平松宏子さん、『「読書」の社会学的研究』の翻訳デビュー体験談を語る

 

 

 

平松さんは大学で中国語を学んだ後、高校で国語教員となり、その途中1年間休職して、母校の大学院で通訳・翻訳学を学びました。2017年には日中翻訳学院「武吉塾」、20182020年は日中翻訳学院「高橋塾」で翻訳を学び、『習近平はかく語りき』(日本僑報社刊)翻訳チーム参加などを経て、現在翻訳を担当されている『「読書」の社会学的研究』(日本僑報社より今年刊行予定)で、翻訳チーム参加者から統括翻訳者に抜擢。分厚い本一冊の担当をするは初めてとなります。

 

以下、平松さんの『「読書」の社会学的研究』の翻訳デビュー体験談の要約となります。

 

■本書――『「読書」の社会学的研究』について

 

中国では1997年から、国民の読書を推進するために全国民読書運動が始まりました。本書は、この全国民読書運動を主に社会学的に考察したものです。筆者自身、この研究を「学際的な研究」と述べているように、メディア学や政治学、経済学、歴史学、心理学、教育学、図書館学等からの観点で述べられたものもあり、内容は多岐にわたっています。当然のことながら、範囲も太古の時代から現代まで、中国のみならず世界各国の現状に触れています。

 

筆者である黄暁新さんは、武漢大学図書館情報学院修士課程修了後、長年にわたり新聞・出版関係の仕事に関わり、現在は中国新聞出版研究院党委員会書記をされています。

 

この本は、読書こそ国のソフトパワーであり、国力を高めるためには読書を推進していくべきだ、という考えから執筆されました。

 

この本は、社会学や読書に関わる研究をしている人、日頃から読書にかかわる図書館の司書さん、学生さん、そして子育てをしている親御さんなど、読書にかかわるあらゆる人に読んで欲しい本です。この本を読むと、読書の力、読書の大切さがよくわかります。ようし、読むぞ、という気持ちが高まります。

 

■「翻訳にあたり」留意したこと

 

翻訳にあたっては、日本僑報社から送っていただいた「注意事項」を順守しました。

 

まず表記について、「武吉塾」入塾の際に購入した『朝日新聞の用語の手引』を調べながら進めましたが、途中から先輩の翻訳者が手記で紹介していた『共同通信社記者ハンドブック電子書籍』も使用しました。漢字かひらがなかの表記に迷ったとき、いちいち本を開かなくても、間違っていれば画面に「注」と警告が出てくるのがとても便利でお薦めですが、もしかしたらソフトの「一太郎」と一緒に使用しないと動かないかもしれません。

 

次に、平松さんは、翻訳の際、同分野の書籍などを参考にして適切な専門用語を使うこと(省略)、「定訳」、日本語訳がまだ辞典にない「中国の新語」、助数詞の訳し方などについて、実例を交えて詳しく説明するとともに、日中翻訳学院の先輩方の訳書や、『中国出版産業データブック Vol.1』(日本僑報社刊)に掲載されている訳語を活用したと語りました。

 

平松さんは、本書が扱う範囲が歴史学、心理学、教育学など多岐にわたっており、誤訳のチェックが大変で、本書によく登場する人物の著作の日本語訳があれば借りてきて対照することもあったと語り、また、「日中翻訳学院」のメールマガジンに掲載されている「先輩翻訳者の体験記」を紹介し、「何かと役に立つ情報がいっぱいです」とコメントしました。

 

■今までを振り返っての諸々の思い――時間軸で

 

「翻訳をしたい」という思いは、大学時代から持っていました。

 

「武吉塾」「高橋塾」で修行を積んでいましたが、一昨年の5月、思い切ってトライアルに応募しました。合格した喜びもつかの間、分厚い本が送られて来たときはめまいがしました。文が長く、内容は複雑、読んですぐわかるものではない! 言いたいことをつかむのにずいぶん時間がかかりました。文が難解でとても苦労しましたが、周囲の方々、特に「中国語の師匠」や娘夫婦にはかなり助けられました。

 

日中翻訳学院の「翻訳体験談」を読むと、皆、「調べること」にかなりエネルギーを注入していることがわかります。たった一つの単語の意味を調べるために、あちらこちらの専門家を訪ねたという記載もあったと思います。(省略)

 

張さんの指示を受け、文章を見直して「中国語を日本語に置き換えただけのわけのわからない文章」を「意味のある日本語」に整える作業を行いました。

 

高校の現代文の授業をイメージし、「まず自分が読んで理解してから、それをわかりやすく伝える」ことを念頭に置きました。自分が理解できていなかったり、伝えようとしても意味が通じない場合は、だいたいが誤訳でした。

 

また、武吉先生は「音読」することで細かい言葉にも注意を払うことが必要だとおっしゃられていました。(省略)

 

現在、第一回の校正が終わったところです。翻訳を「完成品」として提出したはずなのに、いざ紙に印刷されたものを見ると、これでもかというほど修正箇所が出てきました。翻訳と言えば、外国語を日本語にして終わりですが、「翻訳家」の仕事は、その上に「正しく校正する」仕事があるのだということをかみしめています。これは、けっして簡単な仕事ではありません。また、量が多いだけに、見落としがまだまだありそうで、第二回の校正も緊張感を持って進めなければ、と思っています。

 

■その他

 

翻訳を始めるにあたり、「翻訳スケジュール」を提出しなければなりません。これに際し、日本僑報社の方が、こちらのスケジュールを尊重してくださったことに、非常に感謝しています。月1回の進度の報告以外、急かされたことは一度もなく、印刷に進む際も、「私の気が済むまで」待ってくださいました。とてもありがたく思っています。思えば、一昨年の7月に翻訳にとりかかり、平日は1時間、休日で23時間ほどしか確保できない状態で、昨年の今頃は、「一生この本の翻訳をしているのではないか」とすら思っていました。

 

今は二校目に取りかかったところで、校正の他、本の紹介、翻訳者の紹介など、日本僑報社のご担当の方とのやりとりに忙しいこの頃です。「プロになるってこういうことなんだなあ」と今までとの違いをかみしめています。勤務先の高校は中国の生徒も多く、日常的に通訳や翻訳をやっていますし、訳文が出版されたこともありますが、正式に刊行する書籍としての翻訳は初めてで、日本僑報社のご担当者の熱意、よりよいものを作り出そうという熱い思いを感じるにつけ、ミスは許されないと身が引き締まる思いをしています。

 

ゴールが見えてきた今、達成感とともに、一抹の寂しさも感じています。また、次は何を訳そうかとわくわくしている自分もいます。翻訳という作業が本当に好きなんだと思います。

 

ありがとうございました。

 

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