島田晴雄・千葉商科大学学長

湖南大学客員教授就任式で講演

 

 

 

【日本僑報社発】著名な経済学者である島田晴雄・千葉商科大学学長が4月15日、訪問先の中国湖南省の湖南大学で客員教授(工商管理学院)に就任した。

湖南大学で開かれた客員教授就任式に出席し、就任証書を正式に受領したのに続き、「日中両国の経済と日中交流」と題して、「2年前から学び始めた」という中国語でわかりやすく講演した。

 島田学長の講演(抜粋)は、以下の通り。

 

◆「日中両国の経済と日中交流」(抜粋)

島田晴雄・千葉商科大学学長、湖南大学客員教授、「島田村塾」主宰

 

中国は3000年以上の文明史をもつ世界でも最も歴史の長い国のひとつです。また国土もひろく、日本の27倍あり、人口も日本の11倍です。しかも漢民族はじめ56の民族が共存している多様な民族の複合国家です。

 

3000年の歴史には大小合わせると25ないし35の王朝の盛衰がありました。……

今日の中華人民共和国を築いたのは、まさにこの湖南省出身の毛沢東でした。毛沢東は共産党主導による全く新しい社会主義計画経済の国づくりを進めました。

 

1970年代末に国家主席となったケ小平は、思い切った改革・開放政策を進め、海外から積極的に投資を導入して、その後の飛躍的な高度成長時代を実現する契機をつくりました。1980年代から中国経済は30年間近く年平均10%を超える成長をつづけ2013年には日本を抜いて世界第二の経済大国になりました。

 

しかし、中国は2010年代に入ると、労働力制約から賃金が上昇し、大量投資で環境破壊が進み、低賃金と投資と輸出で高度成長をつづけることが次第に不可能になってきました。中国は生産性と技術革新を進め、内需で成長する新しい経済構造に転換することが必須になってきたのです。習近平国家主席は、これを“新常態”の経済と称して歴史的な経済構造の転換に取り組んでいます。

 

新常態の経済では、これまでの経済の量的な拡大を質的な向上に転換するので、その過程では、量的な高度成長時代の後遺症である過剰投資、過剰設備、過剰生産問題も解決しなくてはなりません。それを吸収するために、習近平政権では“一帯一路”戦略を大々的に打ち出しました。その地域の30ヶ国以上の国々に大規模なインフラを整備しようというのです。必要な投資資金を世界から集めるためにAIIB(亜投行)も設立しました。

この大転換が円滑にできるかどうかがこれからの中国の命運を決めるでしょう。

 

他方、日本経済も第二次大戦後めざましい発展をしました。……

戦後はこの(敗戦の)反省から、二度と戦争をしないと誓い、生まれ変わった平和国家として、国民が一丸となって生産にはげみ、敗戦の焼け野原から四半世紀後にはアメリカに次ぐ経済大国となり、“世界の奇跡”と注目を集めました。……

 

日本やドイツの輸出攻勢にさらされたアメリカは1980年代半ばに円レートの大幅引き上げを要求し、円レートはとうとう1ドル150円になりましたが、輸出減少を恐れた政府は財政・金融政策を総動員して経済成長をはかり、アメリカの要求に反する引き締めをしなかったので、バブルが過度に膨張しました。ようやく1990年代なかばになって極端な引き締めをしたため、経済は一気に収縮し、日本経済は“失われた20年”といわれる長期デフレ時代に陥りました。

 

安倍政権はこのデフレから脱却するために、日銀の黒田総裁が”異次元緩和”と名付ける極端な金融緩和を柱とするアベノミクスを打ち出し、その結果、株価が大幅に高まり、企業利益もふえました。しかし、アベノミクスは基本的に短期の政策で、日本が直面するもっとも大きな課題、すなわち、人口縮小と高齢化問題にはほとんど手をつけていません。人口縮小が大きな制約となって経済成長は抑制されます。高齢化の社会的費用はますます増えて税金などの国民負担が高まり、成熟段階に入った日本経済はこのままでは、その持続可能性すら危うくなっています。

 

日本の未来を切り拓くには、全く新しい政策構想と指導者の決断力、そして国民の理解と参加が求められています。

 

中国も日本も、今、経済の抜本的な改革が求められています。それを実現するには指導者の正しい構想と指導力、そして国民の理解と参加が必要です。もうひとつ、大きな要素は国際協力です。とりわけ中国と日本は経済的に、世界でももっとも深い相互依存関係をもっています。市場、技術、投資、労働力、教育など多くの面でお互いが長所を生かして協力すれば、困難な課題を克服する大きな助けになるでしょう。

 

そのためにもっとも大切なことは、お互いが重要な隣国として、互いの国や人々について、歴史、文化、社会、経済、そして価値観などについて良く理解し、相互の信頼を築く努力をすることです。……

 

日本は戦後、40年にわたり、中国人の留学生を総計で200万人ほど受け入れてきました。そのうち少なくとも100万人は日本の大学を卒業し、たとえば、日中の通訳をすることができます。

マスメディアの報道は、中国の対日感情は悪いと伝えていますが、多くの中国人は日本に興味をもっています。段躍中先生はこれまで12年間にわたり、中国全土で若人に「日本語作文コンテスト」を実施して来ていますが、毎年、2000〜3000人の日本に行ったことのない若者が見事な日本語の作文を書いて、それを日本で発表しています。

 

これに比べ、日本からの中国への留学生は総計でも10万人に足りません。日本人で日中の通訳ができる人は1万人もいないでしょう。中国の日本理解も充分ではありませんが、日本はもっともっと中国を、中国人を、中国文化を理解する必要があります。

 

私は大学の学長としても、経営者塾の塾長としても、その大切さを痛感し、72歳の高齢ですが、2年前から中国語の学習をはじめました。今日の講話はその成果の一端ですが、ご理解を戴けたとしたら幸いです。