【私の翻訳体験談】

『中国デジタル出版産業』訳者の田中京碁さん

――校正作業の方が翻訳よりも大変

 

 

 

 

【日本僑報社発】日本僑報社の最新刊、チャイナ・パブリッシング・ブルーブック『中国デジタル出版産業Vol.1』(張立ほか編著)の共訳者の一人で、日中翻訳学院の田中京碁(たなか・きょうご)さんより、本書の翻訳を終えての体験談が寄せられた。

 

『中国デジタル出版産業』は、中国政府系出版シンクタンクが調査した公的データと、それに基づいた気鋭の専門家による多角的な分析を満載。中国の最も権威性あるチャイナ・パブリッシング・ブルーブックシリーズの注目作だ。

 

訳者の田中さんは、2018年より日中翻訳学院「武吉塾」で学びはじめた。本書が単行本の訳書としては第一作となる。

 

中日辞典や記者ハンドブック、類義語辞典など各種の辞書ソフトをパソコンに導入し、万全の「翻訳環境」を整えたという田中さん。半年以上かけて訳文を完成させたものの、共訳者との訳文の見直し、用語の統一など「訳文を提出してからの作業の方が大変」だとわかったという。その上で、武吉塾で学んだ「原文理解25、検索25、日本語の見直し50」という言葉の意味が、今回の翻訳を通して実感できたと語っている。

 

本書は現在、全国の書店やオンライン書店で好評発売中!

 

田中さんの翻訳体験談は以下の通り(抜粋)。

 

◆『中国デジタル出版産業』の翻訳を終えて――田中京碁

 

■翻訳作業

 

初めて引き受けた出版翻訳で、400ページを超える書籍を翻訳するのは非常に骨が折れる作業で、結局、校了までに1年半もかかってしまいました。

 

まずは原文をタブレット端末に入れて、寝る前・昼休み・通勤電車で読みました。その後、毎日数ページ、週末にまとめて10数ページというペースで日本語に訳していきました。中国語の原文自体は古語や文学的言い回しがあるわけではないため、意味を取るのにそれほど苦労はしませんでしたが、複数の筆者が執筆している論文集だったため、用語の使い方が統一されていなかったり、筆者によってはまわりくどい表現や癖のある文章が結構な頻度で出てきました。日本語として分かりやすい表現にするため、どこまで意訳すべきか迷い、前に進めないこともしばしばありました。

 

半年以上かけてようやく訳文を完成させ、提出したのですが、ほっとしたのもつかの間、訳文を提出してからの作業の方が大変だと知ることになりました。実際に、校正作業の方が翻訳よりも時間がかかりました。自分と共訳者の訳文の見直し、用語の統一、見出し記号の統一、附注内容の確認など、今まで「付帯的」だと考えていた作業がこんなに大変だとは思っても見ませんでした。

 

文章は一晩寝かせると自分の文章も客観的に眺められるようになることは知っていましたが、PCのモニターに映し出されたワードの同じ文章も、印刷モードと閲覧モードの違いでイメージが変わりミスを見つけやすくなり、タブレットに入れて持ち出し、通勤電車やトイレの中など読書環境を変えると、新しい「発見」ができることを知りました。しかし、「デジタル」はしょせん「デジタル」、紙に打ち出されたものにはかないません。ワードの文章校正機能や『共同通信社記者ハンドブック』ソフトのコメント機能も、赤ペンを持って紙に印刷された文書を追っていく作業に取って代えることはできないようです。少なくとも、「アナログ」の教科書で学生時代を過ごした自分の頭は、完全ペーパーレスにはついて行けないようです。皮肉にも、「アナログ」の重要性を「デジタル出版」の翻訳で再認識したことになります。結局、第10校でようやく校了になったのですが、結構な分量の紙とインクを使うことになりました。

 

武吉塾では、「原文理解25、検索25、日本語の見直し50」と指導を受けましたが、今回の翻訳を通して、初めてこの言葉が実感できたような気がします。

 

■翻訳を終えて

 

やっとの思いで本一冊分の翻訳、校正が完了した時には、正直に言って達成感よりも疲労感の方が強かったのですが、印刷・製本された本を手にしたときには、ちょっとうれしいような、むずがゆいような気持ちになりました。

 

現在は、また翻訳の勉強を続ける毎日に戻りました。2年前同様、先生や諸先輩方の絶妙な訳語を目にするたびに、感服するとともに、自分もこんな訳ができる日が来るのだろうかと焦る気持ちが沸いてきます。しかし、一冊の本を訳し終えた今、これまでの自分とはちょっと違う自信のようなものができた気がします。

 

最後に、このような機会を与えていただいた日本僑報社の関係者に改めて感謝したいと思います。

 

◆チャイナ・パブリッシング・ブルーブック『中国デジタル出版産業  Vol.1

張立ほか編著、日中翻訳学院監訳、日中翻訳学院・田中京碁、西岡一人訳

日本僑報社刊

http://duan.jp/item/275.html

 

訳者:日中翻訳学院 田中京碁(たなか・きょうご)

1969年愛知県豊田市生まれ。山東大学に留学、1997年修士号を取得。2018年より日中翻訳学院で日中・中日翻訳の専門的な訓練を受けている。現在化学系メーカーで中国関連業務に従事。