる」
    ⑵「母語話者の教師だからこそ、学習者の多様性を持った作文(/会話)能力を高められる」
 括弧の穴埋め練習は文法形式の習得には必要かもしれないが、作文教育では意味がない。「ぜひ〜したい/きっと〜しよう」という表現は、「卒業後必ず留学する、したい」という思いをどうにかして文字で表現したいと思った時に、探し当て、使い方を確認し、表現形式が身についてゆくものだ。モデル文をほぼそのまま書き写すような練習は、昔の日本の、受験のためにだけ必要で、実際に使えなかった英語教育を思い起こさせる。
 「書く」は正確さ、語彙力、文法的な的確さ、表現形式の適切な使用、展開のしかた、説得力などまさしく“総合力”が問われる。したがって、学習者にとって、一番大変なポジティヴな知的スキルである。
 自分で書こうと思って書く時に、思い通りに表現できない事に気づく。文法もその一つ、語彙もそうだ。どう描写するか、どういう表現で意見が言えるか、どう展開するのがいいかという構成もそうだ。この時が文章力を身につけるチャンス。闇雲に覚えていても、用が足りない。まして使えなければ意味がない。主体の脳が動き出して初めて表現へと向かう。言い換えれば、先生が言った事を覚えればいいや、例文を暗記すれば試験にパスできる、という発想にとどまっている限り、書く力は決して伸びることがない。一過性の暗記力に頼ることは適切ではない。

 次に中国の学生に教えてきた中からまとめることができる五つの作文指導法を記したい。

⒈ 作短文から作文章へ
  短文より、長文だ。日本語に慣れるためには、日本語の表現形式になれる短文づくりは必要だが、文法の習得には役立つにしても、いざ書く時にほとんど役に立たない。少し長い文章を書くのが、「作文章」の上達への近道だ。そこで、私は「作文章」として、2年生は400字(原稿用紙1枚)に慣れさせ、3年生は800字以内で書くことを課題にしてきた。
 「短文づくり」は、「作文章=写作」の授業で扱うよりは、精読、範読/閲読、会話、聴力、新聞、などの授業(/宿題)で扱うのがいい。表現形式練習、短文の感想文、さらに、要約文作り(本日の授業の要約、文章を読んだ後の要約、荒筋書きなど)、視点替え作文(内容をAさんの視点、Bさんの視点でまとめる)など、非常に有効だと思う。

⒉ 動機付けが大切
 2年生後半から始まる作文の授業では、自己紹介や、ふるさと紹介、好きな郷土の食べ物、自分の名前の由来などを課題にして書かせる。これは、確かに書きやすい話題だ。しかし、そのまま書かせると、つまらないガイドブックとなる。話題を幾つも紹介するのではなく、ポイントを一つ、多くても二つに絞らせる。さらに、どうしてそれを選んだのか、 何を読み手に伝えたいのか、“どうして”“何を”を深く考えさせる。このポイントを外すと、中身のない薄っぺらな紹介となってしまう。

⒊ MSアプローチ
 考えさせるときにMSアプローチを使う。Mutual Stimulation Approachと命名している。近くにいる4人くらいで話をさせる。隣と前後の人たちがグループとなる。相互に話すときに、「どうして」という言葉を使わせる。だんだん話が一般的なものを超えたものになって行く。時間があれば、グループごとに発表させる。相互刺激からシェアしてゆく方法である。

⒋ TFOC構成法
 次に使うのが、四段落の構成展開法である。Tはトピック(Topic)、Fは事実(Fact)、Oは意見/考え(Opinion)、最後がCでコンクルージョン(Conclusion)である。Tは2〜3行くらい。Cも2〜3行くらい。FとOは5〜6行。これで、原稿用紙1枚にほぼぴったり収まる。少々日本語がおかしくても、構成がしっかりしているので文意が通り実に有効だ。この構成法の大切なところは、事実をきちんと書くことにある。表現形式「〜ている」「〜てある」を用いたり、存在文やコピュラ「である」を使うことになる。そして、その事実を踏まえて意見や考えを述べる。「と思う」「と考える」「である」「たい」「てほしい」もよく使う。そして、結びに、「⚪⚪︎︎︎は見る価値があるので、友人が来たときには案内する。」「この名をつけてくれた父や母に感謝する。/今になって、自分の名前の良さがわかった。」などトピックと同じでない表現で、ピリッと終わらせるようにさせる。私も例をたくさん出すが、結構面白いものが出てくる。こうして、学習者は事実の描写、自分の考えや意見あるいは評価、という二つのFとOを考える表現方法に慣れてゆく。

⒌ ステップを踏んでアカデミックライティングへ
作文の最終目標は卒業論文が書けるようにすることである。文字の書き方から、原稿用紙の使い方、実用文(手紙やメール)の書き方、アカデミックな文章へと進めて行く。
闇雲に書かせればいいではすまない。表現能力をつけてゆくには順序立てて進めなければ、書き手は「書けない」「上達しない」という嫌な思いが積み重なり、書くのが辛くなる。それ故、順次新しいことを学びながら、発見や考える喜びを味わえるようにすることが教師の仕事だ。初めは、先に示したように、三要素、すなわち、
(1)事実や周りの世界の描写、(2)意見や判断の表現、(3)文章の構成
を身につけて行くことが、文章が書けるようになる大切な表現技術の入り口だと考えている。更に進めば、
例えば、事実文は、描写文(〜ている)、説明文(のです/ます/ました)、報告文(ます/ました)を書けるようにする。また、主観文としては、判断文(です)、評価文(形容詞/形動)、意見主張文(と思います/Vべきです/Vなければなりません/Vてはいけません、など)というように、順次必要な要素を取り入れながら、TFOCを生かして行く。書く力は確実に大きく伸びる。
話題としては、数限りなくある。書く対象(四季/学校/幼い頃の希望/将来/日本語は難しいか/言語外の立ち居振る舞い/文化/歴史/スマホの功罪/中日交流を前進するには/時事問題など)もあれば、グラフや資料の読み方や表現の仕方、比較の表現、調査やその結果の表現、引用の仕方、こうしたものはアカデミックライティングでは必ず必要となってくる。

 作文指導は科学的な道理の積み重ねによって、進めていかなければならないことを痛感する。全部を網羅しすくい上げることは不可能であるが、基礎的なシラバスを常にターゲットからの位置を考慮しながら改善している。
 最後に、私が作文で使っているアプローチは、先に示した、⑴“TFOC”構成法 ⑵“MS Approach”に加えて、⑶ CEL Viewpoint(視点:内容Contentと表現Expressionの結合Linking)、⑷ Self-Brain-Storming、⑸ Self-Mind-Mapping、 を活用している。
 「作文章」を学生が書き、それを見てチェックする。表現の多様性に適切に指導できるのは、日本語母語話者の教師である。会話も、同様に、いろいろな場面での会話に適切に対応し、指導できるのはやはり日本語母語話者の教師だといえる。今後とも誇りを持って学生と歩みたいと思う。


氏名:松下和幸
指導大学:北京科技大学 外国語学院 日本語科(現在)
略歴:出版社編集勤務を経て、神奈川県高等学校国語教師(20余年)
県教育委員会から北京第二外国語学院に派遣される。
その後オーストラリアで修士号、言語学で博士号取得
オーストラリア国立大学で非常勤講師。再び中国へ。
湖北民族学院(湖北省) 北京語言大学 北京科技大学

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