日中交流研究所の母体である日本僑報社は、第1回の作文コンクールから受賞作品集を刊行しており、本書で13作目となります。
タイトルは順に、第1回『日中友好への提言2005』、第2回『壁を取り除きたい』、第3回『国という枠を越えて』、第4回『私の知っている日本人』、第5回『中国への日本人の貢献』、第6回『メイドインジャパンと中国人の生活』、第7回『蘇る日本!
今こそ示す日本の底力』、第8回『中国人がいつも大声で喋るのはなんでなのか?』、第9回『中国人の心を動かした「日本力」』、第10回『「御宅」と呼ばれても』、第11回『なんでそうなるの?
中国の若者は日本のココが理解できない』、第12回『訪日中国人 「爆買い」以外にできること』。
これら12作の作品集は多くの方々からご好評を賜り、朝日新聞の書評欄や日経新聞一面コラム、NHKなどで紹介されたほか、各地の図書館、研究室にも収蔵されております。
今回のテーマは(1)「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」 (2)「中国の『日本語の日』に私ができること」
(3)「忘れられない日本語教師の教え」の3つとしました。
(1)の「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」は、今回の作文コンクールのメインテーマといえるものであり、本書のメインタイトルとしても使用しました。このテーマでは、2017年の日中国交正常化45周年を記念して、新世代の若い学生さんたちから、そのフレッシュな視点・観点で「中国の新しい魅力」について日本人に伝えてもらうことを目的としました。
日本と中国は現在、関係改善に向けて両国が努力していくことで一致していますが、年々増加を続ける訪日中国人客に比べ、訪中日本人客が減少し、人的往来のアンバランスが生じているのが現状です。また、歴史ある「友好都市」など日中の地方同士の交流も、変化の大きな新しい時代を迎え、新たな関係構築を模索しているとの報告もあるようです。
そこで、これまで日本人や他の外国人にあまり知られていない、それを知ったらどうしても訪れたくなるような中国の新しい魅力やセールスポイントなどについて自由に書き綴ってもらいました。その作文が、国交正常化45周年を大きく盛り上げ、友好都市関係の再活性化や訪中日本人客の増加等につながる一助となることを期待したものです。
(1)をテーマとした応募作の中で多く見られたのが、この数年、中国人の生活を大きく変えたとされるスマホ決済やシェア自転車などの新しいサービスについての紹介でした。“イノベーション大国”“デジタル強国”を目指す中国のIT産業の発展は確かに目覚ましく、それに伴い人々の暮らしがいっそう豊かで便利になり、生活の質が向上したことは想像するに難くありません。こうした“IT先進国”としての中国の現状や変貌をつぶさに伝えた作品は、日本の読者の関心を大いに集めるものと見られます。
中でも上位に選ばれた作品を見ると、そうした新サービスについて一辺倒で“紋切り型”の紹介に終わることなく、自らの体験を交えた具体的なエピソードを生き生きと伝えたことが高く評価されたようです。
このほか対外的にあまり知られていない地方の珍しい風習や少数民族の暮らし、中国伝統文化の現状と変化などについて、実体験や自ら知り得たことを踏まえて、リアリティーのある描写で読み手を引きつけた作品もありました。それらはいまだ知られざる中国の一面であり、日本人読者の興味をそそり、中国理解促進の一助にもなることから高得点を得た作品が多かったようです。
(2)の「中国の『日本語の日』に私ができること」は、2017年の日中国交正常化45周年を記念して、中国で初めての「日本語の日」を創設したいと考える主催者(日本僑報社・日中交流研究所)に対し、「この日、自分なら何ができるか」を具体的に提言してもらうという前向きな試みでした。
主催者はそれをもって中国人学生の日本・日本人・日本語への理解をいっそう深めてほしい、中国各地の日本語学習者に、その語学力をいっそう楽しく伸ばしてほしいと願いました。
このテーマでは、主催者の予想を超えるユニークな提言が数多く出されました。例えば「地元の観光スポットに、QRコード読み取り式の日本語説明看板を増やす」「中国人の川柳大会を開く」「多くの人と東日本大震災復興支援ソング『花は咲く』を歌い、日本人の心を癒す」などです。その独自性や旺盛な意欲からは、やはり若い世代ならではのみずみずしい感性と勢いがうかがえました。
中にはアイデアが浮かびすぎたのか、1作品せいぜい1600字以内の短い作文の中にいくつもの案を列挙したため「伝えたいこと」がかえって不明瞭になってしまった作文もありました。しかしそれよりも「日本語説明看板」や「川柳大会」などのように「伝えたいこと」を1つか、せいぜい2つに絞り、具体的な方法を掘り下げて書いたほうが読者の心に響きやすく、かつ「伝える力」「メッセージ性」が強くなったように思われます。
(3)の「忘れられない日本語教師の教え」は、第11回のテーマ「わたしの先生はすごい」、第12回のテーマ「私を変えた、日本語教師の教え」に続くものです。
中国における日本語学習者は現在100万人を超えており、その100万人を指導する日本語教師の数は、約1万7千人(うち日本人教師が約2千人)に上るそうです。この教育現場で日々奮闘されている先生方の地道なご努力やご苦労はいかばかりかとお察しする次第です。
