日本人ジャーナリストの特別寄稿

2年ぶりの中国、変化の探訪(5)「“七難”隠す?」

 

上海のテレビのバラエティ番組杉山直隆氏撮影

 

 

中国人は「北方人」「南方人」という、地域による気質や言葉の違いの話をよくする。大雑把に言って、揚子江の北と南に住む人の違いだ。日本にも関東人と関西人という味の好み、気質の違いがあるから、不思議なことではない。しかし、日本人の違い以上に、北方、南方の違いは大きいようだ、また大きくなっていると、最近感じるようになった。

今回の2年ぶりの中国の旅で、広州、上海のホテルで地元のテレビを見ていて、違いを実感した。個性の開放というか、自己主張というか、経済の分野のみならず、個人レベルにまで華南の開放は達している印象を強くした。

最近、中国で一種の“はやり”になっているという、“人生相談”番組を見ていたときのことだ。30歳前後の一人の女性が手にハンカチを握り締めながら、年配の女性に「生活を援助してほしい」と訴えていた。若い女性のそばには、もう一人年配の女性がいた。どうやら、小さいころ養女に出された女性が養母とともに来て、それなりに裕福になった生みの母親に援助を求めているようだった。若い女性の顔は、生みの母親とよく似ている。母親は厳しい顔で「あなたに渡す財産はない」と、きっぱり言った。娘はしきりに目がしらをハンカチでぬぐった。

生活に問題を抱えている相談者とその相手がいて、司会者とコメンテーターが双方の話を聞きながら、食い違いを説き明かし、解決策をアドバイスするといった内容だった。しかしこのケースは、コメンテーターもどう二人の間に入っていいか、分からない様子だった。

筆者は、中国語のいわゆる「スーパー」、字幕を追いながら、映像に映るやりとりの大要を理解した。これは経済発展を遂げつつある中国社会を象徴する、一つの断面だと思った。

個人の家庭内の利害問題をテレビに持ち出して話すのは適切ではないという意見もあるだろう。また、テレビ局が仕組んで俳優に演技させているのではないかという、うがった見方もできるかも知れない。しかし、率直に発展の生み出す矛盾を番組にしていることに、開放感と個人の積極的な自己主張を守ろうとするメディアの姿勢の変化を感じた。

また、以前より料理番組の数が増え、料理も個性的で表現も手が込んでいる気がした。娯楽番組の数もぐんと増え、双方10人近い若い男女がそれぞれ精一杯、自己アピールをし、気に入った相手に投票して、カップル誕生を楽しむといった、ほほ笑ましい番組もあった。CMも台所用洗剤、化粧品、栄養ドリンクと生活に密着した細々した商品が増えていた。2年前と比べても、「テレビが変ったな」と思った。市民の生活水準が向上した反映だろうが、内外のニュース番組、専門家の討論、抗日戦争や清朝以前の歴史ドラマの目立った北京などの地味なテレビ番組に比べ、南方人の発展への自信のようなものを感じた。

人生相談番組に関心が集まるのは、矛盾を抱えるのは自分だけではない、という安心感を得たい視聴者心理の側面があるかも知れない。経済成長の陰で、急激な物価上昇、7百万人といわれる仕事を捜す大学卒業生の就職難、国際的に迫られる通貨改革、公式な都市人口の何倍も市内に住んでいると言われる農民工ら地方出身者の対策。つまり様々な問題が同時進行的に起こり、同時進行で解決を迫られるのが今の中国の姿かも知れない。言い換えれば、高度成長期に日本が10年、20年で進めた改革を、中国は5,6年で解決を迫られている。

日本に「色の白いのは、七難隠す」という、昔のことわざがある。色の白い美人は得するといった意味だ。高度成長が七難を隠していたが、バブルがはじけた途端に矛盾が一度に噴き出したのは、日本が経験したところだ。中国、インド、ブラジルなどBRICS(ブリックス)諸国の成長力に、いま世界は期待し、依存している。日本も大局に立った対中、対アジアへの経済振興、交流の積極的取り組みが必要だというのが、今回の私の旅の結論だ。

広州テレビの”カップル誕生番組”の画面杉山直隆氏撮影

 

 

プロフィール

杉山 直隆(すぎやま・なおたか)  

1968年朝日新聞社入社、盛岡、水戸、横浜勤務を経て、東京本社経済部記者。証券、貿易、自動車等機械、銀行、諸官庁取材を経験。思い出に残るのは、伊藤忠・安宅産業など商社合併、ロッキード事件、自動車の対米輸出自主規制交渉、1980年代の円切り上げをめぐる日米金融自由化交渉、銀行の海外進出・再編など。新聞・テレビの連携業務にも携わり、テレビ朝日映像常務を務めた。

神奈川県鎌倉市在住。日中関係のあり方・発展に関心を持つ。