「第三回中国人の日本語作文コンクール」開催報告

 

日中交流研究所長 段 躍 中

 

 

国という枠を越えて今年も「中国人の日本語作文コンクール」受賞作品集をお届けすることができました。再び皆様に本書をお手にとっていただけて、感無量です。

まずは、無事に第三回「中国人の日本語作文コンクール」を開催することができましたこと、応募者の皆さんをはじめ、関係者の皆様のご支援の賜物と、厚くお礼申し上げます。

 

運営には大変な困難が伴いましたが、皆様のご支援のおかげでなんとかやってこられました。今年は、二〇〇七日中文化・スポーツ交流年認定事業にも認定していただき、ささやかながら日中友好の一翼を担えたことを喜んでおります。

また、応募いただいた学生たちにも改めて感謝とエールを送りたいと思います。そして、各学校の指導教官の先生方にお礼申し上げたいと思います。

 

今回は、一四七三本の応募がありました。学生の部では、中国全土から広く応募(二十三省市区、九十九校)があり、第一回・第二回の開催に引き続き、比較的に安定した開催です。新設した社会人の部にも、珠玉の作品が寄せられました。日中交流にかける気持ちがにじむ作品の数々は、胸に響きました。来年の第四回コンクールにも、ぜひまた挑戦していただきたいと思います。

 

■審査の経過■

 

【一次審査】

第一次審査は日中交流研究所の母体である日本僑報社の横堀幸絵と三谷香子が行いました。審査開始前に、まず応募作品一四七三本のうち、次のような作品を審査対象外としました。

・手書きでない作品

・規定文字数(一六〇〇字)に明らかに満たない、あるいは明らかに超過している作品

審査対象作品を二名がすべて読み、日本語の文章力五〇点、内容五〇点で採点しました。内容については、具体例や体験談が説明にとどまらず論拠となっているもの、またそれに基づき、自身の考えを述べた独創性や深い考察を行っているものを重視しました。

二名共に高得点を付けた作品をまず入賞とし、どちらか一名が高得点を付けた作品は再度読み合わせをし、合議した上で入賞候補者を決定しました。

 

【二次審査】

今年から新しく武吉次朗先生、祐木亜子先生が加わってくださり、次の八名の先生方がボランティアで協力してくださいました(五十音順)。

 

五十嵐 貞一(中国留学生交流支援立志会理事長)

川村 恒明(神奈川県立外語短期大学長)

木下 俊彦(早稲田大学教授)

関 史江(東京大学工学系助手)

高見澤 孟(昭和女子大学大学院教授)

武吉 次朗(翻訳家、元摂南大学教授)

谷川 栄子(日本大学国際関係学部非常勤講師)

祐木 亜子(エッセイスト、日中コミュニケーション研究家)

 

公平を期するため、二次審査のときは、応募者氏名と大学名は伏せて、受付番号のみがついた対象作文を先生方に配布しました。

 

なお、今年度の優秀賞受賞者は、六十名といたしました。募集要項に記載していましたように、社会人の部の応募状況によって、賞の数を変更いたしました。ご了承下さい。

 

■感想■

 

主催者として、感想を少し述べたいと思います。日中交流や相互理解に対して、体験や提言を踏まえて述べる熱意、想い、または憤りを書く力強さは、一つ一つの文字から目を射るようでした。文章力も一定以上の水準を持つ作文がほとんどでした。

 

学生の部では、身近な題材から日中関係を考えるものが目立ったと思います。例えば、「日本語を学んでいるということ」「日本語の先生」「親や祖父母世代の日本観を通して」「アニメ」などです。

 

それぞれについて短く触れると、「日本語を学んでいるということ」をテーマとした作文では、日本語を学ぶ喜びや日中交流に貢献したいという思いと併せて、日本語を学ぶ悩みが綴られていました。「なぜ、私は自分の専門を伝えられないのか」という苦悩から、「いかにすれば、専門が日本語であると言えるようになるのか」から今後の日中交流を考察した作文が多くありました。

 

先生との出会いをテーマとした作文もありました。日中交流の現場で活躍する、中国各地の「藤野先生」達に、拍手とエールを贈りたいと思います。

 

