訪日中国人客に「爆買い」以外にしてほしいこと

―日本人学生からのメッセージ

 

 

 

日本僑報社・日中交流研究所は先ごろ、2016年の第12回「中国人の日本語作文コンクール」(同社・研究所主催)で募集する作品テーマの1つは“訪日中国人、「爆買い」以外にできること”であると発表した。

 

近年日本に急増した中国人客が大量に買い物をするさまは「爆買い」と呼ばれ、今や日本で社会現象の1つと化したばかりか、日本の商工観光にも大きく寄与しているといわれる。昨年末には、この言葉が日本の「流行語大賞」に選ばれたほどだ。

 

しかし中国人客のお目当ては、本当に「爆買い」だけなのだろうか? 「爆買い」以外にも確かな目的はあるだろうし、日本でできることはいろいろとあるはずである。

 

そこで、中国で日本語を学ぶ中国人学生には、日本旅行で満喫したこと、旅行をしたら楽しみたいこと、旅先の日本人との交流など「これからの日中関係発展の一助にもなりそうな、日本観光についての具体的な体験談や提言を日本語でまとめてもらいたい」と主催者は呼びかけている。

 

※募集要項: http://duan.jp/jp/2016.htm

募集期間:5月9日〜5月31日

 

こうした中、日本僑報社の段躍中編集長が講師を務める某私立大学の授業で、日本人学生に対し「訪日中国人に『爆買い』以外にしてほしいこと」をテーマにしたレポートを課したところ、それぞれに特色のある意見が数多く寄せられた。

 

日本人学生の意見は、そのまま日本語作文コンクール応募作の参考にもなると考え、ここに一部を紹介することとしたい(以下、要旨)。

 

『爆買い』以外にしてほしいこと―訪日中国人へのメッセージ

 

◆「マナーを改善してほしい」

 

日本人学生から特に多く寄せられたのは、「訪日中国人にマナーを改善してほしい」という意見だった。

経済学部経済学科のYさんは中国人客の「マナーの悪さ」として、「出発直前まで免税店で大量の土産を購入する『爆買い』で、航空機の出発に遅れが出ていること」のほか、飲食禁止の場所での飲食、行列への割り込みなどを指摘。 

また某学科のSさんは「空港で買った商品のごみを所かまわず捨てる、所かまわず痰を吐く、公共の場所で大声で騒ぎ立てる、禁煙の場所でタバコを吸う、バイキング形式のレストランで大量に食べ残す」などの行為を挙げた上で、ある旅行会社の話として「中国人客が多数宿泊するとの情報から、日本人客の予約がキャンセルされるホテルもある」といった事例を紹介した。

その上で、マナーの改善策についてYさんは「(マナーの悪さを)見た日本人は気分を悪くしている人が多くいる。マナーをしっかりと守って観光してもらえれば日本人も中国人も両者が気持ち良く過ごすことができる」、またSさんは「一番効果的なのはやはり日本についてよく知ってもらうこと。そして守ってもらうこと。それは日本人にも言えることで、習慣が異なることをよく理解して、相手のことを尊重する必要がある」などと文化や生活、習慣における相互理解の大切さを訴えた。

 

◆「交流をもっと増やそう」

 

経済学部金融学科のIさんは、日本のマスコミの中国報道はネガティブなニュースが多く、そのため中には中国に対して悪いイメージを持つ日本人もいると指摘した上で「日中関係が悪いことを知っておきながらお互いを理解しない、いいところを知ろうとしないのはとても残念」だと悔しがる。

そのため「訪日中国人に求めることは『交流』」であり、交流することによって「日本人の良さに気づいてほしいし、日本人は中国人の良さに気づける」。

マスコミの報道についても意見があり、「中国では日本の文化・生活など、日本では中国の文化・生活・良いところなどを積極的に報じ、お互いの印象を良くすることが必要不可欠だ」「日本人が全く知らない中国人との交流イベントや交流会などを積極的に増やし、参加をうながし活発に行えば、自然とマスコミにも多く報道されるようになり、日本人の中国人に対する偏見が多く取り除かれるだろう」と前向きな考えを明らかにした。

 

◆「地方の魅力も知ってほしい」

 

日本では京都や奈良などの観光名所だけでなく「地方観光も楽しんでほしい」と呼びかけるのは、社会学部社会学科のYさんだ。

「(京都や奈良などの)主要観光地は既に活性化しているので、まだ活性化されていない観光地の魅力を中国人に知ってもらいたい。観光客が増えることで、地域経済をより活性化させることにも繋がる。そのためにもまずその地域に住んでいる人々がそこを好きになり、地域の魅力を高めることが必要だ。そしてその魅力を多くの人に発信していくことが大切だ」

