第六回

中国人の日本語作文コンクール

開催報告と謝辞

 

日本僑報社・日中交流研究所 所長 段 躍中

 

 

 

日本僑報社の「中国人の日本語作文コンクール」は、今年で六年目を迎えました。この度、第六回「中国人の日本語作文コンクール」が無事開催できましたのは、応募者の皆さんをはじめ、関係者の皆様のご支援の賜物と、心より感謝申し上げます。

今回は、なんと二〇〇〇本を超える作品が寄せられました。学生の部は一〇六大学から二一六五編、社会人の部では二十九編、総数二一九四本(過去最多)の応募がありました。

応募いただいた皆様に感謝いたしますと共に、各学校の指導された先生方に厚く御礼申し上げます。

今回のテーマは、『メイドインジャパンと中国人の生活』です。応募の条件として「日本への留学経験のないこと」とあるのですが、この応募総数からもわかるように、日本に行ったことが無くても、今や日本製品は中国の方にとって、とても身近なものになっていると感じました。

どの作文からも、中国の若者達のまっすぐな思いが伝わってきます。この作文集を読んで、日中両国の相互理解を深めて頂ければ幸いです。心に残る一冊となりましたことをここに感謝致します。

 

■審査の経過

【一次審査】

第一次審査は、日中交流研究所の母体である日本僑報社編集部内で行いました。

審査開始前に、応募要項の規定文字数に満たない、あるいは超過している作品を審査対象外としました。次に、審査対象作品を査読員とボランティアの方が一作品につき、二名以上読み、日本語の文章力五十点、内容五十点で採点しました。そして、二名共に高得点を付けた作品をまず入賞候補とし、どちらか一名が高得点を付けた作品は再度読み合わせをし、複数回にわたって審議した上で入賞候補作品を決定しました。

第一次審査過程において、ボランティアとして、慶応高校非常勤講師張盛開先生、斎藤史先生、`島豊二氏、小泉良子氏、岩楯嘉之氏にもご協力頂きました。あわせてお礼申し上げます。

【二次審査】

今年は次の八名の先生方がボランティアで協力してくださいました(敬称略・五十音順)。

五十嵐貞一  NPO法人中国留学生交流支援立志会 理事長)

岩楯敞広    (首都大学東京名誉教授)

川村恒明    (公益財団法人文化財建造物保存技術協会 顧問)

関 史江    (東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 助教)

谷川栄子    (日本大学国際関係学部 非常勤講師)

塚越 誠    (日中文化交流の会 日本代表)

塚本慶一    (杏林大学大学教授)

山中正和    (財団法人日本中国国際教育交流協会 常務理事)

公平を期するため、二次審査では応募者氏名と大学名は伏せ、受付番号のみがついた対象作文を先生方に配布しました。

本年も審査は難航いたしましたが、二次審査にて上位入賞作文が決定しました。審査下さった先生方に心から感謝いたします。

【三次審査】

二次審査後、得点の最も高い学生に、国際電話による口述審査を行いました。口述審査で得た点数と第二次審査の合計点数を合算して、最優秀賞候補者と一等賞候補者五名を選出しました。

【最終審査】

第三次審査選出した最優秀賞候補者と一等賞候補者五名の作品を北京にある日本大使館に送り、最終審査を行い、日本大使賞受賞者を決定していただきました。あらためて感謝いたします。

 

■賞について

審査に基づき、応募者の中から一〇五名に賞を授与いたしました。(学生の部九十一名。内訳は最優秀・日本大使賞一名、一等四名、二等十五名、三等三十一名、佳作三十名。社会人の部十四名。内訳は一等一名、二等二名、三等七名、佳作四名)

一等賞以上の方々には、最優秀賞と一等賞賞状が贈られ、また、各協賛団体の賞に選ばれた方にも賞状が贈られました。

最優秀賞・日本大使賞(日本一週間招待)  関 欣 西安交通大学

日本財団笹川陽平会長賞(笹川賞)

