日中相互理解を支える出版活動 大手メディアも注目

                                  

1020日付けの読売新聞紙面

 

 

領土問題などの軋轢で日中関係の冷え込みが続くなかでも、日本と中国の相互理解を底辺から支える地道な出版活動は、大手メディアでも注目されている。

日本僑報社は、日中の相互イメージに重要な役割を果たすジャーナリストらによる問題提起の書、中国人研究者による日本語学術論文、同社が主催する「中国人の日本語作文コンクール」の受賞作品集、日中の共通財産である漢字文化をテーマとした書籍など、様々な角度から日中の相互理解を促進する書籍を精力的に企画・出版してきた。今年に入って、新聞・雑誌・テレビなどで取り上げられたものを紹介する。

1020日読売新聞の書評欄では、日本僑報社の最新刊『日中対立を超える「発信力」−−総局長・特派員たちの声』を取り上げた。「記者たちが中国の全体像を伝える難しさに苦悩しながら、仕事に向かう姿が浮かび上がる」、「中国問題に限らない優れた報道論」と評価した。

『日中対立を超える発信力』は9月初旬の出版以来、多くのメディアで好評を受けた。特に918日付毎日新聞では、倉重篤郎専門編集委員のコラム「水説:選択的発信力とは」で詳しく紹介した。「反日デモや尖閣問題を正確、詳細にニュース報道する記者としての使命感と、それが日本側の反発を呼び、その報道がさらに中国側を刺激し、結果的に日中間に不信と憎悪の連鎖を作ることのジレンマ」と中国報道最前線のジャーナリストたちのおかれた現状を指摘したうえで、報道の「多様な視点とバランス感覚、そして読者の選択的に読み解く能力」が必要だと論じた。

 また、日本僑報社が力を入れる中国人研究者の日本語学術論文シリーズの中でも、『日本における新聞連載子ども漫画の戦前史』(徐園著)は、従来の日本漫画研究のなかで見落とされていた斬新なテーマと、戦前の全国紙8紙を詳細に調査した熱意が評価された。512日付朝日新聞の書評欄では、評論家の保阪正康氏が「どのような国家意志、日本人の好みや価値観があらわれていたか、平易に説明している。本文中の各種各様のリスト作成の熱意に圧倒される」と述べた。

 今年で9回目を迎える「中国人の日本語作文コンクール」は、不安定な日中関係にも関わらず、およそ3000名の応募者が集まった。毎年出版される受賞作文集も、中国の若者の率直な思いが分かることから、メディアで話題になることも多い。昨年末に出版された第8回作文集『中国人がいつも大声で喋るのはなんでなのか?』は、そのユニークなタイトルも笑いを誘った。224日付読売新聞の書評欄では、宇宙物理学者・東京大教授の須藤靖氏が「日中両国を愛する中国人学生61名が、文化の違いと相互理解・歩み寄りについて、様々な視点から真摯に、かつ生の声で語りかけてくれるのが心地よい」と評した。

同書はまた、122日放送のNHKの番組「クローズアップ現代」でも、「日中関係“草の根交流”」と題して紹介され、受賞した学生たちの声が伝えられた。

日本僑報社が今年出版した本の中でも、特にユニークなのが『日本語と中国語の妖しい関係』(松浦喬二著)だ。日本と中国を繋ぐ漢字文化という観点から、古代から現代までの両国の関係を歴史的に辿った。雑誌『AERA715日号では、「尖閣問題で日中間は緊張が続いている。日本と中国の関係をもう一度、日本語、中国語という言葉、文字の問題にまで遡って検証することで、現在の問題を解決する一助にしたい、との著者の訴えは示唆に富む」と紹介した。

AERA』ではまた、20121210日号でも『新版 中国の歴史教科書問題−−偏狭なナショナリズムの危険性』(袁偉時著)を取り上げている。中国の歴史教科書を批判した袁偉時教授の論文が掲載された雑誌『氷点』が停刊となった事件は、日本のマスコミでも話題となった。

 

『日中対立を超える「発信力」』表紙