中国出版産業の「いま」

22回北京国際図書博覧会(BIBF)に出席して

 

日本僑報社編集長 段躍中

 

 

 このほど中国・北京で開催された国際ブックフェア「2015北京国際書展及び第22回北京国際図書博覧会(BIBF)」(8月26〜30日、中国国際展覧センター:順義新館)に出席し、進化する中国出版産業の「いま」に直に触れてきた。

 ここでは、その最新情報や印象などを踏まえて「中国出版界全体の売上高と近年の推移」「電子書籍市場」「書店店数と民営企業の多角化経営」など、中国出版産業の生(なま)の動向について報告したい。

 

1、中国出版界全体の売上高と近年の推移

 中国の書籍小売業に関するレポート『全国図書小売市場観測報告』(2015年4月号)によると、今年4月の全国リアル書店市場におけるモニタリング定価総額は約6億2600万元(1元は約19円)、前月は8億3500万元、前年同期は5億4800万元だった。

 4月の定価総額は前月より落ち込んだものの、前年同期比では増額していることがわかる。

 一方、4月の全国ネット書店におけるモニタリング定価総額は約8億9300万元、前月は約12億6500万元だった。

 ジャンル別では、前年同期比で医学、経営管理、児童、副教材、文学、学術文化などの市場が伸びたようだ。

 出版集団(グループ)の市場シェアランキングを見ると今年4月、「中国出版集団」が全国第1位で、小売市場シェアの5.49%。また出版社では同月、「人民出版社」が第1位で、同市場シェアの3.88%だった。

 これは、ネット書店における市場シェアランキングでも同じような結果が出ており、同月、出版集団では第1位が「中国出版集団」(同5.25%)、出版社では第1位が「人民出版社」(2.84%)だった。

 リアル書店の市場トレンドを見ると、同レポートにおける4月の総合指数(主に販売総額によるもので、1999年1月の値を100とする)は274.88。前月比で81.91ポイント下降したものの前年同期比で8.71ポイント上昇した。

 レポートによれば、全国図書小売市場はここ数年、わりあいに安定している。ただし1年のうちにも周期的な変動はあり、2〜3月と7〜9月は年に2回の販売ピーク、それに対して4月か6月、12月は販売の閑散期となる。2回のピークは、ちょうど小中高校生の冬休みと夏休みにあたり、中国ではこうした長期休暇中に、子どもの読者を対象として書籍がよく売れることがわかる。

 

2、電子書籍市場

 中国書籍出版社刊の『2014−2015中国デジタル出版産業年度報告』によると、「デジタル出版は今日の出版業において疑いなく、その発展が最もスピーディーで、最も潜在力に飛んだ分野の1つである」という。

 現在、中国には政府管轄する出版社が約580社ある。この580社による出版物は2014年に45万点を数え、総生産は2兆5000億元に達した。また同年末までに国内の大多数の出版社が電子書籍業務を展開しており、同年の電子書籍は25万点超を数えた。中国では2001年に電子書籍が初めて出版されてから、その点数も、売り上げも年々順調に伸びており、2014年までに「デジタル出版収入」が2500億元の大台を突破したという。

 

3、書店店数と民営企業の多角化経営

 中国の売場面積5000 平方メートル以上の大型書店は103 店、1万平方メートル以上の大型書店は26 店を数える。北京図書大厦(ビルディング)は現在、中国最大級の大型書店であり、売場面積は2.5 万平方メートル、取扱図書及びオーディオ・ビジュアル製品は33 万点、約300 万点で、その市場販売額は毎年、中国の書店売上ランキングで第1位、図書販売分野で「販売王」の名誉を独占し、なおかつ北京の「ランドマーク」としてのカルチャー・ビルディングになっている(弊社刊『中国出版産業データブック』より)。

 中国新聞出版総署出版産業発展司の『2011年新聞出版産業分析報告』のデータによると、中国には書店の企業法人(編集プロダクションなどを含む出版刊行単位)が13万1380社あり、そのうち国有企業が1万9446社(全体の14.8%)、集体企業(主に中国の郷鎮=村町=における中小企業グループ)が7028社(同5.4%)、民営企業が10万社余り(76.1%)を数える。

 とりわけ民営企業の多角化経営は目を見張るものがあり、彼らは書籍のみならず、雑誌・アニメ・映画産業などにも進出。例えば北京磨鉄図書有限公司の文芸月刊誌『超好看』、禹田文化伝媒公司の国産アニメ『魔角偵探』などは若者に人気のコンテンツとなっている。

 

4、第22回北京国際図書博覧会(BIBF)に出席して

 北京国際ブックフェア「北京国際図書博覧会(BIBF)」は1986年にスタートし、今年で第22回を迎えた。国内外の出版業の交流と協力を促進する、国際図書総合ビジネスの一大拠点となっている。

 弊社はこのほど開かれたBIBFに出席し、中国側の「中国人民大学出版社」との共催で、弊社の最新刊『中国式コミュニケーションの処方箋』の刊行式と記者会見を開いた。本書は、中国の元政府高官で、メディアと外交のプロである、趙啓正(ちょう・けいせい)氏と呉建民(ご・けんみん)氏による著書『正見民声』(中国人民大学出版社刊)の日本語版だ。

 高名な2人の著者を迎えての式典には、出版関係者のみならず一般参加者も多数集まり、日本の出版物への関心の高さがうかがえた。2人の著者には、「日本語版の装丁やレイアウト、良質な用紙といった制作面はいずれも優れており、非常に満足している」とのありがたいお褒めの言葉をいただいた。中国側出版社からも「今後、制作の見本として活用したい」との評価をいただき、微力ながら日中出版交流の一翼が担えたか(?)と喜んでいる。

 

 BIBFに出展していた中国の各出版社には、日本語ができる中国人スタッフが従来よりも多く見られた。これはおそらく日中出版ビジネス(版権輸出入)の繁栄の表れだろう。もちろん中国側出版業者は日本側とのビジネス拡大を望んでいるが、近年、日本書籍の版権を輸入することが多かった中国側は、今後さらに中国書籍の「走出去」(積極的海外進出)に力を入れようとしている。

 弊社でも今回、中国の著名作家、王蒙氏の代表作の1つ『這辺風景』(第9回茅盾文学賞受賞作)の日本での出版権を正式に獲得した。私自身、日本語版の刊行を大いに楽しみにしているところだ。

 

 日中関係は依然として難しい時期にあるが、こうした時こそ草の根の日中文化交流を深めることが重要だ。とりわけ出版界の努力は欠かせないものだろう。中国の人々は、村上春樹氏、東野圭吾氏の人気小説を通して日本の新しい文学を知ることができた。これからは、現在の日本の社会や日本人の日常を伝える書物を、中国に送り出すことも大切だろう。

 また出版界の対話と交流も、地道に継続していかなければならないと思う。弊社など主催の「日中出版界友好交流会」は来年(第5回)も開催することがこのほど決まった。その際には、日中の出版関係者にぜひとも多数ご出席いただきたいと願っている。 (了)