第五回 中国人の日本語作文コンクール

     

日中交流研究所長 段躍中

 

 

第五回「中国人の日本語作文コンクール」は、皆様のやさしいお心遣いに支えられて無事に終了いたしました。関係者の方々のあたたかいご支援の賜物と心より感謝し、厚くお礼申し上げます。

 

一、概況

本年は中国の全土からたくさんの問い合わせや応募がありました。そうしたなか学生の部は六五大学から一三六四編、社会人の部では二十九編、総数一三九三本もの作文が集まりました。

応募者は殆ど日本を訪ねるチャンスに恵まれない若者たちですが、一生懸命勉強して日本語を身につけ、また、言葉の学習を通じて現実の日本、日本人、日本の社会、日本の文化などに深い興味を持ちました。本書はこうした自分の目で日本を見たことがないけれども、将来必ず日本と中国の架け橋になる若者のリアルな対日観をまとめたものとも言えます。

応募者とほぼ同年代の日本の青年、弊所でインターンシップ中の鶴田 和君(明治学院大学法学部三年)にも本書の編集に協力してもらいました。彼が書いた感想をここに引用いたします。

まず、このたくさんの作文を初めて読んだときに衝撃を受けたことは、とにもかくにもその日本語能力の高さでした。率直に驚き、おもわず「こんなに上手な日本語が書けるなんて、何年間も日本に留学していた人達なんですね。」と聞いてしまいました。

その後日本への留学経験がない学生によるコンクールだと教えてもらった時は、本当にもう受賞した人たちのただならぬ日本語学習の努力を感じずにはいられませんでした。

同時に同じくらい驚いたのは、その丁寧でよく感情の伝わる内容です。一人一人が個性豊かな表現と描写をしていて、とても素直に読むことのできる作品ばかりでした。こんなに上手な作文は日本人の学生でもなかなか書けないなあ、とため息が出てしまいました。

本旨である中日関係についても、いずれの作文からも両国友好の熱意や可能性が強く見て取ることができ、是非先頭を切って中日間の掛け橋としての活動をしてもらいたいなと感じました。

是非日本に来て文化交流をしていただきたいです。

 

中国の若者が自分の対日観を翻訳を介さず、直接日本人や日本社会に伝え、日本人や日本社会と交流し、共感を得ているのです。このように両国民の相互理解が促進し、日中戦略互恵関係の実現に推進することは、まさに本活動の意義だと思います。

 

もっとたくさんの日本の国民に中国青年たちの生の対日観を理解してもらうため、弊所は二〇〇五年の第一回から中国人の日本語作文コンクール授賞作品集を発行しております。今回は第五冊目になります。第一回からのタイトルは順に『日中友好への提言』、『壁を取り除きたい』、『国という枠を越えて』、『私の知っている日本人』で、これら四冊の作文集は多くの方々からご好評を賜っております。また、『壁を取り除きたい』は、二〇〇六年度の朝日新聞書評委員の推薦図書にも推薦されました。

一方、本活動を通じて、中国の大学図書館に日本語の蔵書が少なく、特に地方の大学はゼロに近いことがわかりました。そのため、第三回からは「園丁賞」受賞大学に十万円相当の日本語の本を贈呈しています。今年の十二校を含めて、これまで計三十二校に贈呈しました。

在中国日本大使館は第一回から後援してくださっていますが、第四回より、日本大使賞を設け、宮本大使にはご多忙のなか、自ら大使賞の作文を審査していただきました。ここであらためて、宮本大使をはじめ、大使館関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。

また、第二回からご支援いただいている日本財団には、今年もご支援を賜りました。誠にありがとうございます。日本財団会長笹川陽平先生の本活動へのご理解とご支持に御礼を申し上げますとともに、遠方の開催地にもかかわらず、毎年表彰式に出席していただいている日本財団理事長尾形武寿先生にも感謝を申し上げる次第です。

そして、大変厳しい経済条件のもとで本活動を五回続けてこられましたのも、ボランティアの方々の支えによるものです。本当にありがとうございました。

 

二、今年の特徴

第五回「中国人の日本語作文コンクール」は、いつもながら多くの方々からご支援を賜らなければ、決して開催することはできませんでした。特に今回は論文部門、ノンフィクション部門共にそのテーマ性から、実績ある多くの日本企業や日本人の名前が作文中に挙がりました。中国の若者が在中の日本企業や個人の中国における活躍や社会貢献を通じて、日本人や日本企業に対する新たな認識を得て、日本という国の現在を学び、特に中国の若者の日本観が明るい方向に進んでいるということを本作文集を通じて肌で感じていただけることと思います。日本人の読者の方々に、何らかの新しい風、新しいエネルギーが出てきたことが伝わり、今回の受賞作文に共鳴していただき、日中交流・日中友好に再度エンジンをかけることが出来れば、主催者として、望外の喜びとなります。なお、今回作文中に登場した、そうした企業・学校・個人については、二一八〜二一九頁にまとめてあります。

 

