「中国人の日本語作文コンクール」受賞感想文 一生をかけてやりたいこと ――夢を追い続ける勇気と、つながりの力 周 美彤(九州大学・大学院一年生) 「やはり……留学はやめたほうがいいのかもしれない。」 三年前のある晩、私は両親の会話をふと耳にしました。 経済的な不安、娘を一人で海外に送り出すことへの心配、そして手放したくないという親心。その言葉のひとつひとつが、私の中にあった留学という夢に、静かに影を落としたのを覚えています。 けれど今、私は九州大学の図書館でこうして感想文を書いています。 「もう日本にいるんだ」と自分に言い聞かせるたびに、あの頃の自分との距離の遠さに、ふと不思議な気持ちになります。かつて手の届かない夢が、今では静かに日常の一部になっていることに、時々はっとするのです。 この夢を実現できたのは、安田奨学財団からいただいた奨学金の支えがあったからこそです。ご支援がなければ、私はこの場所に立つことはできませんでした。 2022年5月、大学2年生だった私は、自分の将来に悩み続けていました。芸術大学受験の失敗を引きずり、自信をなくしていた私は、自分に何ができるのか、どうやって生きていくのか、毎日のように考えていたのです。そんな時、親戚のおじさんから突然送られてきたのが、「第18回中国人の日本語作文コンクール」のWeChatリンクでした。 正直に言えば、最初は「こんなの無理だ」と思いました。過去の受賞作品を読んでみると、有名大学の出身者ばかりで、日本人の先生に指導を受けている人も多く、自分とはまったく違う世界に見えました。私の大学には日本人の先生が一人もいませんし、中国語の作文ですら自信がない私にとって、そんなコンクールに挑戦するなんて、とても現実的とは思えませんでした。 そんな時、ふと大学入学以来、毎日のように聴いていたポッドキャストのことを思い出しました。北海道出身の寺岡達矢先生が配信している日本語学習者向けの番組で、先生と奥様の日常会話が中心の、優しく温かいコンテンツです。私はその番組の大ファンで、日本に留学したいという思いも、先生の声と言葉に触れる中で、次第に確信へと変わっていったように思います。 思い切って寺岡先生に長文のメールを送り、作文の指導をお願いしました。まさか本当に引き受けていただけるとは思っていませんでしたが、先生は快く応えてくださいました。何度も添削を重ね、悩みながらも自分と向き合って書き上げたのが、「一生をかけてやりたいこと」というテーマの作文でした。 その結果、私はこの作文で一等賞を受賞し、奨学金申請のチャンスを手にすることができました。先生に送ったあのメールが、もしかしたら私にとって、初めて「本気で書いた日本語文章」だったのかもしれません。 今、私は日本で暮らし、学んでいます。「中国人」としての自分を意識しながら、言葉や態度、行動の一つひとつが「中国の印象」につながることを日々感じています。だからこそ、常に責任あるふるまいを心がけ、「日中の架け橋でありたい」という気持ちを忘れないようにしています。 安田奨学財団のご支援がなければ、今の私はありません。本当に心から感謝しています。そして、二年間という期間は、私にとってはあまりにも短く感じています。卒業しても、どこにいても、一人でも多くの日本人と丁寧に向き合いながら、日中のつながりを育てていきたいと考えています。 あの時、夢を諦めかけた私が、今こうして夢の続きを歩んでいます。 人生は本当に不思議ですが、それはきっと、自分の一歩と、誰かの支えが重なったからこそ起きた奇跡なのだと思います。 この作文コンクールは、そんな奇跡への一歩を踏み出すきっかけになりました。「無理かもしれない」と思っても、どうかあきらめないでください。勇気を出して一歩踏み出せば、きっと新しい景色が待っています。 次は、あなたの番です。ぜひ、これから挑戦しようとするすべての方に、この扉を開いていただけたらと願っています。 第18回中国人の日本語作文コンクール受賞作文集 |