そこで今回も、学生さんたちが日ごろ指導を受けている日本語教師から学んだこと、とくに自分の生活や学習態度、考え方などを大きく変えた先生の教えを具体的に書き綴ってもらいました。それをもって学生側から日本語教師に感謝の気持ちを示すとともに、先生方にはその作文を今後の指導の参考にしていただければと考えました。
例年に違わず、数多くの優れた作品が集まりましたが、ここでは前回に引き続き「日本語教師の教え」をテーマに選び、連続して1等賞を受賞した張君恵さん(中南財経政法大学大学院)の作文について触れたいと思います。
今回の張さんのタイトルは「走り続けるということ」。テーマは昨年同様の「日本語教師の教え」ですが、今回は今年の作文コンクールに2年連続してチャレンジした類まれな経験を描いた、よりタイムリーで興味深い内容となりました。当初は躊躇していたという作文コンクールへの“再チャレンジ”を強く後押ししてくれた教師と、それに応えた自身のひたむきな努力について率直に綴り、高い評価を受けました。
本コンクールで2年連続しての1等賞受賞は初の快挙。張さんが、その人一倍のチャレンジ精神と努力でつかみとったこの成果は、本コンクールを目指す多くの後輩たちの新たな励みと目標になることでしょう。
総じていえば今回の応募作品は、これまで以上に大差のない優れた作品が多く、各審査員の頭を悩ませました。
審査を終えたある審査員は「いずれも甲乙つけがたく、点数をつけるのに本当に苦労しました。どの作文もわかりやすく正確に表現されていることから、文法点が高くなりました。この背景には、指導された日本語教師の質の高さと講義内容の工夫があると思われました」と講評を寄せてくださいました。
また「昨年に比べると、テーマが広がったために面白い作文が増えましたね」という感想を述べた審査員のほか、「テーマ(2)は各自具体的かつ積極的な取り組みが出てきて、とても好感が持てました。ぜひ頑張っていただきたい。それがやがて日中の真の草の根交流の『種』となるのだと信じます」と今後への期待を述べた審査員もおられ、いずれも高い評価でした。
また、第一次審査に多大なご協力をいただいた運城学院(中国山西省)の日本語教師、瀬口誠先生(現・湖南大学)からは特別寄稿「審査員のあとがき」を前回に続いてまとめていただき、本書に掲載いたしました(瀬口先生による勤務校からの応募作品の審査は外させていただきました)。
瀬口先生は、第13回作文コンクールの3つのテーマと、各テーマが求める「本質」についてそれぞれ詳しく解説されています。自らの提案が採用された(1)のテーマ「日本人に伝えたい中国の新しい魅力」の応募作については「審査員は、学生たちが紹介する中国の魅力に読みふけり、感心しながら、第一読者となって読ませていただいた」「厳正な審査を潜り抜け日の目を見た作文を読んだ読者の方々は、そこに、中国の悠久の歴史、広大な国土、多様な文物、新しさと懐かしさを発見することだろう」と論評しています。
その一方で、「中国の新しい魅力」に「スマホ決済」などの新文明が多く取り上げられたことに対し「目先の物ならぬ、指先の物に捕らわれて書いていた」と鋭く指摘した上で、「出題者の意図はどこにあるのか?
テーマが求めているものは何か? そして日本人だけでなく世界の観光客が求めるものは何か?
これら『他者感覚』を身につけ、相手の意図を読み取ることが肝心なのである」と、作文をより「深く考えて」まとめることを勧めておられます。
このほか第13回作文コンクールでは、1等賞以上の受賞学生を指導された先生方を中心に、それぞれ貴重な「日本語作文指導法」をお寄せいただき、本書に併せて掲載しました。これら教育現場の第一線におられる先生方の指導法や講評は、現場を知りつくしたベテラン教師による真の「体験談」であり、作文コンクールで優秀な成績を収めるための「アドバイス」であり、さらにはより優れた日本語作文を書くための秘訣を満載した「作文ガイド」であるともいえましょう。
この作文コンクールに初トライしたい学生の皆さん、また今回は残念な結果に終わったものの、次回以降ぜひ再チャレンジしたい学生の皆さん、そして現場の先生方、本書シリーズの読者の皆様にはぜひ、これら先生方の指導法や講評を参考にしていただけたら幸いです。
入賞作品は最終的にこのような結果となりましたが、順位はあくまでも一つの目安でしかありません。最優秀賞から佳作賞まで入賞した作品は、どの作品が上位に選ばれてもおかしくない優秀なできばえであったことを申し添えたいと思います。
いずれの作品にも、普段なかなか知り得ない中国の若者たちの「本音」がギッシリと詰まっていました。中には、日本人にはおよそ考えもつかないような斬新な視点やユニークな提言もありました。そうした彼ら彼女らの素直な「心の声」、まっすぐで強いメッセージは、一般の日本人読者にもきっと届くであろうと思います。
日本の読者の皆様には、本書を通じて中国の若者たちの「心の声」に耳を傾け、それによってこれからの日本と中国の関係を考えていただくほか、日本人と中国人の「本音」の交流のあり方についても思いを致していただければ幸いです。
なお、本書掲載の作文はいずれも文法や表記、表現(修辞法など)について、明らかな誤りや不統一が見られた箇所について、編集部が若干の修正を加えさせていただきました。その他、日本語として一部誤りや不自然な箇所があったとしても「学生の努力の跡や成長の過程が見られるもの」と受け止め、そのまま掲載いたしました。
また、本書の掲載順は、一等賞から三等賞までが総合得点の順、佳作賞が登録番号順となっております。併せてご了承いただけましたら幸いです。