次世代の日中交流を担う青年として、自分たちの世代なら何ができるか、どのように思っているか、親や祖父母世代に伝えた体験を描いたものも、顕著でした。

アニメを切り口としたものも、見受けられました。子供の頃に見た、また今も楽しんでいるアニメを通して、文化交流をもっと進めるべきという意見です。

 

例年と同じ傾向としては、日中相互理解を妨げる最大の要因として、「戦争」問題を解決しなくてはいけないという意見や提言は数えきれないほどでした。「謝罪しない日本」「靖国問題」「歴史教科書問題」など、「中国人民が忘れることのできない戦争を、日本にもっと知ってもらいたい」という怒りの提言です。

 

もう一つのテーマである環境の観点からは、「日本の緑化ボランティアを見習う」「日本のゴミの分別に学ぶ」「日本の公害経験を、中国で協力して活かす」という提言がよくなされていました。

 

応募者からの希望を受け、今年から「社会人の部」を新設いたしました。残念ながら応募数は少なかったのですが、一定以上の水準の語学力を元に、職務経験を通して書かれた作文には驚かされました。

主催者としましては、これら応募者の提言の周知をはかり、日中交流の糧になるよう、実現するよう動いていくべきだと考えます。

 

■本書の刊行経過■

 

日中交流研究所は日本僑報社が二〇〇五年一月に発足した小さな研究所ですが、皆さんのお陰で、設立の一年目から日中作文コンクールを主催し、作文集を刊行して参りました。四冊の作文集(『日中友好への提言二〇〇五―第一回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』『壁を取り除きたい―第二回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』と日中対訳版『我們永遠是朋友―第一回日本人の中国語作文コンクール受賞作品集』『女児陪我去留学―第二回日本人の中国語作文コンクール受賞作品集』)は多くの方々から好評を頂き、なによりも嬉しく存じます。

日中友好への提言2005壁を取り除きたい我們永遠是朋友女児陪我去留学

今年の日本語作文コンクール受賞作品集は、六十名の受賞者の優れた作品を収録しています。

皆さんの手書き原稿をデータ入力してくださったのは、日中交流に熱心な日本人のボランティアグループです。代表者の岩楯嘉之先生をはじめ、ボランティアの皆さんの温かいご支援、本当にありがとうございます。皆さんのご尽力により、このように速やかに、中国の大学生、社会人の提言を日本人の皆さんに伝えることができました。素晴らしい日中交流への貢献だと思います。

 

受賞作品集の書名になったのは、最優秀賞に選ばれた曁南大学の陳讌馨さんが、「電子廃棄物汚染から考える日中環境保護協力」という作品で最後に述べた「国家という狭い枠を乗りこえて」日中は協力していかなくてはいけないという部分からです。

 

陳さん、改めておめでとうございます。「国という枠を越えて」とは、どうしても囚われ、縛られがちな問題です。まさに、我々がコンクールを主催する目的であり、我々の日中交流に取り組む姿勢を表しています。日中両国民の心の中にある壁を取り除くべく、今後とも皆さんと一緒に頑張っていきたいです。

様々に困難はありますが、これからもコンクールを続けていく決意です。四冊目の受賞作品集を刊行するときにもぜひ、最優秀賞受賞作文のタイトルもしくは内容を踏まえた言葉を用いたいと思います。ご応募、お待ちしております。

 

なお、本書に掲載しました作文は、最低限の校正しか行わず、日本語として不自然な部分が多少あっても学生の努力のあとが見えるものと考え、残してあります。

 

また、最優秀賞・一等賞・二等賞については学生もしくは学校と連絡をとり、著者近影を掲載しましたが、一部どうしても連絡がとれなかった学生については、写真を載せることができませんでした。以上二点ご了承ください。これから写真を追加して送ってくださる方には、ホームページの受賞者一覧に掲載させて頂きます。よろしくお願い申し上げます。

 

■感謝の言葉■

 

