【本書のあとがきより】 著者の楊中美氏は今まで多くの人物伝を書かれてきた。歴史学者である楊氏は、丹念に史料を収集・分析されるので、著書の信憑性には定評がある。楊氏が書かれてきた人物のほとんどは中国の大物政治家である。たとえば、胡耀邦、朱鎔基、董建華、江沢民、李登輝、胡錦涛、などである。 その楊氏がマカオのカジノ王であるスタンレー・ホー伝を書かれた。「どうして、カジノ王を?」と一瞬目を疑ったが、なるほど著書を読むと、スタンレー・ホーがマカオで最も影響力のある人物であることがよくわかる。 原著は1999年、マカオが中国に返還される直前に台湾で出版され、大きな反響を呼んだ。日本でもマカオ特別区政府が入札を通して3つのカジノライセンスを発行することを公布してから、誰がスタンレー・ホーの他にカジノライセンスを獲得するのか、大変注目され、インターネット上でも騒がれた。結局、第1号ライセンスはスタンレー・ホーに、第2号はラスベガスのスティーブン・ウィンに、第3号は同じくラスベガスのシェルダン・アデルソンに与えることが決まったが、今までライセンスを独占していたスタンレー・ホーが今後どうなるのか、多くの人々が注目している。 これほど注目を集めているスタンレー・ホーだが、日本では彼に関する本は未だ出版されていない。この著書が日本初のスタンレー・ホー伝なのである。 -------------------------------------------------- 目次 序章 神は全くもって公平である 1 賭博好きな人種 2 機を制したカジノ王 第1章 少年は初めて貧乏の味を知る 1 マカオ屈指のお坊ちゃま 2 どら息子目覚める 3 ホー家の再興を誓う 第2章 乱世をゆく 1 幸運の女神がふりむく 2 香港の陥落とマカオの黄金時代 3 日英中ポルトガルのゴールド連合 4 ポルトガル嬢を射止める 5 千金に賭けるものは命しかない 6 イギリススパイを救い出す 第3章 敗戦が続く 1 マカオの食糧供給部長 2 「マカオ王」何賢という男 3 自分の天下をつくる 4 マカオヤクザに負かされる 5 一夜で吹き飛んだ黄金時代 6 乙女心を傷つける 7 マカオを追われる 第4章 「4天王」は賭博独占経営権を奪い取る 1 十年間の臥薪嘗胆 2 マカオの賭博業 3 「鬼王」葉漢という男 4 「鬼王」は賭博独占経営権を狙う 5 「商売王」葉徳利という男 6 賭博独占経営権入札の裏話 7 「四天王同盟」 第5章 命がけのものが勝つ 1 戦いの幕が切り落とされる 2 マカオ史を塗り替える 3 「貴様の命をいただく」 第6章 カジノ王へ驀進する 1 ラスベガスとモナコを学ぶ 2 香港人を食い物にする 3 賭博城「リスボア」に賭ける 4 「鬼王」葉漢との仁義なき戦い 5 「鬼王」葉漢の大往生 6 名実ともにカジノ王になる 第7章 「政治」に巻き込まれていく 1 マカオを裏切る「ポルトガル革命」 2 ケ小平と握手する 3 ガードマンに銃口を向けられる 4 共産党客の財布に手を伸ばす 第8章 カジノ王の世界戦略 1 賭博に国境はない、北朝鮮でもカジノ 2 香港では経営そのものが賭けである 3 世界が舞台 4 中国大陸に猪突猛進 5 台湾資本を巻き込む 第9章 マカオは共産党中国に返還される 1 倭人の首と引き換えに得たマカオ上陸 2 中国とポルトガルの返還交渉 第10章 老身に鞭打つ 1 マカオヤクザの再興 2 跡継ぎ息子をなくしたカジノ王 3 中国主導のヤクザ一掃作戦 4 「マカオ王」の二世はマカオ長官になる 5 共産党は賭博独占経営権を廃止してしまった 6 老身に鞭打って受けて立つ 訳者あとがき スタンレー・ホーの2010年 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ スタンレー・ホーの2010年 4人の妻(本妻は逝去)と17人の子供(長男は逝去)がいるホーは88歳になった。