Yさんはそう、日本各地の積極的な誘致活動にも期待を寄せる。

 

日本の世界遺産や地方の観光名所とともに「和食」を勧めるのは社会学部メディア社会学科のTさんだ。

「伝統のある『和食』も日本に来たらぜひ味わってほしい。都心で食べる高級料理もいいが、たまには地方の美味しい料理も食べてほしい。『爆買い』で時間がとられ、食事が思うようにとれない光景を何度か目撃したことがある。それでは日本のよい味を味わうことができず残念だ。日本の郷土料理をゆっくり食べてほしい」

 

都心での「爆買い」のみに終わらず、地方観光も楽しんでほしいというTさんは「日本人も、英語と同じく中国語を必修外国語にしたり、中国語表記を増やしたり、まだやるべきことは数え切れないほどある。特に地方は、観光客を確保するためにも変えていかなければならない」と地方活性化のための具体的な提言も寄せている。

 

◆「日本文化の体験を」

 

社会学部メディア社会学科のKさんは、中国人客には品質のよい日本製品を購入するだけでなく、調和や礼儀を重んじる「和の心」に触れるためにも「茶道を体験してほしい」と呼びかける。

茶道は古くから日本人独特の「侘び、寂び」の精神を表す、芸術性と精神性の高い文化として知られてきた。しかし日本で茶をたしなむこと自体は8世紀以降、禅僧が中国から茶を輸入して始まった。

そのためKさんは「こうした歴史的・文化的な関係から考えれば、お茶を愛好する国同士という共通点から日本人を理解してもらう方が良い。訪日する目的に茶道が組み込まれれば、日本人を知るきっかけになる」と日本での茶道体験を提案する。

 

また、同じく「日本の文化を知ってもらいたい」という同学科のYさんも「京都、奈良にあるようなお寺、神社の観光地、他にも茶道や着物などの体験ができるところがたくさんある。中国人向けのセミナーや体験教室を開いているところもある」と紹介。

そのためには「私たちも(中国人客に)心を開かなければならない。わざわざ日本に来てくれた中国人に感謝し、歓迎し、日本文化を伝えていく必要がある」と決意を示した。

 

中国人客に「爆買い」以外に「爆食い」をしてほしいと、ユニークな考えを述べるのは、社会学部社会学科のSさん。

「日本には中国に劣らずおいしい食べ物が多く存在する。特に和食は伝統的な食文化で、ユネスコの無形文化遺産でもある」

和食には刺身や納豆など中国人には苦手な食べ物もあるが、日本の食文化を知った上で、日本に数多くある食べ放題の店で「多くの食べ物を食べ、多くのお土産を買ってもらい、中国人に日本の食文化を伝えてほしい」とSさんは日本ならではの「食べ放題」文化を楽しんでと呼びかける。

 

◆「日本のことを、感想を伝えて」

 

人文学部の日本・東アジア文化学科のSさんは、訪日中国人による経済効果をさらに高めるために、中国人客に「日本で購入した商品をより多くの人々に紹介してほしい」という。

高品質の日本の商品を中国人客が購入して使うことで「注目度が高まり、メイドインジャパンの商品を求めて訪日中国人が増加し、その影響がアジア大陸、ヨーロッパへ波及すれば日本にも大きな利益が生まれる。それによって好景気時代に発展する兆しが見えるのではないか。爆買いを通して、日本製の商品を大事に使い続けてくれたら、お互いに良い関係性が生まれるのではないか」と、中国人客の“発信力”に期待する。

 

同じ学科のEさんも、中国SNSの「微博」(ウェイボー)などを通じて、個人的な体験談や民間レベルの交流を書き込んでほしいという。そうすれば「日本人は残酷な民族」という誤解も解ける。

「日本での異文化体験をSNSを通じて中国に伝えることで、日本のポジティブなイメージが広がり、『爆買い』以外の日本の魅力を多くの人に知ってもらうことができる」と、日本の良いイメージが広がることを望んでいる。

 

一方、同じ学科のOさんは、中国人客と日本の一般市民の間には、実際に交流するチャンスがなく「深い溝ができている」と感じるという。

その溝を埋めるためにOさんは、中国人観光客に「日本に来て、何が楽しかったか、何をおいしいと思ったか」、それを率直に伝えてほしいと考えている。

「中国語で伝えるのが難しければ、しばしば観光地や飲食店においてある『らくがき帳』(感想ノート)に書くのも良い。そうすれば、私たち一般の日本人も中国人に親しみを持つようになり、溝は埋まっていくはずだ。中国人観光客と日本の市民のコミュニケーションを盛んにしていくことが、深まる溝を埋めていくために必要なことではないか」と、訪れたその場で日本人に旅の感想を伝えてほしいと強調した。