日中交流研究所は、一人の在日中国人が創設した小さい出版社、日本僑報社を母体として運営されています。「石より硬い」という読者評からもわかる通り、日本僑報社は、学術書を中心とした良書を刊行してきましたが、販売部数は決して多くありません。そのため、コンクール開催にあたって、金銭面でいつも力不足を強く感じています。各大学に配布するための大判募集ポスターを制作することもできず、募集要項をA4サイズにまとめ、お願い状と一緒に中国の一五〇校ほどの大学に送るしかありませんでした。この場を借りて、各大学の先生方、大学生の皆さんに心から感謝致します。知名度も、経済力もない、できたばかりの日中交流研究所に、このように大きなご支持、ご協力をくださることに、心からお礼を申し上げます。皆さんのご応募がなければコンクールを続けることは叶いませんでした。

 

作文募集段階においては、多くのマスコミ、日中友好団体機関紙などにも募集案内を掲載していただきました。特に人民日報社人民網日本語版は、第一回コンクールに引き続き、第二回コンクールの特集を掲載してくださったほか、募集案内を長期間掲載してくださいました。陳建軍主編をはじめ人民網日本語編集部の皆さんに心から御礼を申し上げます。

 

また、昨年に引き続き、日本財団笹川陽平会長(著書『二千年の歴史を鑑として』)から温かいご支援を賜りました。その上、作文集に推薦のことばまで頂戴いたしました。厚く御礼申し上げます。

今回のコンクール及び表彰式には、カシオ計算機株式会社、全日本空輸株式会社、中国留学生交流支援立志会、財団法人日中国際教育交流協会からご協賛いただきます。感謝の意を表します。そして、北京在住の小林治平さま、飯塚喜美子さまのご応援にこころから感謝致します。

 

そして、後援いただいた在中国日本大使館、(財)日中友好会館、(社)日中友好協会、(社)日中協会、日中文化交流協会、日中友好議員連盟、日本国際貿易促進協会、中国日語教学研究会、中国中日関係史学会、日中友好読書会、二〇〇七日中文化・スポーツ交流年認定事業に認定下さった実行委員会に心から感謝申し上げます。また、第一次と第二次審査員の皆さまに、改めて感謝申し上げます。

 

ほか、温かい応援を下さった次の方々に心から感謝致します。元中国大使の谷野作太郎氏、前在中国日本大使館公使・広報文化センター所長井出敬二氏、同センター新任所長道上尚史氏、在中国広州総領事館瀬野清水氏、日本財団理事長尾形武寿氏、笹川平和財団の窪田新一氏、胡一平氏。

 

中国側は、曁南大学の陸大祥副学長、陳海権助教授をはじめ、多くの方々にお世話になりました、本当にありがとうございます。それから中国南方航空譚作成日本支社長のご支援に心から御礼を申し上げます。

 

来年も第四回コンクールを鋭意開催いたしますので、どうぞ引き続きご支援ご協力の程よろしくお願い申し上げます。 

 

最後に、「園丁奨」を受賞した大学に拍手をおくりつつ、開催報告を終わりたいと思います。

学生たちの日本語は、指導教官なくしてはありえません。そのため、日中国交正常化35周年にあたる今回から、学生の作文指導に業績ある日本語教師を表彰する「園丁奨」を創設しました。

 

応募があった99校の中から、審査員が検討を重ね、1大学で50本以上の応募があった大学を受賞対象としました。賞状の他、記念品として10万円相当の日本僑報社書籍を贈呈しましたので、新たに「国の枠を越えていく」学生のために、用いていただければ幸いです。

受賞大学は、次の通りです。来年以降も、ご応募下さる皆様、指導教官の先生にエールをおくります。ハルビン理工大学(195)、湖州師範学院(182)、威海職業技術学院(96)、遼寧師範大学(92)、山東大学威海分校(67)、三江学院(62)、西安外国語大学(59)、大連大学(53)、西南交通大学(50)(かっこ内は応募数)

 

(※本文は『国という枠を越えて―第三回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』より転載。『国という枠を越えて』は2007年11月30日刊行。定価1800円、ご注文先はhttp://duan.jp/item/066.htmlへどうぞ)