米寿を迎えた今日も健在である。 2009年7月31日、ホーは寵愛する第4夫人の自宅で転倒し、頭を強打して香港の病院に運ばれた。第4夫人がちょっと目を離したすきに起こった出来事だったという。一時は死亡説も流れ、香港のマスコミは連日、見舞いにやってくる夫人たちや子供たちの様子を伝えた。その後、2009年12月20日に行われたマカオ返還10周年記念式典に、突然ホーは車いす姿で登場し、終始笑顔で手を振って健在ぶりをアピールした。その姿に心を打たれた胡錦涛は、自らホーに声をかけ握手をかわしていた。ホーはやはり不死身な男だったのである。 ホーの健康の秘訣は、毎日8〜10時間は必ず睡眠をとることと、毎日スポーツをすることだそうだ。健康補助食品だけに頼ることはせず、朝早くからスイミングをし、週2日はテニスを楽しむという。また、秋から冬にかけては、夜夫人たちの家に通わず、自分の部屋で一人寝をするのも長寿の秘訣だという。 第1、第2夫人はマカオが一夫多妻制を廃止する1970年代前の婚姻なので合法だが、第3、第4夫人は厳密にいうと法律上の保証は一切ない。 最近は第4夫人の家で過ごすことが多いという。1960年生まれの第4夫人の梁安hは、元は広州からマカオに来た出稼ぎ娘だった。ダンスが上手だったため、ダンスができない第2、第3夫人の代わりにホーの相手を務めているうちに恋に落ちたという。彼女は3人の息子と2人の娘を産み、一番小さい娘はまだ9歳だ。 中国共産党は2002年にホーの賭博独占体制を崩し、複数の業者に経営権を与え、競争原理を導入した。ホーは不満をこぼしながらも、老身に鞭を打ちながら、熾烈な戦いに敢然と立ち向かった。大競争が功を奏し、今やマカオの賭博収入はラスベガスを抜いて世界一になった。ホーの事業も大成功を収め、賭博王の地位を不動のものにした。ホーは共産党の市場経済改革に脱帽したという。 ホーは3人の妻と16人の子供たちに、どうやって財産を分けるつもりなのだろうか。後継者には誰を選ぶのか。高齢になった賭博王の進退に注目が集まっている。(訳者記す・2010年4月) -------------------------------------------------- 【著者紹介】 楊中美 1945年江蘇省生まれ。上海華東師範大学卒業。1981年来日し、立教大学で博士課程修了。米ハーバード大学の特別研究員を経て、1989年―1993年まで雑誌『民主中国』の編集長。1994年より現代中国研究センター代表。横浜市立大学、法政大学講師。著書『胡錦涛評伝』『江沢民伝』(蒼蒼社)、『朱鎔基 死も厭わない指導者』『1つの中国 1つの台湾 江沢民VS李登輝』(講談社)、『胡錦涛 21世紀中国の支配者』(NHK出版)などがある。 【訳者紹介】 青木まさこ 1964年神奈川県生まれ。慶應義塾大学専任講師(有期)。訳書『北京人と上海人 攻防と葛藤の20世紀』『胡錦涛 21世紀中国の支配者』(NHK出版)、共訳書『香港回収工作 上下』『中国妖怪記者の自伝』(筑摩書房)、『1つの中国 1つの台湾 江沢民VS李登輝』(講談社)、などがある。 ----------------------------------------------------- 書名:ゴッドギャンブラー(第二版) 著者:楊中美 訳者:青木まさこ 発行日:2010年5月15日 サイズ:四六判、並製 ページ数:200頁 ISBN:978-4-86185-098-1 C0036 定価(税抜):2200円 注文先 http://duan.jp/item/098.html |