劉美麟 長春理工大学(学生の部) 

安容実 上海大和衡器有限会社(社会人の部)

中国留学生交流支援立志会(立志賞)      陳 昭 中国伝媒大学  

日中文化交流センター賞(文化賞) 李欣c 北京外国語大学

財団法人日本中国国際教育交流協会賞(教育賞)

碩 騰 東北育才学校(学生の部)

黄海萍 長沙明照日本語専修学院(社会人の部) 

 

■園丁賞

学生たちの日本語は、指導教官なくしてはありえません。そのため、日中国交正常化三十五周年にあたる第三回コンクールから、学生の作文指導に業績ある日本語教師を表彰する「園丁賞(第三回の園丁奨より改称)」を創設しました。

応募があった一〇六校の中から、一大学で一〇〇本以上の応募があった六大学に賞状の他、記念品として十万円相当の日本僑報社発行書籍を、一大学で五十本以上の応募があった十二大学に賞状の他、記念品として五万円相当の日本僑報社発行書籍を贈呈しました。学生のために、活用していただければ幸いです。

受賞大学は、次の通りです。( )内は応募者数。

大連大学(一八九)、湘潭大学(一六八)、浙江万里学院(一六七)、湖州師範学院(一三八)、西安外国語大学(一一七)、北京第二外国語大学(一一四)、長春理工大学(八七)、延辺大学(七六)、華東師範大学(七二)、長沙明照日本語専修学院(七二)、私立華聯学院(六二)、南通大学(六二)、寧波工程学院(五八)、山東大学威海分校(五六)、浙江理工大学(五六)、黒竜江大学(五三)、無錫科技職業学院(五二)、青島農業大学(五一)。おめでとうございます。

 

■今年の特徴と感想

まず、日本語の文章力の高さに驚きました。やはり使用している語彙や、言い回しは、学習年数の長さによって高度になっていくと感じましたが、文法は平均的にみても一定以上の水準を保つ作品がほとんどで、選考はかなり難航しました。

今回はテーマが「メイドインジャパンと中国人の生活」ということで、作品の題材も、車、家電製品(デジカメ・テレビ等)、アニメ(漫画)、料理、日本語など、多岐にわたり、あえて大きく三つにわけると家電四〇%・アニメ四〇%・その他二〇%という割合でした。内容・形式(手紙・ラジオDJなど)も個性にあふれ、比較するのが難しく、また、比較してしまうのがもったいないというのが私の率直な感想です。

身近に接している日本発信の「モノ」にまつわる体験や意見など書いて頂きましたが、題材にしている「モノ」は、「物質(家電製品、漫画等)」であったり、「文化的なもの(言語、マナー等)」など、形は違っても、まずなぜそれが生まれたのか?という日本の歴史的・地形的(「日本は小さな島国の農耕民族なので、村八分にされないよう周りに気を使う」)、気質的(「会社に忠誠を誓うのは昔の武士道の名残である」)背景の考察があり、日本製品を作る際に「細かいところまで気を使う理由」を導き出していました。日本人ではあまり感じることのない日本製品の「細かさ」を知り、日本の外から日本を見ることの大切さを感じました。

また、アニメに関する作品も多く、主人公の生き方(「あきらめない気持ち」)やその友情に共感し、実際に自分の進路や人生の選択に影響を受けたり、友達との関係が改善できたという方もいて、我々の想像を絶するアニメの存在の大きさに驚きました。

そして、両国の発展の為には「過ぎた記憶に拘るのではなく、一番にすべきことは現在と将来を大切にし、貴い平和を守って再び戦争を起こさないように努力することだ」と書かれたかたもあり、歴史から一歩踏み出したこの若者たちが、新しい時代を築いてくれるだろうと、心強く感じました。

全体を通して特に印象に残ったのは、皆さんのメイドインジャパンとの思い出が温かいということです。そしてそれはすでにメイドインジャパンだからというよりは、中国人の生活にぴったり寄り添っているものになっていると感じました。二〇〇〇本を超える皆さんの率直な声はやはり圧巻です。それだけ多くの中国の方が日本に興味をもち、日本について色々考え、作文を書いてくださったというだけでも大変価値のあることだと思います。

