日本で活躍する趙新利博士:中日公共外交の研究に貢献

 

413日の中国新聞網は、日本僑報社の主宰する「中日公共外交研究賞」の第一回受賞作が早稲田大学政治学博士趙新利氏の『中国の対日宣伝と国家イメージ――対日伝播から公共外交へ』に決定したと報じた。受賞作品は4月の初旬に出版され、好評を得ている。中国の察哈尓(チャハル)学会研究員である著者は、412日日本僑報社の取材を受け自らの研究の足跡を紹介した。

 

研究テーマとしての対外伝播と公共外交

現在中国経済は大いなる躍進を遂げているが、ソフトパワーの分野においてはまだ課題を残している。このような時代背景から著者は、対外伝播と公共外交を研究テーマとして選んだと述べている。

著者の趙新利氏は山東省臨沂の農家に育ち、2000年に優秀な成績で西安交通大学に入学した。しかし生活は苦しく、学費は郷里の親戚からの援助で支えられていた。氏は経済的な困難を学習に対する意欲に替え、西安交通大学科技日語専門課程を卒業し、更に修士課程に進んだ。日本語が堪能でメディアと伝播を研究する氏の興味は、中国の対日伝播と日本メディアの中国報道へと向かった。2005年修士課程の2年目でほぼ単位を取得した氏は、中国の対日伝播の主力雑誌である「人民中国」に実習生として入り、一年間対日宣伝の最前線で経験を積んだ。2006年からは西安交通大学と早稲田大学の交換留学プログラムに参加し、研究対象である日本に身を置き研鑽を重ねた。

留学期間中は主に中国に関する日本メディアの報道、及び中国の対日宣伝の歩みと問題点を研究し、『新聞大学』などの学術専門誌に論文を発表した。代表的な論文には『浅議―日本媒体的議程設置与話語覇権』(粗描―日本メディアによる問題設定と言論の横暴)や『網絡環境下的対外伝播与国家形象塑造』(ネット時代の対外伝播と国家イメージの形成)がある。その他中日双方の指導教授の下で中国の対日宣伝の成功例と改善点をテーマに研究した修士論文『改革開放以来中国対日宣伝与国家形象』(改革開放以降の対日宣伝と国家イメージ)があるが、これは今回の受賞作品のモチーフになっている。

 

公共外交の実践―『35号投手温家宝』の翻訳

元々翻訳の才を発揮していた趙新利氏は、『人民中国』誌で実践的な経験を積み、翻訳の技量に更なる磨きをかけた。留学期間中には、日本僑報社の勧めにより『迷道悟道』と『35号投手温家宝』の翻訳を手掛けた。氏の翻訳は高い評価を受け、温家宝首相から直筆サインの入った『35号投手温家宝』が送られた。

 

注目を浴びた『35号投手温家宝』

2010530日、温家宝首相は華人華僑の人々が中日友好に果たした貢献を讃える挨拶をしたあとで、首相の訪日中のエピソードをドキュメンタリー風に描いた『35号投手温家宝』について感想を述べた。温首相はその中で「私がこの作品を読んだのは、2007年の訪日を終え帰国してからでした。訪日中私は立命館大学の学生と野球を楽しみしたが、この交流を実現するために学校関係者や学生さんたちが如何に努力してくれたかをこの本を通じて知りました。また背番号35は中日国交回復35周年に因んでいたことやこの作品の編集に中日双方のスタッフが参加していたこと、加えて中国語に翻訳する際にプロの翻訳家ではなく日本で暮らす同胞を選んだことなど、多くの皆さんのご苦労があったことが分かりました」と述べている。

温首相が話題にとりあげた翻訳者が即ち趙新利氏である。氏は当時を振り返り「訪日中温首相は、野球や早朝トレーニングを通じ多くの日本人と交流し、自ら公共外交を展開しました。首相の気さくでエネルギッシュな『平民宰相』のイメージは、日本のメディアや一般の人々に新鮮な驚きをもって迎えられ、中国に対するイメージによい影響を与えました。対外伝播と公共外交の観点から見ると国家指導者のイメージが及ぼす効果は極めて大きなものです。温首相の訪日は正に公共外交の範を示したものと言えます。私は翻訳の作業を進めながら、温首相に対する敬服の念を禁じ得ませんでした」と述べている。

 

ふるさと山東省で抱いた青雲の志

趙新利氏は20113月、論文審査を経て早稲田大学の政治学博士の学位を取得した。日本では社会科学の博士号は難関であり、通常56年はかかるが、氏は3年で取得している。長い歴史を持つ早稲田大学の政治学研究科は言わずと知れた名門で、博士号取得者への評価は高い。山東省の農家に生まれ、苦しい生活の中から学問を志し、栄誉を勝ち得た氏の不断の努力を讃えたい。

趙新利氏は現今の情勢について「中国の経済成長と国力の総合的な伸張は目を見張るものがあり、世界の注目を集めています。今後中国は内向きにならずに、海外に向けて主体的に情報を発信していく必要があると思います。現在、全国政治協商会議や外交部などの政府機関だけでなく察哈尓(チャハル)学会のような民間団体も積極的に公共外交を展開しています。と述べている。氏は日本での留学生活に終止符を打ち帰国する予定であるが、今後はこれまでの対外伝播、公共外交、政治戦略などのテーマをさらに深く研究するとともに中日学術交流の促進に尽力したいと考えている。(訳・趙憲来)