日本僑報社

『尖閣諸島をめぐる「誤解」を解く』が刊行決定

 

著者近影。段躍中撮影

 

 

【日本僑報社発】日本僑報社は5月25日、『尖閣諸島をめぐる「誤解」を解く―国会答弁にみる政府見解の検証をふまえて』(仮題)を刊行することを決定した。

 

日中両国は近年、尖閣諸島(中国語・釣魚島)の領有権をめぐって対立しているが、著者の笘米地真理(とまべち・まさと)氏(法政大学大学院博士課程)は、尖閣諸島の領有に関する政府の国会答弁を丹念に調べ、その主張の時期特定を実証的に研究した。

 

日本政府による「尖閣諸島の基本見解」とは、尖閣諸島は「日本固有の領土」であり、それは歴史的にも国際法上も疑いようがなく、「現にわが国はこれを有効に支配して」いる。そのため「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在してい」ない(外務省ホームページ)とするものである。

 

これを見れば、日本政府が1895年に尖閣諸島を編入する閣議決定を行って以来、約120年間一貫してその主張に変わりはないと、ふつうの人は考えがちだ。だからこそ、中国や台湾の領有権の主張に対しては「石油が出そうになってからの後出しジャンケンだ」という見方が「定説」になっているのである。

 

しかし著者によると、国際法上の「先占」など、尖閣諸島の領有論拠と歴史的経緯に関する日本政府の「物語」が完成したのは1972年になってから。しかも、そこから約20年さかのぼる1950年代半ばには、政府当局者が「尖閣諸島」の島名すら認識していなかったことなどが、国会会議録の検証によって明らかにされている。

 

また著者は、尖閣の領有権を主張する日本政府の論点として(1)1895年1月の閣議決定による編入 (2)日本が一貫して有効に支配してきた「固有の領土」 (3)領土問題は存在しない (4)「棚上げ」の有無――などを挙げ、各論点について「日本政府がいつからそれを主張したか」国会答弁から特定する。

 

政府答弁の中には、1972年に中国が尖閣諸島を彼らの防空識別圏(ADIZ)に含めた際に、防衛庁(当時)が「格別、不都合ではない」と答えていた記録もあった。これは現在の政府の認識とは大きく異なるものである。本書は、国会答弁の膨大な記録にあたり、それらを細かく検証することで、尖閣諸島をめぐる「疑問」や「誤解」を1つずつ解いていく。

 

日本にとって不利となる事実であっても、国会会議録からすっかり消し去ることはできない。「まずは事実を認識し、それを踏まえて冷静に議論することで、日中信頼関係の再構築を」と著者は語る。

 

“尖閣問題”の矛盾点をつきとめ、こじれた問題を解決するためのヒントとして、日中関係の改善と発展を望むすべての人におススメしたい一冊だ。

 

【著者紹介】笘米地 真理(とまべち・まさと)1971年、東京都生まれ。中国・中山大学中退。2014年、法政大学大学院公共政策研究科修士課程修了。青山学院大学法学部非常勤講師等を経て、現在、法政大学大学院公共政策研究科博士後期課程、同大学大学院政策科学研究所特任研究員、日本地方政治学会・日本地域政治学会理事等。論文に「「尖閣『固有の領土』論を超え、解決の道をさぐる」(『世界』2014年10月号)など。