日中交流支援機構事務局長の岩楯嘉之氏は、『日本は敗戦後の復興の中で、経済成長に伴い、ものがあふれ「使い捨て」「ものを大切にしない」という消費が美徳と言われた時代がありました。第一次、第二次オイルショックを経験しても、時間とともに「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の喩え通り「ものを大切にする心」が人々の記憶から消え去っていきました。本来日本人はものを大切にする国民であったはずです。今回の作品の中で改めてその記憶を呼び戻し「ものを愛する心」の大切さを思い出させてもらいました。』と感想を述べています。

継続は力なりと申します。この作文コンクールも今回で六回目、毎年ご参加頂いている方や、学生の部から参加して頂いて、現在社会人の部で続けてご参加くださっている方もいらっしゃいます。年々確実に力をつけていっている皆さんに負けないよう、我々も皆さんの成長を楽しみにすると共に、これからも日中交流の活性化に努めて参りたいと思います。

 

■本書の刊行経過

日中交流研究所は、二〇〇五年から日中作文コンクールを主催し、第一回から作文集を刊行して参りました。今回で第六冊目となります。第一回からのタイトルは順に、『日中友好への提言』、『壁を取り除きたい』、『国という枠を越えて』、『私の知っている日本人』、『中国への日本人の貢献』で、これら五冊の作文集は多くの方々からご好評を賜っております。また、『壁を取り除きたい』は、二〇〇六年度の朝日新聞書評委員の推薦図書にも推薦されました。

在中国日本大使館は第一回から後援してくださっていますが、第四回より、さらに日本大使賞を設け、宮本大使にはご多忙のなか、自ら大使賞の作文を審査していただきました。ここであらためて、宮本大使をはじめ、大使館関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。

また、第二回からご支援いただいている日本財団には、今年もご支援を賜りました。誠にありがとうございます。日本財団会長笹川陽平先生の本活動へのご理解とご支持に御礼を申し上げますとともに、遠方の開催地にもかかわらず、毎年表彰式に出席していただいている日本財団理事長尾形武寿先生にも感謝を申し上げる次第です。

そして、大変厳しい経済条件のもとで本活動を六回続けてこられましたのも、ボランティアの方々の支えによるものです。本当にありがとうございました。

このコンクールに留まらず、メイドインジャパンのものが長い年月をかけて中国に受け容れられるようになってきたように、日中の関係も、融和の心で結ばれた温かいものとなることを祈りつつ、この小さな架け橋を未来に繋げていけるよう、我々も頑張っていきたいと思っております。

なお、本書に掲載いたしました作文は、最低限の校正しか行わず、日本語として不自然な部分が多少あっても、学生の努力のあとが見えるものと考え、残してあります。ご了承ください。

 

■謝辞

本書を出版するにあたり、いつも多くのお力添えをしてくださいます、各団体、個人の皆様へ心より感謝の意を表します。

【特別協賛】日本財団

【協賛】日中文化交流センター、北京BP投資コンサルティング有限公司

【協力】中国留学生交流支援立志会、(財)日本中国国際教育交流協会、中国日語教学研究会、世研伝媒中日伝播雑誌社

【後援】在中国日本大使館、人民日報社人民網、日中友好会館、日中文化交流協会、日中友好議員連盟、日中友好協会、日中協会、日本国際貿易促進協会、日中経済協会、中国中日関係史学会、中国日本友好協会、財団法人霞山会、財団法人経済広報センター

 

また、ご協力いただいたにもかかわらず、失礼ながら今回お名前を挙げることができませんでした多くの先生方へも、この場を持ちましてお礼の言葉とさせていただきます。

                               

                    二〇一〇年月十一月吉日

 

 

(日本僑報社『メイドインジャパンと中国人の生活』より転載)