『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』

訳 者 の 体 験 談

 

訳者チーム代表 川端 利香

 

 

【日本僑報社発】昨年11月、日本僑報社は『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』(原題『平語近人』)を刊行いたしました。

 

本書は中国中央テレビCCTVの特別番組を書籍化したもので、QRコードから習近平国家主席のスピーチ(生声)やテレビ番組の動画を視聴することもできるvBook(ビジュアルブック)です。中国古典も含めた日本語訳は、専門家からも高い評価を受けました。本書は現在、全国の書店やオンライン書店で好評発売中です。

 

この度、本書翻訳チームの代表として、翻訳作業の中心を担った川端利香さんより、本書の翻訳を終えての体験談が寄せられました。

 

川端さんの翻訳体験談を皆さまと共有したく、主な内容を掲載いたします。是非ご一読ください。

 

 

 

 

■「自分の甘さ」を痛感 書籍翻訳に挑戦して 悶々とした思いに押されて書籍翻訳を志す

 

書籍翻訳を志すきっかけは人それぞれでしょう。私は悶々とした思いに後押しされて挑戦しました。留学や勤務などで中国に滞在した日々は年々遠ざかり、中国語の感度が鈍っていくのに焦りを感じていました。また、仕事の一環で、中国の政策やニュースなどを翻訳したり、関連レポートを書く機会はありましたが、書籍翻訳のように一冊の本として成果が形に残るものはありませんでした。「これではせっかく学んだものを『減価償却』する一方ではないか」「いつか書籍翻訳に挑戦してみたい」。悩んだ末、昨夏、翻訳スキルの向上を目指して日中翻訳学院の「高橋塾」第四期を受講しました。日本語と中国語は発想や視点が異なることなど、「腑に落ちる」ことが多く、苦戦すると同時にやりがいも感じました。受講期間が終わる頃、タイミング良く翻訳者募集があり、思い切って挑戦してみることにしました。

 

■叱咤激励を受けながらの翻訳作業

 

当初、応募したのは別の書籍でしたが、編集部とのやりとりを通じて、『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』の翻訳を担当することになりました。その時、直感したのは「中国共産党総書記、国家主席という政治的に最高位の立場にある習近平氏のスピーチをテーマにした内容だから、翻訳には相当気を使うだろうなぁ」ということ。一方で、「ニュース翻訳には慣れているし、テレビ番組を書籍化した内容だからやってみたい、何とかなるだろう」と思いました。それが「大甘」(おおあま)だったのです。

 

翻訳作業は予想に反して単独で行うことになりました(日本僑報社の張景子社長や編集部の方々は肝が据わっています)。叱咤激励されながら翻訳作業に取り組み、結局、最終校正に至るまで1年以上の時間を費やしました。「自分の甘さ」を痛感しました。

 

最大の失敗は、翻訳のスケジュール管理を厳格にできなかったことです。編集部は翻訳者の自主性を重んじてくれ、原稿や締め切りをうるさく催促されることはありませんでした。一方、私は所属している会社の業務と翻訳作業の二足のわらじを履いたため、翻訳作業の進行に甘えが生じてしまいました。当初予定していた2019年末までにしっかりした初稿を提出することができず、張社長よりお叱りを受けました。

 

■「中国古典」、「最高指導者の発言」、「テレビ番組の活字化」という壁 確認に時間を要し、訳語選びに神経をすり減らす

 

翻訳作業では幾つかの「壁」にぶつかりました。まずは「中国古典」の壁。他の翻訳者の経験談でも触れられていましたが、私も中国古典を専攻した経験は無く、古典を調べ、複数の資料をもとに解釈を検討・確認し、自分の訳語を選ぶのに予想以上に多くの時間を費やしました。今回翻訳した書籍には、孔子の名言のようによく知られたものもあれば、全く馴染みのない古典の一節もありました。そこで、この分野の権威が執筆された「中国古典名言事典」や「中国思想基本用語集」などを読むと同時に、書籍で見あたらないものはインターネットで検索しました。中国語、日本語、双方の解説をあたり、リサーチにかなりの時間がかかりました。一番困ったのが、習近平主席ご自身が詠んだ『焦祐禄を追想する』でした。参考となる日本語訳が見つからず、最終校正まで張社長とともに検討・修正を重ね、念のため北京の出版元にも訳語をチェックして頂きました。最高指導者の作品だけにミスは許されません。とても神経を使いました。

 

次に、習近平主席の発言や中国の政策など、政治的な色合いを帯びた言葉に関しては、張社長や編集部からの指摘を受けて、訳語の選択や脚注の内容を検討し直し、最も適切な訳語を考え直しました。 訳語の選択については、編集部とも相談の上、外文出版社の『習近平 国政運営を語る』(中国語原書は『習近平談治国理政』)の訳語に準ずることにしました。また、今回張社長が私家版として作成していた「キーワード対応表」を利用させていただき、用語の手引きとして活用できたことで大変助かったのですが、今後、可能であればですが、日本僑報社の翻訳者がオンラインで活用できる『用語の手引き』(中国の政治・社会・経済などに関するキーワードと参考日本語訳を収録したデータベース的なもの)があれば訳語選びや訳語の統一に役立つのではないかと感じました。

 

さらに、「テレビ番組の活字化」という壁も。本書はQRコードで書籍の元となったテレビ番組を視聴することができます。これを見て、テレビ番組のテンポの良さや出演者の語り口を殺さずに、なるべく簡潔に文章に訳そうと心がけました。

 

■張社長や編集部の伴走があってたどり着いたゴール 感謝! 特に、張社長の翻訳に対する厳しい姿勢や鋭い言語センスに多くを学んだ

 

最後に、翻訳から書籍化まで、長い道のりを叱咤激励しながら辛抱強く伴走してくださった張社長、編集部をはじめ、関係者の方々の多大なる御協力に心より感謝申し上げます。中でも、張社長の翻訳に対する厳しい姿勢や鋭い言語センスからは多くの学びや気づきを得ました。原書や訳文を確認・推敲した回数は、もしかしたら、翻訳者の自分よりも多いかもしれないと感じています。ミスを出さない、よりよい表現を目指す努力を惜しまない姿勢に感銘を受けました。何より翻訳への愛を感じました。

 

また、夜遅くまで何度も校正原稿を編集してくださった編集部の皆さま、日本語訳をチェックし、問題点を指摘してくださった諸先生方、国家主席のスピーチ集という堅い内容からは想像できなかった優しいピンク色の牡丹の花を表紙に描いてくださったデザイナーの方、書籍化に携わってくださった全ての方々に感謝してやみません。

 

 

日中翻訳学院『中国古典を引用した習近平主席珠玉のスピーチ集』訳者チーム代表 川端 利香(かわばた・りか)