【翻訳体験談】 学術書をいかに訳すか 湖南大学劉舸教授の著書翻訳を終えて 日中翻訳学院・福田 櫻 『中国近現代文学における「日本」とその変遷』は、今中国国内でも勢いのある、気鋭の女性学者・湖南大学教授の劉舸氏が北京師範大学文学博士号取得論文に加筆・修正を加えたものです。 本書では中国の方が見ている近現代の日本イメージというものがありのままに表現され、解説されています。それらは決していいイメージばかりとは言えませんが、真摯に歴史を振り返り、これからの日中関係を前向きに築き上げていく上で、とても貴重な意見ではないかと個人的に思わされた作品です。 中国の方がどのように近現代の日本を見てきたか、という視点から豊富な題材を取り上げています。文化・文学の分野に限らず、中国を理解したいと思う全ての方が読んで決して損のない、新しい視点の本です。 今回の翻訳は学ぶ所がとても多く、その中でも頭を悩ませたのは学術論文をいかに訳すかという問題でした。 私自身文系の論文を訳すのは初めてでした。そこで私が最初に考えたことは、いつも以上に内容に忠実に訳さなくてはならない、ということです。小説などとは異なり、論文は曖昧な表現が少なく伝えたいことを読者の主観に任せることはあまりありません。その筆者の先生の分析と意見を明確にします。 よって翻訳も読者の誤解がないように、正確な言葉で訳さなくてはならない、と思いました。しかしながら正確に、明確にと思って辞書によればよるほど、日本文が片言になっていくという問題にぶつかりました。つまり辞書に載っている日本語訳を並べるだけでは、日本語の文章としては成立しないということと同時に、それは「翻訳本」として及第点をいただけないということなのだと身に染みて感じました。 翻訳をする、ということは中国語に精通することは勿論ですが、それ以上に適切な日本語を選ぶ能力も大いに必要とされるのだと改めて実感しました。 また、今回は翻訳チームで私は統括として翻訳作業にあたったのですが、ゲラ校正から先はほぼ私一人で担当することになり、共訳者の方々が担当された部分も含めた訳文や単語の統一など、様々な苦労もありました。 今回も最後の最後まで日本僑報社の編集部の方々にお世話になりました。特に段景子社長には、文脈や資料、文例を数多く提示頂き、辞書やインターネットなどで調べる際の注意点もご教授いただいたことで、普段気づかない細かい言葉のニュアンスを汲み取ることができました。こうした経験を通してよりよい翻訳ができたことを本当に幸せに思います。実践的な機会とかけがえのないチャンスを与えてくださったことに、この場を借りて深くお礼申し上げます。 訳者略歴、福田 櫻(ふくだ さくら)1988年生まれ。上智大学総合人間科学部心理学科卒業。大連理工大学に語学留学後、半導体関連の中国語和訳に携わる。日中翻訳学院にて翻訳を学ぶ。共訳書に『習近平はかく語りき――中国国家主席珠玉のスピーチ集』、『中国人の苦楽観――その理想と処世術』、『中国近現代文学における「日本」とその変遷』(以上日本僑報社刊)がある。 ◆『中国近現代文学における「日本」とその変遷』 劉舸 著 日中翻訳学院 監訳 日中翻訳学院 本書翻訳チーム 訳 本書は日本を題材にした中国近現代文学(小説、映画、漫画、詩歌など)を研究対象とし、中国の各時期、各地域の日本のイメージの形成と変遷、そしてその過程における大衆の文化的心理について分析を行った初の研究書である。また、中国大陸、香港地域、台湾地域における日本を題材にした中国近現代文学について体系的に比較研究を行った初の研究書でもあり、渡日中国人の日本へのイメージについても力を入れて研究が行われている。気鋭の女性文学研究者が豊富な資料を基に、中国人の奥底にある日本観の全貌をあぶり出すと同時に、中国人の日本観を鏡として映し出された中国人の意識に切り込んだ今までにない意欲作であり、日中関係や中国文化研究の重要な資料として、中国人、中国文化、中国社会を深く理解するのに不可欠な一冊である。 ◆『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』 本書編集委員会
編 日中翻訳学院 訳 本書は中国中央テレビCCTVの特別番組を書籍化した『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』の邦訳版である。vBook(ビジュアルブック)として刊行され、QRコードから習近平国家主席のスピーチ(生声)やテレビ番組の動画を視聴することもできる。 習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想に対する理解を深め、中国古典の名言や中華文化を学ぶ上でも役立つ一冊。 ◆『中国人の苦楽観――その理想と処世術』 李振鋼 著 日中翻訳学院 監訳 日中翻訳学院 福田櫻など 訳 中国人の苦とは何か、喜びとは何か。本書は中国史上の名士たち、それぞれの生き様を考えながら、現代中国のより深い理解を目的としたものである。古くから日本と交流が続いてきた国・中国。その長い歴史を持つ国の苦楽観に注目し、軸としながら中国文化全体を概観する。その波乱の多い歴史の中で、中国人は何を求め、悩み、生き抜いてきたのか。豊富な古文の引用と現代中国人の的確な分析、それらを通して読者は発展し続ける今日の中国の強さとは何なのか、という大きな疑問の答えを見出すはずである。また東アジアに深く大きな影響を与えてきた中国を理解することは、とりもなおさず日本を知ることにもつながる。中国の躍進が続く昨今、己を知り相手を知り、中国人とのコミュニケーションに活用できるヒントを得られる実用的な教養書。 |