第3回「忘れられない中国滞在エピソード」オンライン表彰式

瀬野清水元重慶総領事のご挨拶

 

 

 

本日は「忘れられない中国滞在エピソード」コンクールの晴れの表彰式、まことにおめでとうございました。このコンクールは今年で3回目ですが、2年前の第1回目は93作品中40人が入賞、去年の第2回目は293作品中70人が入賞しているのに比べると、今回はコロナ禍の影響もあり、219点と前回より応募作品が少ないにも関わらず過去最多の80人もの入賞者がありました。このことは、それだけ優秀な作品が集まって甲乙つけがたかったことの表れと思います。

 

応募作品が減少したとはいえ、今回が前2回と比べて大きく進化している点がいくつかあります。一つは、応募者の居住地が日本の他、中国やフランス、チリといったところにまで、地球規模の広がりを見せるようになったことです。年齢層も9歳から90歳まで、文字通り親子4世代の大家族のような構成で、特に小学生から大学生まで、学生の応募が全体の2割以上を占めており、会社員や主婦などの若い世代を入れると半数近くになるのではないかと思います。このように若い人たちが、中国で体験した優しさや感動など、これだけはどうしても誰かに伝えたいという思いでペンを執ったことは、将来の日中関係に明るい希望をもたらしてくれるものです。

 

今回のコンクールのもう一つの大きな特徴は学生や会社員や主婦に混じって、学校の先生、医療従事者、童話や小説作家、書道家、ネットで中国向けの動画配信をしている若者や一人芝居で戦争の愚かさや平和の尊さを訴え続けておられる女優さんなど、まるで日本社会の縮図のように、様々な分野で活躍している人からの応募があったことです。このコンクールのすそ野の広さと中国という国の懐の深さを感じさせてくれました。

 

審査の結果で、たまたま一等賞とか三等賞とかの区別がつけられていますが、どの作品もかけがえのない素晴らしいエピソードであり、応募者全員が最優秀賞でも不思議ではありません。そのため、読者の皆様には、できるだけ何等賞とかのところは見ないようにして、気になったテーマや作者のプロフィールを参考に、好きなところから読み始めるのが良いのではと思います。どこから読んでも、笑いあり涙あり、新鮮な驚きがあります。

 

例えば、全国に1万4千店舗もある大手コンビニ会社で食品の調達をしている責任者が、初めての訪中で中国の生産現場を見て回ったところ、今までに見た世界の工場の中でも5本の指に入るくらい品質管理や衛生基準のレベルが高かったというエピソードは、中国の当事者が語ったのでは宣伝にしか聞こえませんが、商品を買い付ける日本人の厳しい目を通して語られていることで大きな説得力をもって伝わってきます。一方で2年前に中国の深圳に移住したという青年は「トイレに仕切りのないニーハオトイレとの出会い」や「食事の前に茶碗を洗う文化」に驚いたと言い、深圳のような近代都市でも数十年前の古き中国が残っていることにほっこりとさせられます。マスクを贈ったり贈られたりと、共にコロナ禍を乗り越える中で友好の絆を深めたお話や、青年海外協力隊の一員として日中友好病院で中国の医療従事者と共にコロナと闘った日本人看護師の話は涙無くしては読めないエピソードでした。

 

最後になりますが、このコンクールの主催者である段躍中さんは1996年に日本僑報社という出版社を夫人の張景子さんと二人で立ち上げ、この24年間に300冊を超える書籍を出版しておられます。1冊出版するだけでも大変な労作業ですが、それを300冊以上も出版し、日中の相互理解増進に尽力しておられるご夫妻を私は心から尊敬しています。今回出版された作品集もぜひ一人でも多くの人に読んでもらい、中国のありのままの姿が読む人の心に伝わってほしいと願っています。以上私の感想と希望と段躍中さんへの感謝の言葉を述べて閉会のあいさつに代えさせて頂きます。