添削しながら何度もグッときた。鼻もぐずり、目も霞んだ。学生達の生の声を聞いたと思った。初め日本が嫌いだった学生達は日本語や日本人と触れ合いながら日本文化を少しずつ理解していった。今は日本が好き、日本語が好きだと言っている。自分なりに少しでも日中交流に力を尽くしていきたいと書かれた作文を読むたびに胸が締め付けられた。今回、このテーマで感想文を書くきっかけになった。
日本僑報社の日本語作文コンクールは字数制限や期日制限を守れば、誰でも応募できる。日本語学習者全員に門が開かれている。他の日本語作文コンクールとは違う。入賞したら、北京での受賞式に参列、作文と顔写真が掲載された作文集、賞状、賞品、安田奨学金への応募資格などが得られる。最優秀賞受賞者は一週間の日本旅行もある。又、中国全土から集まった入賞者同士の北京での出会いと交流は何物にも換えがたい。入賞者への副賞はこれまでに例がないほど多い。努力した事が即そして大きく報われるコンクールだ。
第10回のコンクールで三等賞を受賞した金夢莹が卒論のテーマを「日本僑報社の中国人の日本語作文コンクール 第1回~第10回 三等賞までの受賞作品の分析」とした。日本僑報社の作文コンクールの意義を理解したようだ。今後の作文コンクールの拡散と深化が期待できる。
私は作文コンクールへの応募を念頭において作文の授業をしている。
作文コンクールに応募した2年生の感想〔添削すみ。順不同〕
● 原稿用紙に鉛筆で考えを書く事により字も上手になった。
● 作文のテーマを決めて書くのが苦手だった。何度も添削されて大変だったが、作文に徐々に自信が持てるようになっていった。
● 日本人らしい視点で物事に対峙するのが面白かった。
● 作文を書く時、私が今まで勉強した全てを使い、自分の考えと経験を入れる事が必要だ。
● 本当に言いたい事を自分の気持ちで書くと、簡単な文法や語彙を使っても良い作文になる。
● どんな事があっても日本語の勉強を諦めないと決めた。
● 作文を書く時、具体的な物、風景などを入れるといい。絵を描くように書くと読み手によく理解してもらえる。
● インターネットで得た情報や想像だけで書いた作文は人の心を打たない。
● 間違った所を何度も書き直したように、これからの人生で、失敗しても何回転んでも、立ち上げればいいという事を学んだ。
● 作文コンクールに応募したお陰で、途中で諦めないで最後まで頑張れるようになった。
● 何度も添削する先生を見て、真面目に取り組むようになった。照屋先生は全ての学生に大きな期待を寄せ一緒に頑張ろうと励まし続けた。私達は作文に対して情熱的になっていった。
● 作文は自分を映す鏡だ。以前に書いた作文を読むと封じ込めた記憶が蘇る。将来読み返すと、過去になった今の自分と会える。
● 作文を書き、日本語は美しいと感じ、好きになった。
● 作文を書く基本は根気強さ、細心の注意力だ。
● 作文を書く事によって日本人の真面目さを学んだ。私も真面目になっていた。文化は本当に不思議な力を持っていると気がついた。
● 作文は一人で静かに書く。無我の境地に入る。自分の心の深い所にある考えや思いを見つけて書いた。書いた後、不思議な満足感で満たされた。
● 作文を書くポイントはテーマからずれない事だ。
● 作文を書き、日本語の単語の発音を覚えた。
● 初めは面倒だったが、今は日本語の作文の方が書きやすくなっている。
● 身近な事を取り上げて自分の見聞した事についてありのままに書く。感情も込められるし読み手からの共感も得られる。
● 字数制限は厳しく一字の過不足でも不合格になる事もあると聞いた。小さいところから人の素養が見える事が分かった。
● 起承転結をしっかり書くと良い作文になる。
● 作文コンクールへの応募は一生の思い出だ。
● 作文を書く事は、自分が自分と向かい合い、話し合う過程だと分かった。
● 作文を書き応募できて自信がついた。自分の人生に野心がもてるようになった。
● 面倒だったが書いた後は満足した。逃げないで諦めないで頑張る事を学んだ。自分にも可能性と潜在能力があると知った。
● 日本語は外国語だから間違いがあるのは当然だと思い、恐れず書く事。単語や文法も使う事。
● 自分を信じたらどんな難しいテーマの作文でも書けると分かった。
● 作文を書く時、最も重要な事は真心と真実を表現する事だ。
● 作文を書く時、集中力が必要だ。辛抱強く、真面目に書く。
● 日本語の成績がいいから作文が上手だとは限らないと先生は言った。それを聞き、「頑張ろう。書きたい。」と思った。
● 真実の思い、自分の感情を書くと良い作文になる。
● 初めは1500~1600字の作文を書くのは無理だと思った。何度も書き直しよくなっていった。できないと思った事ができるようになり人間は強いものだと感じた。今は日本語の作文が好きだ。
● 作文コンクールに応募して、自分を信じる事は強大な力になると知った。
● 作文を書く前に、感情や偏見から自分を自由にすると良い作文が書ける。
● 作文はテーマに沿って、始めから終わりまで一貫した展開がなされていなければならない。
● 作文の素材は生活の中にある事が分かった。
● 自分で作文が書けたとは意外だ。1500~1600字の作文が書けた。自分に誇りを感じている。
● 初めは大変だと思ったが終わってみたら、そんなにたいした事ではないと分かった。大きな進歩だ。
● 日本人の考えを理解して書く。
● 作文を書くのが好きだ。時間をかけて一つの事を考える。考えは人を深く思考させる。その過程が好きだ。今はゆっくり書いているが、何度も書き力をつけたい。その場で与えられたテーマがすぐに書けるようになりたい。
教科書、教材を使っての勉強だったが、応募する作文を書く事によって読み手を意識するようになった。応募作文を書く事によって少しずつ客観的思考回路ができていった。
字数制限、期日制限などを守る事で日本人の「厳しさ」を学び、読み手の事を考える事によって「思いやり」「思慮深さ」を学んだ。
初めは不可能だと思っていた1600字の作文が書け、自分に自信がもてるようになり、これからの日本語学習や人生にも前向きになった。困難な事にも諦めずに挑戦していく姿勢ができていった。
日本僑報社の日本語作文コンクールに応募して学生も教師である私も成長した。学生は日本語の作文力が向上した。教師は添削力が向上した。応募するからには入賞を目指して作文を書くのはいい事だ。回を重ねるごとに、ただ書きたいように書くのではなく、どのように書けば読み手が理解できるか考えて書けるようになった。
又、日本語学習の作文力の向上に留まらず、学生も教師も自分なりに、自分のできる事で日中交流に尽力したいと思うようになった。
長い時間をかけ、学生と教師が協力し、いい作文を書くという作業に携わった。応募したからこそ得られたものは大きい。
学生達は難しい漢字の語彙や文章表現は使えるが述語につながっていかない。述語がきちんと書けるように指導していく事が今後の課題だ。
今、私は3000字の作文を書く立場になった。頭がまっ白になり長い間書けなかった。日本語を学んで2年目の中国人の大学2年生が日本語で1600字の作文を書かなければならないというプレッシャー、苦痛は大変だっただろう。想像を絶する。やり遂げた学生達と自分に拍手を送りたい。