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出版にあたって 段 躍中 (日本僑報社・日中交流研究所
所長) 本年もまた、中国の若者たちが日本語で綴った数多くの作文が寄せられました。ひとつひとつの作品を読み進めると、そこには作者自身の体験から滲み出る率直な感情と、未来を見据える鋭敏なまなざしが鮮やかに刻まれています。どの作品も単なる言語練習の域をはるかに超え、深い思索と確かな表現力を兼ね備えた「作品」と呼び得る水準に達しています。若者が異国の言葉を通じて自らの想いをここまで力強く描き出す姿勢に、改めて大きな感銘を受けました。 今年は、中国の二十八省市自治区にある大学・大学院・専門学校・高校など二百一校から、実に二千三百九十一本の応募が寄せられました。男女別では女性が千六百四十八本、男性が七百四十三本。特筆すべきは、昨年に続き中学・高校・専門学校から二十校以上の応募があったこと、さらに団体応募数が最多となったのは、江蘇省の南京田家炳高級中学(二百七本)であり、これはコンクール史上初めての快挙となりました。今回のコンセプトは「推し活」と日中交流であり、テーマ別の応募数は「推し活で生まれた新しい日中交流」(六百七十九本)、「日本語で伝えたい、私の物語」(千百五十五本)、「先生との出会いが私の人生を変えた」(五百五十三本)という内訳でした。 寄せられた作文の多くは、「推し活」を通じて広がった人間関係や交流の可能性を真正面から見つめ、いまの日中関係を映し出しています。留学生活の喜びや戸惑い、感謝の念や日常の小さな発見、そして家族や故郷への深い想い――それらはすべて等身大の記録でありながら、世代や国境を超えて共感を呼び起こす力を備えています。こうした「生の声」は、教科書や報道だけでは決して伝えきれない貴重な証言であり、読む者の胸を打ち、立ち止まって考える契機を与えてくれます。 今回の成果を単なるコンクールの記録として留めるのではなく、より多くの方々に広く読んでいただきたいと願います。なぜなら、ここに収められた言葉のひとつひとつが、日中両国の人々が互いに理解し合い、未来をともに築いていくための確かな礎となるからです。若者の真摯な表現を私たちが受け止め、共に考えることこそ、草の根の交流を豊かにし、相互理解の輪を広げていく最も確かな道筋にほかなりません。 この成果集が多くの読者に開かれ、若い書き手たちの「声」が社会に響き渡ることを心から期待します。そして、ここに収められた珠玉の作文が、未来を担う世代の想いと努力を証言するものとして、末永く読み継がれていくことを願ってやみません。中国人の日本語作文コンクール受賞作品集シリーズは、すでに日本語学習者の間で大変人気を博し、保存価値の高い書籍として広く読まれてきました。本書もまた、その一冊として大きな役割を果たすことでしょう。 ぜひ本書のページを開き、若者たちが自らの言葉で紡いだ「生の声」に耳を傾けてください。その真摯な響きは、きっと皆さまの心にも深く届くはずです。 二〇二五年十月吉日 東京・湖南会館にて |