公園の日中対話、逆風でも 日曜、気楽に、タブーなく

2013/8/29ニュースソース

日本経済新聞 朝刊

 

 この4月に来日したばかりという学生の劉参さん(23)が尋ねる。「日本では『はだしのゲン』を自由に読めないんですよね?」。話し相手の日本人男性が「そんなことないよ」と応じる。「図書館でも普通に置いてあるし」

「火の鳥がいい」

 暑さのやわらいだ25日の昼下がり。東京・池袋の西池袋公園に中国人と日本人、計30人以上が集っていた。毎週日曜日に開かれる無料の交流会「星期日漢語角」だ。星期日は日曜日、漢語は中国語、角はコーナーを意味する。多いときは日中あわせて100人を超える参加者が集まり、青空の下、気の向くままに世間話をする。

公園に日本語と中国語が飛び交う(東京都豊島区)

公園に日本語と中国語が飛び交う(東京都豊島区)

 「手塚治虫が好き。特に『火の鳥』がいい。小説なら村上春樹、映画は黒沢明」。来日3年目の専門学校生、劉東海さん(26)は日本文化への憧れを隠さない。来月から大学院に進むという陸亜偉さん(22)は「中国より先進的な日本企業の経営について勉強したい」ときっぱり。

外交官らも参加

 参加者のバックグラウンドも話題も様々。タブーはない。「今度、中国人排斥のデモがあるから気をつけて。知り合いにも教えてあげて」。インターネットで見つけた情報をもとに注意して回る日本人男性の姿も。

 会を主催するのは段躍中さん(55)。1991年にジャーナリストとして来日、現在は池袋で出版社を営む。「政治的な関係が難しい時こそ、草の根の交流が大切」。そんな思いで雨の日も休むことなく続けてきた。公園の柱に掲げる目印の旗のあせた色が風雪をしのばせる。

 ちょうど6年前の2007年8月に始まり、既に300回を数える。参加人数は延べ1万2000人を超えた。外交官や研究者らも顔を見せる。会は原則午後2時から5時までだが、スタート前から会話の輪は自然と広がり、終了後に連れだって食事や買い物に出かける姿もみられる。

 段さんは柔和な顔で話す。「とにかく気楽で自由な集まりとして続けていければいい」