三、審査の経過

【一次審査】

第一次審査は、日中交流研究所の母体である日本僑報社編集部内で行いました。

二名の査読員共に高得点を付けた作品をまず入賞候補とし、どちらか一名が高得点を付けた作品は再度読み合わせをし、複数回にわたって審議した上で入賞候補作品を決定しました。

第一次審査過程において、ボランティア岩楯嘉之氏、斎藤史氏、`島豊二氏にもご協力頂きました。あわせてお礼を申し上げます。

【二次審査】

今年は次の八名の先生方がボランティアで協力してくださいました(敬称略・五十音順)。

五十嵐貞一 (中国留学生交流支援立志会 理事長)

川村恒明 (財団法人神奈川芸術文化財団 理事長)

木下俊彦 (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 客員教授)

関 史江 (東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 助教)

高見澤孟 (NPO法人 国際教育開発協会 理事長)

谷川栄子 (日本大学国際関係学部 非常勤講師)

山中正和 (財団法人 日本中国国際教育交流協会 常務理事)

祐木亜子 (翻訳家、エッセイスト)

公平を期するため、二次審査では応募者氏名と大学名は伏せ、受付番号のみがついた対象作文を先生方に配布しました。

本年も審査は難航いたしましたが、二次審査にて上位入賞作文が決定しました。審査下さった先生方に心から感謝いたします。

【三次審査】

二次審査後、得点の最も高い学生に、国際電話による口述審査を行いました。口述審査で得た点数と第二次審査の合計点数を合算して、最優秀賞候補者と一等賞候補者五名を選出しました。

【最終審査】

第三次審査選出した最優秀賞候補者と一等賞候補者五名の作品を北京にある日本大使館に送り、最終審査を行い、日本大使賞受賞者を決定していただきました。あらためて感謝いたします。

 

【賞】について

審査に基づき、応募者の中から一〇〇名に賞を授与いたしました。(学生の部八十七名。内訳は最優秀・日本大使賞一名、一等四名、二等十一名、三等三十六名、佳作三十五名。社会人の部十三名。内訳は一等一名、二等二名、三等七名、佳作三名)

一等賞以上の方々には、最優秀賞と一等賞賞状のほか、各協賛団体からの賞状も贈られました。

最優秀賞・日本大使賞(日本一週間招待) 郭文娟 青島大学

一等賞・日本財団笹川陽平会長賞(笹川賞) 張 妍 西安外国語大学     

一等賞・日中文化交流センター賞(文化賞) 宋春(女亭) 浙江林学院   

一等賞・財団法人日本中国国際教育交流協会賞(教育賞) 段容鋒 吉首大学      

一等賞・中国留学生交流支援立志会(立志賞) 繆(女亭)(女亭) 南京師範大学

一等賞・財団法人日本中国国際教育交流協会賞(教育賞) 黄海萍 長沙明照日本語専修学院

【園丁賞】 学生たちの日本語は、指導教官なくしてはありえません。そのため、日中国交正常化三十五周年にあたる第三回コンクールから、学生の作文指導に業績ある日本語教師を表彰する「園丁賞(第三回の園丁奨より改称)」を創設しました。

応募があった六七校の中から、審査員が検討を重ね、一大学で五十本以上の応募があった十二大学を受賞対象としました。賞状の他、記念品として十万円相当の日本僑報社書籍を贈呈しました。学生のために、活用していただければ幸いです。

受賞大学は、次の通りです。( )内は応募者数。

湖州師範学院(一五三)、浙江万里学院(一三〇)、西安外国語大学(一一一)、大連大学(一〇一)、上海師範大学天華学院(九一)、延辺大学(七七)、浙江大学寧波理工学院(七三)、長春理工大学(六六)、青島農業大学(六三)、山東大学威海分校(五九)、長沙明照日本語専修学院(五四)、嘉興学院(五一)。おめでとうございます。

 

謝辞

本書を出版するにあたり、いつも多くのお力添えをしてくださいます、各団体、個人の皆様へ心より感謝の意を表します。

【特別協賛】  日本財団

【顧問】 加藤紘一氏(衆議院議員、日中友好協会会長)、井頓泉氏(中国日本友好協会副会長)

【協賛】 日中文化交流センター、米山ビジネス専門学校

【協力】 中国留学生交流支援立志会、(財)日本中国国際教育交流協会、中国日語教学研究会、世研伝媒中日伝播雑誌社

【後援】    在中国日本大使館、人民日報社人民網、日中友好会館、日中文化交流協会、日中友好議員連盟、日中友好協会、日中協会、日本国際貿易促進協会、日中経済協会、中国中日関係史学会、中国日本友好協会

また、ご協力いただいたにもかかわらず、失礼ながら今回お名前を挙げることができませんでした多くの先生方へも、この場を持ちましてお礼の言葉とさせていただきます。

                           

二〇〇九年月十一月吉日

 

※過去の受賞作品集

『日中友好への提言2005

『壁を取り除きたい』

『国という枠を越えて』

『私の知ってる日本人』

 

◇日本人の中国語作文コンクール授賞作品集(日中対訳版)

『我們永遠是朋友』

『女児陪我去留学』

『寄語奥運 寄語中国』

『我所知道的中国人』